いすゞ自動車
三重苦ーほど遠い赤字脱却への道
いすゞの危機は不況期に立ち上がった米国工場の不振、売れない国内乗用車、さらに膨 らみ続ける排ガス規制開発費の負担という三重苦にある。
いすゞは本当に大丈夫なのだろうか。91年10月期の赤字額はなんと490億円に達することが確定的になっている。苦戦する日本の自動車メーカーのなかでも、これは突出した赤字額なのだ。おまけに今92年度も赤字からの脱出がまず不可能な状態にある。
社長の座を関和平副社長に譲ることがほぼ確定的となった飛山社長も今回の赤字は相当こたえた様子だ。
「昨年度と比べ、車が7万台以上ダウンしてしまった。米国での在庫調整、生産調整のダブルパンチに、タイでのトラック販売不振が加わったためだ。こんなに減ってはどうしようもない」(飛山社長)と深刻な表債を隠さない。
確かに、トヨタ、日産の大幅減益に象徴されるように日本の自動車メーカーは軒並み日米での販売の不振、かさむ労務費、開発費に音を上げているのは事実なのだ。しかし、いすゞの大赤字の背景には他社とは異なった限界企業が抱える構造的な苦しみがある。助けきれないGM
世界で毎年800万台を売りさばく自動車メーカー、GMはいすゞ株の37%を握る筆頭株主だ。すでにこの両社が提携関係を結んで、20年が経過した。
そして、今回のいすゞの危機である。同じく赤字に苦しむ富士重工が日産からマーチの委託生産を受けて黒字化浮上にメドをつけたようにGMがどういう支援策を考えているのか、関心が集まっても不思議ではなかった。
しかし、GMから役員派遣は検討されているものの、支援策は依然はっきりしない。
この20年間に、両社が築いた関係性はGMが世界戦略的にみて弱い分野の自動車、部品をいすゞが供給するというものだった。
言いきってしまえば、いすゞはGMのサプライヤーの一社にすぎない存在なのだ。
こうした緩やかな関係性からか、結局いすゞ側も、「いろいろとGMには注文したいこともあるが、結局、再建は自分たちでやらなければならないものだ。他力本願では体質は良くならない」(飛山社長)と、自力再建の覚悟で臨んでいるようなのだ。
一方のGM側も、「家族のなかのことなので、あまり話したくない。ただ、言えることは、今後はいすゞと車だけでなく、トランスミッション、エンジンの供給などで、世界的なつながりを持っていきたい。われわれにとって、いすゞが優秀なサプライヤーであることは今も変わりがない」(GM・ジョン・F・スミス副会長)と、そのサプライヤー性に注目するばかりである。
実際、いすゞの赤字をGMが取り除くことは容易ではない。例えば、この分野から撤退さえすれば、いすゞはすぐにでも超優良会社に変身するとまで言われている最大の“お荷物”の乗用車部門を考えればよい。
ジェミニを主力とする同社の乗用車販売台数は国内販売、輸出を含め、12万9000台しかない。ペイラインの15万台に遠く及ばないのだ。
そのうちGMが年間に販売するジェミニ(現地名GEOストーム)の台数は全生産量の70%以上の9万台に達している。販売貢献度は非常に高いのである。
GMは今年になって、2000CC以下の小型乗用車サターンを初めて市場に投入したが、それまで小型乗用車を持たなかったためにジェミニがGMの小型戦略車として、重宝されてきたとも言える。そして、今なおGM向けジェミニの供給数量は圧倒的に不足しているのが現状だ。
GM最大のディビジョン、シボレーの全米販売店5000店のうち、GEO販売店2000店の販売力で台数の少ないジェミニはアッという間に販売されてしまうからだ。
それならばジェミニの輸出台数を増やせばいいようなものだが、輸出規制枠があって、それも無理。自動車メーカーごとに決められた対米輸出枠があり、いすゞの枠は12万台強と言われる。いすゞは他にRV(レクレーショナル・ビークル)を輸出しており、これ以上ジェミニの輸出を増やせないのである。
一方、GM支援のもと、欧州でジェミニなど乗用車販売を増やすこともできない。
欧州にはGMの100%子会社アダム・オペル社が存在し、乗用車の製造・販売を手掛けている。いすゞにとっても部品を買ってくれる得意先のひとつで、欧州に乗用車を輸出すれば、立ちどころにこのオペル社と激突してしまう。
結局、乗用車部門を黒字化させるには、国内ての販売を増やし、操業度を上げるしかないのである。乗用車へのこだわり
いすゞが乗用車事業を自力で採算化させるには、最低でも年間15万台の生産量が必要だ。現在、輸出はGMへの9万台の供給を含め、10万台規模。そうすると残り5万台を国内でさぱく必要がどうしてもある。現在の販売台数が月3000台だから、あと月1000台伸ばさなければならない。
6月にまとめた再建計画のなかで、いすゞの首脳が経営の大目標を「3年目(93年10月期)の営業利益黒字化、商業車、RV、乗用車の三本柱継続」とし、販売拠点のリフレッシュに400億円を投じる計画を組み入れたのも、月1000台増の乗用車販売立て直しを大きな宿題とみたからである。
一方、乗用車生産に最後まで、こだわるもうひとつの事情もある。
