「社長対話」で会社は変わる?!
トップが直接現場社員と意見交換、それが「社長対話」
小泉流では「国民対話」。一般企業では「社長対話」と呼んでいる。社長が職制を飛び越えて、直接現場の社員と意見交換するという手法だ。しかしただ社長と社員が「対話」すればいいというものでもない。
「社長というのは、就任すると部下との『対話』をやりたがるものなんです。すると会社の総務や人事で、そんな場面でのセッティングを得意とする対話屋という担当がいて、あたりさわりのない人を選んでセレモニー的にやってしまう」経営コンサルタントの北村三郎氏はパフォーマンスとしての社長対話は無意味だと厳しく指摘する。同氏は10年前、いすゞ自動車で約70回近い社長対話を実施し企業風土改革に取り組んだ経験を持つ。北村氏によればセレモニーや社長の独演会に終わらせないための「社長対話」の最も有効な形態は8人以内の人数で2時間。しかも「自由参加」が望ましいという。その上でできるだけ多くの社員と質の高い対話を行うためには回数を多く実施することになる。これは社長にとって大変なエネルギーを必要とする。また対話の場が直訴や密告の場になってしまってはいけないし、そこで提起された問題点の解決はできるだけ、既存の組織制度の中でじっくりと浸透させる必.要がある。「社長が現場の情報を得るで一番緊張するのは中堅管理職。社長対話の効果はそれで組織が引き締まることなんです」(北村氏)おろそかにはできない風土改革に有効な手段
企業改革で一番時間がかかるのが風土(文化)改革だ。機構改革やコストダウンなどの分野は即効性があるように見えるから、手をつけやすいが、風土改革は成果が見えにくいから熱心な経営者は少ないという現実がある。しかし、風土改革をおろそかにしていると、昨年の雪印乳業の食中毒事件や三菱自動車工業のリコール隠しという不祥事のように、企業そのものの存続にかかわるようなダメージを受ける事態を招くことになりかねない。その風土改革に有効な手段のひとつが前出の「社長対話」だといわれている。
「対話」による風土改革こそが本当の意味での「リストラ」に
三菱自動車では「社長対話」を再建計画のプログラムのなかに取り入れている。それはどのようなものなのか。三菱自動車では昨年11月から園部孝社長の新体制化で「コーポレート・チェンジ・チーム」が編成された。100人近いメンバーが全社から選抜されて約5ヵ月で改革案を練り上げた。「社長対話」の構想はその中の企業文化チームから生まれた産物である。
三菱自動車流「社長対話」の第1弾は4月4日から東京本社を皮切りに各地の生産現場と有力販売拠点を園部孝社長、ロルフ・エクロート副社長らが巡回して直接経営方針を説明し現場の声を聞くというもので、「ロードショー」と名づけられた。本社で開催された田町ロードショーでは450人の社員が集まり、質疑応答は予定時間を大幅に延長するほどだった。注目すべきなのは、より小規模の「イブニングトーク」という集会。本社の若手社員以外にも、関連会社、販売会社から22名が参茄して実施された。中間管理職は参加せず、若手と社長、副社長ら3人のトップが膝を交えて意見交換したばかりか、フリートーキングタイムも設けられ、参茄者がそれぞれ話したいトップの周りに輪をつくるという光景も見られたという。
このイブニングトークは好評で7月末にも開催される予定だ。
ダイエーでは「トップと従業員のベクトルあわせ」をテーマにトップが今年3月から1カ月間かけて全国7つの地域とスーパーマーケット事業本部を回り、それぞれのブロックの店舗マネージャー、バイヤースタッフのべ6000人に対して高木邦夫社長、平山敵副社長が直接、経営方針を説明する「相互確認会」を実施したほか、「店長と本音を語る会」約600名のパート従業員に対して「パートナーと語る会」などを開催、現場の意識改革に取り組んだ。
伊藤忠商事では、「給料ゼロ」で就任した丹羽字一郎社長の改革が注目されているが、ここでも「社長対話」が取り入れられている。例えば社内ネットで「社長メッセージ」が配信され、それに対して社員一人ひとりが社長個人にメールを送ることができるシステムは丹羽社長によって導入された。さらに全社員総会が今年の5月27日から6月17日までの毎週日曜日に開催された。これは海外駐在員まで含めた分野別の7つの事業体ごと、平均300大規模で行われた、直接対話を目的とした集会である。半年間で40回も行われたいすゞ自動車の「社長対話」
いすゞ自動車の場合は、他社に比べて社長対話の手法がほぼ確立されている。昨年12月、井田義則新社長が就任し、今年に入ってから半年間で約40回もの「社長対話」を開催しているのだ。おそらく現在これほどの熱心さで「社長対話」を実践している会社は他にないだろう。同社では「対話集会」と呼ばれ、中堅幹部、若手社員といった階層別から営業、生産といった業務別まで様々なバリエーションで行われているのだが、その多くが6人前後の小規模で実施されている点が特色だ。「10年前の改革は旧体制を一新させるような急激な面もありました。
今回の「対話集会」は現場とのコミュニケーションに重点を置いています」(いすゞ自動車広報部部長・小屋畑廣美氏)
経営危機に陥る前に、こうした風土改革に取り組む企業はまだ少ない。非情な人員整理だけでなく本当の意味でのリストラのあり方がこの「社長対話」から見えてくるのではないか。コラム
小泉流「改革」に大衆不満の吸い上げ術を見た白熱するタウンミーティングの現場
タウンミーティングという言葉は、米国の地方議会などで昔からおこなわれている全住民の直接参加による議会から生まれたものという。新しい政治手法として注目されたのは、クリントン大統領が、それまでのホワイトハウスの政治手法を変えるという姿勢を国民にアピールするために展開した対話戦略がタウンミーティングと呼ばれたことから。小泉政権では6月16日の鹿児島市を皮切りに毎週土日に複数の閣僚が出席したタウンミーティングが全国の主要都市で開催されている。所信表明どおりであれば11月まで全国を巡回しての直接対話集会が実施されることになる。本誌は6月30日にさいたま市で開催されたタウンミーティングを覗いてみた。出席した閣僚は森山真弓(法務大臣)、尾身幸次(沖縄及ぴ北海道政策担当大臣)、松田岩美(経済産業副大臣)の3氏。会場は約500人の参加者で満席状態。質疑応答時間が設けられていたが、予定された時間内では数人しか質問できないことは明らか。
会場に不満の空気が漂っているのを敏感に察知した尾身氏が「質問がある人は、全員並んでください。回答できる時間はないが、全部聞いていきます」と発言したことから、50人近くが並ぶことに。終了時間は大幅に遅れたが、参加者はどこか満'足そうだった。これも「直接対話」のひとつの効果なのだろう。
週刊「宝島」平成13年8月8日号
■トップページに戻る ■