この講演録は平成9年1月と2月に実施されたJR西日本の経営幹部(部次長)での講演を元にJR西日本の社員研修センターがまとめたものです。

いすゞ自動車の風土改革(中)


6 体質改革の基本方針 

資料(4)の「体質改革の基本方針」はユニークな考え方で、これはおそらく他の会社ではなかったものだと思いますうこれまで市販の薬をいろいろ飲んでも効かなかったものですから、今度は思い切ってリスクはあるけれど全く逆をやろうではないかということになり、新しい発想に転換しました。

(1)部分展開でやる

 この一つが「部分展開でやる」という考え方です。資料(5)は、いすゞ自動車の組織で、16,000人の組織をパーセンテージで割り、絵に表したものです。いすゞ自動車は藤沢市、大和市、大森本社、栃木、北海道に工場と試験場があり、あとは川崎市に古い歴史の工場を持っています。このいすゞ自動車の組織を、例えばMRIという医療機器を使って脳の断面写真を撮ると、今から5年前は真っ青な状態で見ることができたと思います。組織が健康であるか否かは人間と同じようにバロメー夕一があると思います。人間の場合は皿流が良く、手の先・足の先に血が通っていることが、ひとつの健康の条件と言えます。この血の巡りが悪くなると健康状態が悪いという診断になります。では、組織の場合は、血液の流れに代わるものが情報です。この情報が関連部署にうまく行き交うかどうかが大切で、情報が流れなくなると、血の巡りが悪いと言うことですから、真っ青な絵になります。今ではかなり血の巡りも良くなってピンク色に変わってきています。いすゞ自動車はメーカーですから、もともといい製品を作ろうという考え方がありました。ですから、会社が風土改革をしようというメッセージを出したとき、「やりたいところからやる」ということで、開発部門から始めたのです。開発部門は、川崎の大型車と藤沢の小型車の開発部門ですが、ここから始めて製造に波及させていきました。現在では、当時一番遅れていた国内営業部門の風土改革を行っています。このように部分展開を重ねていくことにより、だんだんと皿流を良くしていき、ミクロの改革はマクロの改革になるというやり方で行っています。これは一斉に行うと無理が生じますから、改革に時間をかけて着実にやる場合のひとつの方法だと思っています。また、各部門のトップには風土改革に熱心な人と、そうではない人もいますし、フロジエクトのように優先順位が風土改革どころではないという新製品開発部隊などもあります。こういう所に対し無理強いをすると、つじつま合わせで対応しますから、「いずれはやらなくてはならないよ」という考え方だけは伝えておきます。つまり群発地霞を起こしながら、多少温度差をつけながやっていくという考え方です。

(2)やりたい人が改革をやる

 次に「やりたい人が改革をやる」、これも今までになかった考え方です。この考え方のベースは松下幸之助さんが言われたことで、PHP出版から人事万華鏡」という本が出版されています。その本の中に書いてあることですが、会社には20%位の社員が仙人の分までの給料を稼ぎ出し、6割の社員は自分の給料をそこそこ稼ぐ、20%の社員は人様の稼いだ分でお給料を貰っているというのが、松下さんの考え方です。企業というのは、そうなっていますから、この20%のお荷物を排除すると必ず、この60%から20%のお荷物が生まれてくるようです。アリの生態でもそうなっていると言われるように、世の中全体がこのような構造になっていると言われています。だから企業がこの20%を世の中に吐き出すと、社会が負担しなくてはならないと言うんですね。だから松下幸之助さんが存命の時は20%のお荷物を抱え込んでも利益が出る経営を心掛けていました。しかし、企業も余裕がなく、なかなかこのように出来なくなっているのが現状のようです。この2・6・2の法則に関連してもう一つの考え方があります。このような2・6・2というレッテルを人間に貼ってはいけない。だれも30年から40年働いて、他人の稼いだ分でお給料を貰っていたいなど思ってはいないはずです。昔、労使関係の対立で、なるべく働かないでお給料だけうんと貰うという考え方があったかもしれませんが、人間の本質はそうではないと思うのです。ここの部分が大事で、現状に留まる人がいるのは事実ですが、これは循環するというのが私たちの考え方です。改革というのは、皆んなで二コニコ仲良くというわけにはいかなく、いろんな議論沸騰もあり、また改革をしようとする志や想いも必要ですから、全員が全員というわけにはいきません。ですから、やりたい人が改革をやる。つまり牽引者を作り、その人たちが引張っていけば、次に続く大事な人たち、つまり6割の普通な人たちは、ついていくはずだという考え方にしています。最近、船井幸雄さんが出した「百匹目の猿」という本があります。この本で船井さんは、まず一匹の猿がいて、それが変化を起こすということを提唱しています。つまりこの考え方では、20%ではなくて、さらにその上に 1%がいるという考え方です。この 1%の人が社会を変える、つまり100人に1人の確率で改革者が存在し、20%の素直な人がそれに協調し、後で6割がこれについてくるという考え方です。ピーター・ドフッカーも、「最初に石を投げる人は必ず一人である。そして波紋が広がると、最初に石を投げた人は分からなくなってしまう」という考え方を持っています。この考え方では、最初に起爆剤となる人は、この20%の集団ではなく、多分一人ではないかと思います。ですから、ここにいらっしゃる皆さんは100人のうちの1人にならなくてはいけない人たちの集まりだと思います。ここの全員がそうならないと50,000人は変えられない。私はそのように思っています。

