この記事は北村三郎からの取材をもとに「経営システム」に掲載されたものです。


組織風土の改革

新しい視点

 組織風土は、企業文化、社風などいろいろな言われ方をするが、知らず知らずのうちに組織構成員の考え方や行動様式を規定しているもので、暗黙のルールとなっているものを意味する。これは企業の体質をつくりあげているものでもあり、一朝一夕にはなかなか変わらないものである。

 組織風土を改革したいと願っている経営者は多い。たとえば、チャレンジを恐れない社風にしたい、人が育つ企業文化をつくりたい、一人ひとりが主体的に動く会社にしたいなどである。そのために今までさまざまな試みが行われてきた。ほとんどの経営改善活動は最終的には組織風土の改革を目指しているともいえる。

 組織風土とはどのようなもので、それを改革していくためのポイントは何かを考えてみたい。

 なお、今月号では「改革するにはどうしたらよいか」という方法論を中心に展開した。一方では「どういう方向に改革すべきか」という重要な問題がある。これは「経営理念の深化、浸透」ということとも関連する。この点については別な機会に取りまとめてみたい。

組織風土の改革

1 問題の理解

 企業活動の全体構造はどのようになっているのだろうか。抽象的なものから具体的なものへという視点で、「理念一戦略一組織・制度・システム」と分ける方法もあるが、「目に見えるもの」と「目に見えないもの」という区分で見れば下図のように考えられる。

 
「目に見えるもの(ハード構造)」は企業の戦略や制度、実際に現れる行動などであり、「目に見えないの(ソフト構造)」とは仕事のすすめ方の暗黙のルール、常識や前提となっているもので、あらためて意識しなくてもすむものである。

 実際に目に見える部分は氷山の一角にすぎず、目に見えない部分が大部分を占めており、組織風土とは個人のレベルでいえば無意識に該当する。

 組織風土については次のような問題意織を抱く経営者は多いと思われる。

 「今までいろんなことをやってきた。株式公開をしたり、CIをやったり、組織を変えたり、リエンジニアリングに取り組んだり・・・。だが、あまり効果が上がっていない。制度や仕組みを変えても本音の部分はなかなか変わらない。人の行動を規定している。『目に見えないもの』を変えるにはどうしたらいいのだろうか?」

 「自由にものが言える会社にしようと常日頃から社内で言ってきた。新しいことにも積極的に取り組んでいる。たとえば電子メールもそのひとつ。その電子メールで若手社員がグループで活発に意見を出し合っていた。面白そうなので私も参加したところ、とたんに意見がでなくなってしまった。何が阻害しているのだろうか?」

 「長計や年計などの計画はつくるが、現実の動きはそれとは別になってしまっている。結局、会社のなかに建前の世界と本音の世界があって、建前め世界ではいろいろやっているが本音は別の論理で動いているような気がする。どうしたら一致させられるのか?」

 形だけでなく、また表面的なことだけでなく本質的な部分まで改革するにはどうしたらいいのかという問題意識である。

 組織風土を変えることの難しさはどの企業も痛感している。

この問題のポイントは

 (1)目に見えないものを変えない限り企業活動の変革はないこと

 (2)目に見えないものは一朝一夕には変わらないこと

の二つである。まずこのことをしっかりと認識することが必要である。

2 二つのアプロ−チ

 「目に見えないもの」を変えるにはどうしたらいいのか。過去に行われてきたさまざまな試みは大きく二つのアプローチ方法に分けられる。

 ハードアプローチとは、目に見えるもの(ハードな部分)をまず変えて、目に見えないもの(ソフトな部分、たとえば社員の意識など)を改革するきっかけにする、あるいは、目に見えないものが結果として変わるようにするというもの。たとえば、CIで社名やシンボルマークを斬新なものに変えることによって社員の意識改革のきっかけにする、人事考課や業績評価の基準を変えることによって人の行動様式を変える促進要因にするなどである。「目に見えないもの」はとらえどころがないだけに、直接ではなく間接的にアプローチしようという考え方である。