「乗用車は単独事業ではない。RVなどコンポーネント部品では共通なところもある。さらに今後を考えるとノックダウン輸出は増えるが、完成車輸出増は難しいかもしれない」(飛山社長)という背景である。つまり、乗用車生産をしているお陰で支えられてきた部品供給能力を温存したいという考え方だ
実際、いすゞの事業のなかで唯一、エンジン・コンポーネント、部品などKDセットだけが快走を続けている。台数換算にして前91年10月期に16.8万台にのぼる量がさばけ、今92年10月期にはこの分野が25%増の21万台に拡大する見込みにある。
これは金額にして91年度で1417億円。数量と同じ伸び率でみても92年度1800億円にしかならない分野だが、今後も売り上げ増が期待でき、いすゞとしても手放せない事業である。
すでにオペル社のアストロ向けに1.7リットル新型ディーゼル・エンジンの供給も決定しており、月4000〜5000台のペースで新規輸出が始まろうとしている。
GMにしても、いすゞからの輸出規制枠がある現状では、こと乗用車部門で協力できるのはコンポーネント分野の拡大に絞り込まれてしまうだろう。しかし、コンポーネント事業の利益だけでは乗用車部門の赤字を補い切れないと言っていい。不況期に稼働の米工場
乗用車事業の地獄、そしてそれに追い打ちをかけたのが米国SIA工場の赤字操業だった。SIAは、富士重工が51%、いすゞが49%の出資で87年3月に設立された。89年9月から生産を開始し、最大生産能力は両社で年24万台にのぼる。ちょうど、米国の自動車販売が下降線をたどるのと同じ時期に立ち上がり始めたのが、不運といえば不運だった。
両社で最大年産24万台の能力を持ちながら、いすゞのこれまでの生産台数は月5000台ペース。年間でも6万台にしかならず、最大能力の半分の水準でしかない。
完全な赤字操業で、いすゞだけでも100億円の純損失が発生する。91年10月期連結決算ではいすゞの純損失が700億円に膨らんでもおかしくないほどの痛手である。
さらに米国がリセッションに突入したことから、作っても売れない時期が続き、気がつけば米国の流通在庫は五カ月分にまで膨らんでいた。
販売インセンティブをつけるなどして、必死に在庫を削減。現在、流通在庫は3カ月分と正常化に向かいつつあるがいすゞの支払った代償はあまりに大きかったといえる。
加えてこの10月からはペイラインの月産7000台にまで引き上げたはものの、その泥をかぶったのが、いすゞ本体からの輸出分だった
SIAが操業する前まで、いすゞは米国輸出分として、1トンピックアップトラック、RV、乗用車を月に8000台輸出していた。ところがピックアップ、RVはSIAの生産に切り替わったために、米国への輸出規模が半減。
さらに今回の10月からの増産措置で、1トンピックアップの輸出はなくなってしまう事態に突入しようとしている。
結局、SIAを赤字から救い出すために、輸出を抑えたわけだが、全世界的な景気後退のなかで本社の輸出減の穴埋めを他国でできない事態に突入してしまった。排ガス規制開発の負担
乗用車は国内販売が不振、北米事業の赤字。これにとどめを刺すのが、トラックの排ガス対策のための研究開発費の増加である。
いすゞの利益を一手に引き受けてきたトラック部門に新たな負担が発生しているのだ。大気汚染防止法の規定に基づいて、道路運送車両の排ガス量の許容限度が大きく規制されるためだ。
とりわけ、94年10月が適用時期となる2.5トン超のディーゼル車の窒素酸化物削減率は17%という厳しさだ。
2トン、4トン、10トンクラスと、すべてのトラックが94年までには新車に置き換わってしまうのと同じ負担である。
お陰で5年前に340億円だったいすゞの研究開発費は、600億円を上回る水準となる。いすゞだけでなく、かさむ開発費に日野、日産ディーゼルも大幅減益に陥ったほどだ。
今後も赤字だからといって開発費を削るわけにもいかず、研究開発費は93年度まで増え続ける。まさに、いすゞの収益状況は三重苦の世界にあるといっていい。
10月の東京モーターショーで、飛山社長は「乗用車からRV、小型トラック、大型トラック、バスなどを生産する総合自動車メーカーでございます」と誇らしく挨拶したものだ。
大手に伍して、限られた資本で乗用車からトラックまで生産する総合自動車メーカーとして戦っていく決意と言っていいだろう。その道が芳しくなかろうとも6月に立てられた再建計画でも、そのことは確認されたばかりだ。
しかし、その根底には乗用車へのこだわり、総合自動車メーカーとしての誇りが、不況期になると経営の矛盾として見え隠れする体質がある。そして、今回の三重苦だ。
「一見、こわもてには見えるが、人間的にはいい男」(飛山社長)と評され、GMとの提携で手腕を発揮してきた関副社長が、新たな舵取り役になったとしても、赤字脱出の道はなお遠いとしか言いようがないのである。
ただ救いなのは、一勧などの各銀行側がGMの協力を前提に協力する姿勢を続けていることと、いすゞの持つ豊富な資産の存在だろう。(藤原康延記者)