(3)社員が共有している価値観を変える

 次に、社員が共有している価値観を変えるということについてですが、この価値観というものは非常に大事なものです。この図は氷山モデルですが、ここの仕事の仕方、行動の仕方について言えば、例えばJR西日本京都支社の社員が共有している仕事の仕方・行動の仕方というものがあるはずです。過去から今までずっと伝わってきているもので、このようにすれば上役からも評価され、仲間からもあまり白い目で見られない。村八分にもならないというやり方があると恩し1ます。人が会社組織に属すると、なんとなく周囲の状況を伺いながら、こうすればいいんだなという学習体験によって、ある行動様式を身につけますが、どの会社にも独特なものがあります。氷山モデルでは水面下に価値観があります。これは、その部門に属するほとんどの人達があたり前のこととして疑問をはさむ余地のなくなっている発想法や思い込みのことです。この価値観という言葉が難しければ常識と置き換え、JR西日本京都支社の常識だとか、いすゞ自動車川崎工場の常識と言うこともできます。例えば、稼動割と定時割という言葉がいすゞ自動車にはあります。これは生産量が減ったとき普通に考えれば機械の稼動を止めて機械の保守や社員の訓練などを行い生産能力の維持や向上をしていけばいいのですが、しかし、実際はラインの流れを遅くするなどして、時間調整を行っています。こうすると、今までのラインの流れで仕事をしていたりズムが狂い生産量が減っても不良品が増えるという現象が現われてきます。これは、音からある生産部門の価値観なのですが、「なぜこんな調整をするのか」と尋ねますと、「掃除をしていると人が余っていると見られ合理化されてしまう」と。ですからいかにもラインが流れているように見せるということをする。これは最近まであったいすゞ自動車の常識でした。また、いすゞ自動車では、部長・課長・係長などがいる会議の中で、たまに部長がオカシイことを言っても、あ・まり反対できない。なぜなら、部長はメモリーが良くて、次のボーナスに影響するから、あまり言わない方がいいと皆が知っているわけです。ある工場であった実際の話です。工場長があまりにトンチンカンなことを言うので、ある人が工場長に「それはおかしい」と言うと最後の締め〈くりに「ところで俺とお前はどっちが偉いんだ」。それでその会議は全部終わりです。

 ホンダさんでは、会議に出て始めから終わりまで一言も発言しない人は無能と見なされるそうです。会議に出ていることはコストをかけていることですから、何か自分の意見や知恵を出さなければ意味がない。そういう厳しいカルチャーのようです。

 いすゞ自動車の会議では、大勢の傍聴者が2時間ジーとしています。ノートに書いて報を持ち帰っておしまい。勿論今は少なくなりました。5年位前までは本当に大変でた。30人から40人の会議で、各部門の代表が出席しているのに、議事録をあちこちに回しておかないと後で文句が出てくる。回さないと偉い人から「俺は聞いてないぞ」と言われてしまう。これはサラリーマンにとって恐い話です。偉い人が「俺は聞いていない、俺のところに報告がなかったぞ」と。過去の体験から、皆はあの人には言っておいたほうがいい、あの人にも言っておいたほうがいい、皆そんなことばかりに気を使っている。これもその会社や組織の価値観です。