 このような考え方は今まで多くの事例がある。多くの意識改革活動がこれに該当するが、成功しているところもあれば形だけの改革に終わってしまっているところもある。

 一方、ソフトアプローチとは「目に見えない部分」に直接アプローチして徐々に変えていくという考え方である。とらえどころがない部分なので時間がかかるかもしれないが、個々人の主体的な意思に基づいて少しずつ改革していこうという考え方である。

 このアプローチ方法は方法論がまだ確立していない。個々人の意識が覚醒するのを待つという姿勢なので、仕掛けづくりの工夫と辛抱強さが必要になる。

 試行錯誤で取り組み始めた二社の事例を通してどのような工夫と辛抱強さが求められるのかを考えてみたい。

3 ソフトアプローチの事例

 (1)いすゞ自動車の事例:
     志で結ばれたインフォーマル組織

 いすゞ自動車は歴史のある大手メーカーである。全国に工場、事業所を十数カ所配置し従業員数は一万人を超えている。80年代半ばからTQCに力を入れ始め、当時の社長はデミング賞を取ることを目標に積極的に推進してきた。

 しかし、業績は思わしくなく新たに取り組んだ新規事業分野も収益の足を引っぱる状態が続いた。TQC活動は精緻を極め、全員総掛かりで取り組んだが、資料づくりとプレゼンテーションに終始するやや強制的な運動になりかけていた。自然と社内は形式主義に陥り活力を失いつつあった。

 このような状態のなかで新たに就任した社長は、自ら意識改革の中心になることを決意し、活力ある組織にするために自分自身がまず変わることを宣言した。

 社長の決意表明を受けて、社内では徐々に有志が集まって自由に議論し合う場ができるようになった。

 今までのように会社が上から命じて組織化したものではなく、志ある社員が主体的に参画する活動のはじまりである。このインフォーマルな組織は試行錯誤を経た後、次のような形で定着している。

●インフォーマル組織の特徴

 ・各事業所や生産部門、開発部門を中心に多数存在

 ・社内では重要な活動として位置づけられている

 ・中期計画の重点課題として位置づけられ、予算も確保

 ・運営の主体は社員一人ひとり

 ・問題意識をもった有志たちが自発的に“世話役”を務めて活動を推進

 ・活動内容に関する小冊子発行

 ・興味のある人に情報を開示

 ・新たな委員会発足のサポートなど

●運営ルール

 《運営方針》

 ・やらせ、格好つけ、お付き合いはやめる

 ・明るく、面白く、プラス思考でやる

 ・この話し合いの場を利用して自分自身の思いを実現していく

 《テーマ》

 ・話し合いのテーマはひとつ。「いかに利益を上げられる体質をつくるか」

 《議論の際の基本ルール》

 ・本音でやる

 ・発表を目的としない

 ・実行に結びつくまで、自主的に討蟻を続ける

 ・社内の上下関係を気にしない

 ・経営幹部も参加メンバーと同じ目線で

 《開催形式、場所、人数など》

 ・オフサイトミーティング(職場から離れた場所で行う会合)

 ・自社の研修センターやセミナーハウスなどを利用

 ・主に土日を利用した1泊2日の合宿討議
 
 ・参加人数は多くても一回25人前後

 《成果の発表》
・討姿内容は世話役たちのボランタリーな活動によって約一カ月に一冊、小 冊子にまとめられ管理職全員に配布

・ただし、効果の調査報告はしない

・定量化できない意識の変化をあえて報告しようとすると、因果関係を無理矢理こじつけた作文になってしまうため。

 このインフォーマルな組織は、現状の問題に対する「気づきの場」であり、問題を共有化することで各人の意識を変え、その総体として組織風土を変えていこうとする試みである。

 この活動の“世話役”の一人である部長は次のように述懐している。「今までこの会社ではいろいろなことをやってきた。ハードアプローチといわれるものはほとんどやった。けれどもどれもあまりうまくいっていない。結局、風土改革は個々人の意識改革の問題であることを痛感した。個へのアプローチなくしては成功しないと思う」「全員で同じことをやるという形ではなく、やりたい人がやれるような場づくり、仕掛けづくりをいろいろ工夫することが大切。ひとつがダメならまた別な方法を考えればいい。群発地震のようなもの。」

