労働組合の体質改革は緊急の課題
私はいすゞ自動車に在職中、8年間にわたって風土改革に取り組んだことがあります。当時の経営陣が導入したTQCが形骸化してしまい、デミング賞の受審のために社員は休日を返上して「つじつま合わせ」の資料づくりなどに追い込まれていたからです。
管理職が社員に「いじめ」をしてサービス残業を強いるという職場の荒廃もありました。労働組合はこのような現状の改善を会社に申し入れることはありませんでした。社員の中にノイローゼになる人が出たのは見過ごせない問題だったと思います。困り果てた組合員が労働組合に相談しましたが、まともに取り上げてもらえませんでした。労働組合を第二人事部だと思っている組合員もいました。
私は20歳代の後半に全国自動車労働組合連合会の中央執行委員をやったことがあります。私は労働組合には企業とは違った使命と役割機能があると確信していました。ですから労働組合が組合員の相談相手としての役割を担わないのなら私が会社の中に「駆け込み寺」をつくろうと思いました。これが風土改革に立ち上がったひとつの動機です。人事部門の窓際部長のポストに就いた私は「どんな相談でも応じます」というパンフレットをつくって、その存在をピーアールしました。次第に電話がかかってくるようになり、現場に出向いて相談にのっていました。相談内容は一身上のこと、職場への不満、退職後のことなど、多岐にわたっていました。この体験を通じて私は現場の人々のホンネに少しは触れることができたと思っています。
その後、私はいすゞ自動車を退職し「人と情報の研究所」を設立、多くの企業の風土改革に関わり現場の人々と対話を続けてきました。そこで再確認できたことのひとつが、労働組合が組合員のニーズに応える存在から大きく離れてきているという事実です。組合員のほうも組合費が給与から天引きされているので、税金を払っているのと同じ感覚なのでしょう。組合員が組合の体質を変えようという意識はほとんどありません。もっと恐ろしいことは組合役員も同じ感覚だということです。自分たちが努力しなくてもカネが入ってくるシステムは組織を腐敗させるのでしょう。
右肩上がりの時代は労使協調路線のもとで、労働組合は拡大した収益のパイの分け前にあづかるという機能を果たしていましたので、組合員もそれなりに納得していたようです。
今、労働組合は環境の激変をまともに受け、賃上げはおろか本来の使命である雇用の確保もままならなくなりました。そこで一部の労働組合は組合費還元のつじつま合わせから、ハイキングやパーティーなどを企画するイベント屋に成り下がっています。問題意識のある組合員は専従組合役員の人員削減を望んでいますが、なかなか実現しません。
このような労働組合の弱体を招いている原因の一つは上部団体が労働運動の改革の方向性を示していないことにあるようです。産業別労働組合の運動方針には絵に描いた餅はあっても、それを実現する道筋が示されていません。上部団体も組合費の上納金システムにあぐらをかいているようにみえます。
そこで私は提案したいことがあります。21世紀に向けての新たな労働組合の使命、役割、存在意義といったものを個別の労働組合の執行部が自ら考えて提案し、職場で討議したいのです。そして上部団体の指導に依存しないで、自らの組織を守るために自己改革を進めることです。提案する内容は高度成長時代のものとは大幅に違ったものになるでしょう。労働組合と企業では目指す山の頂上は同じであっても登り方は大きく違うはずです。今までの労働運動の常識を転換させて新しい時代にふさわしい労働組合の使命、役割機能を明確にすることができれば、労働組合の存在価値は認められるようになるでしょう。
例えば、会社は社員を管理の対象(集団)とみているのに対し、組合は組合員を相談相手(個人)とみる。会社は企業人としての成長を期待しているのに対し、組合は人間としての成長を促すことにする。会社は結果を求め、見えるものを指向するが、組合はプロセスや考え方など見えない部分を大切にする、などなどです。このように労働組合の使命、役割機能を土台から見直すことができれば、それを実現するための方策、道筋がみえてきます。労働組合が役割をしっかり果たしていけば、企業組織のバランスが保たれ組織の健康度が維持されます。
いくつかの先進的な感覚を持つ労働組合は自ら主体的に体質改革運動に取り組み始めました。労働運動も中央集権から地方分権の時代に変わってきたのを感じます。■トップページに戻る ■