一方こんな価値観もあります。例えば、営業本部が高い目標を組みます。高い目標が来た時の一番良い態度は、難しい目標がきても、最初は「やります、両張ります」と元気よく言うのが一番良くて、この目標を達成するためには、こういう条件が必要だなどと、目標設定段階でいろいろと議論をしない。最初はやりますと言って気持ち良く受けておくと、あいつはやる気があるという感じになる。時間が経過して目標が未達になることがはっきりした段階で、できなかった言い訳の資料を作ったほうが生き延びられる。これもカルチャーです。こんなカルチャーは変えなければいけません。このような価値観を変えていくためには、「常識そのものがオカシイのでは」という疑問を絶えず持ち、常に常識とは何かを考えることが大事です。

(4)改革推進室をおかない

 いすゞ自動車の改革の珍しい特徴として、改革のための機構を作らない。私は実質的には改革の推進委員長で、シナリオライターでもあり、演出家でもありました。それに私は「窓際族」だったんです。これはウオールストリート・ジャーナルに出たものですが、この「WindowSitters」とは、和製英語ですから辞典を引いても出てきませんが、記事の内容を簡単に言いますと、いろいろな業界、つまり電気・建築・商社などの窓際族の代表がゾロゾロ出ている。私も自動車業界の代表として出ていますが、「会社の出世階段から滑り落ちた可哀相な男」などと書いてあります。そういう感じですから、皆も私に対して構えません。あいつは窓際族だ、もう年だ、あいつはもう偉くなりそうもない、だから構えて格好つける必要はない。このように袴を着ずに行っています。これらの4つの基本方針は、それぞれの会社にそのまま役立つものとは思えませんが、ものの考え方については参考になることもあると思います。つまり、自分の会社の症状を診断し、自分の会社に合った処方菱を投与することが必要であると言えます。

7.大企業病の症状とその原因

 現在の日本の大組織は、程度の差はあるもののほとんど病気に躍っていて、これを大企業病と呼んでいます。最初はオムロンの前社長だった立石さんが言い出したことだそうです。「大企業病」という言葉は「成人病」という言葉に似ています。「成人病」には高血圧、癌、心臓病などがあります。だから「成人病」は具体的に症状と病名を診断しなければ治療の方法がないですね。それと同じように「うちの会社は大企業病に権っている」と言っても治しようがないのです。そこで我々の大企業病とは具体的にどういう症状なのか徹底的に皆で議論することにしました。

(1)いすゞの大企業病の症状と病名の特定

 それで「いすゞは何故儲からないのか」をテーマに現場を中心に1年間討議しました。
やりたい者が集まり本音で討議した結果、いすじの大企業病の症状は合併症だということが分かってきました。これは成人病で言えば糖尿病と腎臓病と肝臓病のような全部だるい病気で、そのうち駄目になってしまうような病気です。これをいすジの症状に言い換えますと、行き過ぎた部分最適病」「つじつま合わせ病」やらせ、やらされ病」の合併症です。会社には全体で追求している目的があります。そして、この目的を達成するために組織を開発部門や生産部門・販売部門というように分けています。さらに開発部門で言えば、試作部や実験部・設計部などに細かく分かれています。すると社員は自分のところのことだけを一生懸命にやります。自分のところの親分がコケないように、全体会議でその親分が無事で帰ってこれるように、皆で一生懸命に資料を作ります。だから自分のところは目標を達成している。販売もキチンと目標を達成している。生産も目標を達成している。開発も目標を達成している。しかし、皆自分の目標は達成しているのに、全体になると大赤字になっている。これには何か重大な力ラクリが隠されている。実はこれには「自分の部署だけ考える部分最適(Sub‐optimization)が起っている」ということで、これはいままで多くのサラリーマンが身につけてきた得意技なのかもしれません。
次に「つじつま合わせ病」ですが、これは過去いすジ自動車で部長以上になった人で、「つじつま合わせをやったことがないという人がいたら是非お目にかかりたい」といすゞ自動車の中で言っても、今まで1人もそういう人が出てこない。つまり皆な過去には「つじつま合わせ」を結構やっていたんだと思います。別の言葉にすれば、起承転結が格好良くついている状態で、つじつま合わせの上手な人は、上の人にとっても便利で、お前はいい奴だと可愛がられボーナスの評価も高くなる。だから私も結構つじつま合わせをやってきました。「やらせ・やらされ病」というのは、本社がやらせる人、工場がやらされる人、ラインとスタッフの関係、事務所と現場の関係、上司と部下の関係、これが皆な「やらせる者、やらされる者」の二極構造になっています。会社の中の攻撃と防御、防御側は防御の構えで資料を作ります。企画部門は、どんどんやらせる側で攻撃をします。そんな非常に生産効率の悪いことをやっていました