 また、会社のなかでこのような活動ができることについては「このインフォーマル組織は会社からも認められている。ほとんどのものはきちっと予算管理されているが、この活動に関しては効果測定や報告の義務がない。経営陣も会社のためになっているという判断をしているので認めてくれている。」という。

 この会社はもともと厳しい会社として有名である。役員も成果がでなければ一年間で担当をやめさせられるという。非常に厳しい一方でこのようなルーズな部分を認めている会社であり、「ルーズ」と「タイト」の両方で成り立っているといえる。

 ORでなくANDの世界が大切ということであろう。

4 組織風土改革のポイント

 いすゞ自動車の事例を踏まえて組織風土改革の主要ポイントについて整理してみたい。

(1)トップマネジメントの強い意志

 組織風土改革の第一の条件はトップ自身の強い意志である。自分自身がまず変わることを強く決意し、自ら風土改革の先頭に立つことが必要である。A社ではトップ自らが変わることを全員の前で宣言し今までの「縛り」を解いた。風土改革のためのさまざまな仕掛けづくりの中心となった部長は「結局は皆、組織のなかで動く人間。したがって、経営者のほうから強いメッセージを送らないとダメではないか。我々の会社でもトップ自ら変わると決意され、それを身をもって実行されたので我々もやろうという気になった。」と述懐している。

 B社においてもトップ自ら知恵を出し合える体制をつくるという強い意志のもと試行錯誤で組織づくりをすすめている。

 トップ自身が新しい価値観を提示し、それを維持しつづけないと風土改革は進まない。

(2)三位一体の改革

 組織風土を改革するには三つの要素が必要である。

 ひとつは「戦略を変えること」。これは経営資源の再配分、重点投入の問題で、いわゆるリストラといわれているもの。

 二つ目は「仕組みを変えること」。効率的で創造的な仕事ができるように今までのやり方や仕組みを変えること。リエンジニアリングといわれるもの。

 三つ目が「社員の意識を変えること」。組織を構成する一人ひとりの意識を変えること。

 いすゞ自動車の管理部門担当役員付部長の北村三郎氏は三つの要素の関連を下図のようなコンセプトで示されている。

 三つの要素が同時に行われることが必要であるが、もっとも基本になるものが意識の改革である。組織風土は一人ひとりの意識の集積であることから、この部分の改革なくして戦略や仕組みの本質的な改革は望めない。また戦略の改革や仕組みの改革はトップダウンでもできるが意識の改革はそれだけでは難しい。いすゞ自動車のようにボトムからの息の長い仕掛けづくりの工夫が必要である。
 
(3)二つのアプローチの併用

 前述したように風土改革のアプローチ方法はハードアプローチとソフトアプローチの二つがある。従来はハードアプローチが主であったが、これからはとくにソフトアプローチの工夫が求められる。しかし、ハードアプローチは効果がない、ソフトアプローチだけでいいというわけではない。A社のような改革の仕掛人が自由に活動できるということが可能になるためには制度や仕組みを変えないと難しいという場合もある。二つのアプローチを組み合わせて行い、相互のダイナミックな関係を築くことが大切である

(4)一人に着目する

 上から変えるという発想ではなく、一人ひとりの社員が主体的に変わるという視点が大切である。そのためにも一人ひとりの変革を許容することが前提条件として必要になる。

 一人ひとりの意識が変わり、その集積で風土が変わる。制度はむしろその後づけで変えるという手順が望ましい。

 「一人ひとり」といった場合にマスでとらえるべきではない。文字どおり一人ひとりに着目しなければいけない。

 全体をマスでとらえて「全社一丸となって」「一人ももらさず」という考え方はそもそも無理がある。それを無理してやろうとすると「やらせ」になり形骸化してしまう。全員参加のTQCがノルマと資料づくりに終始してしまった例が多いことを忘れないようにしたい。

 少数かもしれないが改革マインドをもつ人の意欲を引き出して、改革の流れをつくり出すことが大切である。そのほかの人を無視するというわけではない。参画の機会は平等に与え、判断は個々人に任せることが必要である。

 いすゞ自動車の事例は、今までのような不十分な全員参加でなく十分な主体的参加を実現するための工夫例である。

 一人ひとりの主体性に立脚して地道な工夫を継続することが組織風土改革のもっとも重要な要件である。

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