(2)病気の原因は「ヒトと情報」

現在は回復に向かっていますが、4・5年前まではいすゞ自動車の大企業病は重体でした。いすゞ自動車の大企業病のことは本音の討議を通じ100人委員会のミニコミ誌で流しましたから、ほとんどの社員は自分達の病気が何であるかを知っています。自分がどんな病気に躍っているのか知らないと治しようがないですね。だからいすゞでは自分たちのこの三つの病名と症状を自覚することから始めたわけです。しかし、「つじつま合わせ」を治そうといっても、どんなに「つじつま合わせ」が悪いと分かっていても、分かったうえでやる人がいますから、治るわけがありません。例えば肝臓病でも、ウイルスなのか、アルコールなのか、過労なのか、その病気の原因があります。いすゾ自動車の大企業病をいろいろ検討してみると、その原因は、「ヒトと情報」にあるのではないかという結論に達しました。 この原因は大企業病の議論をした過程で浮かび上がってきました。まず「ヒト」、つまり人間をどう捉えるのかということですが、人間といのは何のために働いているのか、お金のためなのか、出世のためなのか、創造的な仕事をしたいのか、あるいは、人のために役立ちたいのか、我々はもう少し本音で話し合ってみようということになりました。本音で話し合うために、長谷川町子さんの四コマ漫画「サザエさん」を使って話し合いました。その漫画とは次のような内容です。

@ある奥さんが防犯ベルの依頼をして、取付工事をしています。
A工事か終わって、「これで安心だわ」と気分良く業者の人を見送っている。
B奥さんが庭に出て、犬小屋を見たら犬(夕ロー)がいない。
C奥さんが近所の交番に行ってみると、夕ローは、唐草模様の風呂敷を背負って後ろ向きにションボリ座っている。お巡りさんが、「犬の気分を損ねたような事はなかったですか?」と尋ねている漫画です。
私は、現場の100人委員会で、このような漫画を使って議論しています。このような漫画で議論すると社員が非常に共感してくれます。会社の風土改革は難しくやってはいけない、易しくかつ面白くやった方がいい。特にこのサザエさんの漫画の場合は、本社ではそれほどでもなかったのですが、現場では本当に共感できると言っていました。では、この犬は、どうしてこの家にこれまでいたのでしょうか。つまり、形をすることによって防犯という役割を果たすことが、この犬の存在感だったのですが、自分の役目が防犯ベルに替えられてしまい、自分の存在感を失って絶望し、家出をしたわけです。
そこでもう一度、「ヒト」について考えてみますと、いすゞ自動車で働いていて、つじつま合わせを行ったり、人の足を引っ張ったりして、幸せを感じることができるのだろうか。人間は働くことにより貢献し仲間の喜ぶ顔が見たいのではないか。また、お客様が本当に満足するような、サービスを提供し喜んでいただける顔が見たいために、お互いが協力し、良い仕事をしたいという気持ちを内面的に本来持っているのではないかと思います。しかし、組織というのは魔物ですから、皆おかしいと思いつつ、やむを得ずやっている部分があるのではないか。組織に押し潰されているのではないか。このような思いがあって、人間同士の対話を進めてきました。すると、この漫画の犬の気持ちが良く分かるといって皆が非常に感動してくれました。ある工場の課長の話です。この課長は500人位の部下を持っていました。いつも朝早く出勤して、工場の中をぐるぐると見回るんです。そして自分が感じたことや目についたことを、一つ一つ「ここはこうしなさい、これはこうだからいつまでに直しておくように」と指示し、自分でもメモをしておきます。そして次に見回ったときには、前に指示したことの確認も行うという大変仕事熱心で厳しい鬼軍曹のような人だったのです。この工場でサザエさんの漫画を使って討議をしたときに、ある部下が「課長の朝の巡回でいろいろ指示されるのは、たまらなく辛い」と。この課長はそんなふうに思われていることが意外だったらしく、「そうか、それは気がつかなかった。今後、皆の気分を害するようなことがあったら、その場で言って欲しい」と言うと、この都下は「いや一、課長の気分を損ねるようなことを言うと評価につながりますから、言えませんよ」と言ったんですね。そうすると違う部下が提案してきて「課長が変なことを言ったら、このマンガを黄色い紙に印刷してイエローカードとして出すようにしたらどうか」と。この課長の偉いところと思いますが、「では、俺が皆の気分を害するようなことを言ったとき、イエローカードを俺の机の前に貼ることにしよう」と。つまり、課長と社員がルールを決めて、このことを始めると、課長が笑いながら「今日は、5枚も6枚もイエローカードを貼られた」と明るく言ってるんです。だんだんその課長も変わってきて、職場も明るく楽しくなり、その課長も素晴らしい上司として部下に慕われるようになりました。普通、上に立つ人は面子があります。人からあれこれ言われて良い気分ではないと思いますが、こういう形でイエローカード‘こよって楽しく改革をやった例です。

8.スーパービジョンとハイリイエンバワード

ここではマネジメントの話をします。これが従来の組織図で、ピラミッド型細識です。私たちは経営学を勉強すると、だいたい紬識というのは、このようにピラミッド型になっています。ところが、これは、あるアメリカの教育関連会社の資料ですが、紐識はあと何年かすると必ずこのような逆ピフこッド型になると言っています。上部にお客様がいて、トップは下部で支えている。しかも組識内は階層ではなくアメーバのような組識になってくると予測しています。今の日本の会社組識がこれに移行するにしても、ある日突然こうなってしまったのでは混乱が起きてしまって対応できません。今はその過渡期として経過措置的にフラット化になっているのだと思います。今はフラット化ですが、そのうち右側の細識内の型に移っていくようになります。ピラミッド型組識のマネジメントは、スーパービジョンという考え方がべ一スにあります。それに対臆して、エンパワーメントというのがあります。今までのピラこッド組識は、スーパービジョンのマネジメントで、チェーン・オブ・コマンド(Chain ofCommand)、つまり指示命令の連鎖という型でした。この組識のりーダーの役割は、上からくる課題・方針をブレークダウンして部下に割りつけ、その進捗を管理をし、業績にまとめて上司に報告するということです。それに対して、ここの一番右のアメーバ型逆ピラミッドのエンバワーメント型組識のりーダーの役割は、ハイリィ・エンバワード(HighlyEmpowered)、高度にエンパワーされた状態を言います。将来はこのマネジメントスタイルに移行していくと予測しています。アメリカの企業のトップ集団、2番手集団は、すでにこのマネジメントを導入しています。団子集団にいる企業はこれからそうなっていくと思いますが、いきなり右には移行しません。必ず組識の変革は、このように移行措置・経過措置がとられます。そして、この黒マルと緑のマルに違いがありまして、緑はエンバワーされたメンバーがいる状態で、これはエンパワーされていないメンバーがいるということです。ただ、こういうプロセスを経て、最終的に一番右の型のようになっていく。これが組識運営のひとつの理想型として、いま先進企業が目指している方向だと思います。いすゞ自動車では、このエンパワーメントの考え方を普及しようとしていますが、階層別研修などでは教えていません。エンバワーメントは100人委員会や社内塾などで教えているのです。ですから社内ではまだスーパービジョンの考え方によるマネジメントが主流になっています。つまり、どちらのマネジメントがよくて、どちらのマネジメントが悪いという言い方はしていません。の人の得意技を使って、いろいろ試行錯誤して欲しいと思っています。エンバワーメントに関する情報をドンドン紹介するとエンパワーメントをやってみたいという人が出てきてます。エンバワーメントをやってみて、業績が良くなったり、お客様からの評判が良くなったという職場が生まれてきています。21世紀へ向けての新しい方向はエンバワーメントだと考えていますが、その導入の仕方は、その組織の役割や機能によって違います。いすゞ自動車でいうと、大きく4つの部門に分けることができ、そのひとつはプロダクションつまり生産部門です。生産部門というのは、マニュアルによって標準作業をキチンと実施する世界です。二つ目は、R&Dと言われる開発部門です。開発部門はクリエイティブな世界です。それからスタッフ部門とセールス部門です。これら各部門の置かれた状況によってエンバワーメントがいいのかスーパービジョンがいいのか、あるいはその中間がいいのか違いが出てきます。‐

9.リーダーの役割はサポーテインクアザース

スーバービジョンマネジメントのリーダーは、課題をブレークダウンして、割り当て、進捗を管理して上司に報告するということです。これに対しエンバワーメントマネジメントのリーダーの役割は、サポーティング・アザー(Supportingothers)で、他人を助けてあげることです。アザースとは通常の場合、自分のグループのメンバーつまり自分の部下になります。しかし広く解釈すると、このアザースにはお客様も他部門も上司も入っていると思います。は、他人を助けるというのは、非常に抽象的ですから、具体的に説明すると次の三つがあります。

(1)ガイデイング
一つはガイディングです。ガイディングとは、方向を示してあげることです。つまりメンバーが、とっちの方向に行けばいいのか、その方向性を示してあげることです。これは非常に重要なりーダーの役割です。このリーダーは、上から言われたことをオウム返しのように言うのではなく、自分の役割や自分の細識・機能を認識し、様々な情報、例えばいまお客様や市場はどのように変化しているか、経営の方針は何か、他部門がどういう仕事をしてるか、お客様は何を求めているか、そういった諸々の情報から、自分で考え、自分で決断し、メンバーをある方向に導くことが本当のプロフエンョナル・リーダーと言えます。これからは、ただ上から言われて、それを下に伝えることが仕事の大部分であるような中間管理職は存在しなくなり、自らが決断し方向性を示していくようなマネジメントしか存在しなくなるはずです。これがガイディングです。

(2)コーチング
次にコーチング(Coaching)です。メンバー全員がエンバワーされて能力が高い人ばかりであればいいのですが、そうはいかないものです。配属されてきたメンバーがまだまだ能力が未熟である、他部門から来た人もいる、そういう人をある種のレベルまで引き上げることがコーチングです。コーチというと教えるということとイコールに考えがちですが、そうではなく教えることもコーチの一つの方法であると捉えたほうがいいと思います。私は、この「コーチング」という考え方に興味を持って研究しています。私は今テニスをやっていますが、テニスやゴルフの上達のためには「力を抜きなさい」とコーチからいつも言われています。ところが、力を抜くということがいか効果があるということは体で覚えるしかなく、体得するもので知識ではありません。結局、コーチとコーチを受ける人との関係はパーソナルな関係で、人間はそれぞれ違いますから、「この人間をどのレベルまで引き上げるか」ということを具体的に一人ひとりイメージすることが大事です。そしてそのプロセスを考えることがコーチングです。私も長いサラリーマン生活を通じているいる経験していることですが、定年退職をするとバタッとその人と会社との関係がなくなります。ところが、定年退職して3年たっても4年たっても、昔の仲間がの人を尋ねて行くケースがある。それはコーチングをよくやってる人の場合で、本当に自分の部下のことを考え、その人のことを考え自分が心を砕いて人をレベルアップしてきた人というのは必ず心に残っているものです。このコーチングというのは、とても大事な考え方で、ある大学でもコーチ学の講座があると聞いています。私はコーチングをこれからも私のテーマとして研究してみたいと思っています。そして「意識改革」のコーチの専門家になりたいと思っています。

(3)エンカレツジング
エンカレッジング(Encouraging)というのは励ましてあげることです。私もこれまで生きてきているんな場面に出会いましたが、その人生の中で大事なことのひとつは「励まし」だと心底から思っています。「励ます」ことと「誉める」こととは、これもイコールではありません。励ましというと、「おっ、頑張ってるか、頑張れよ」「頑張れ、頑張れ、頑張れ」だけのワンバターンで、この言葉では励まされない人がいっぱいいます。最近いすゞ自動車ではこんな人がいます。「あんまり頑張るなよな一」「しばらく休め」と言う人もいます。このエンカレッジも全部パーソナルで、相手によって皆な違います。ひとつの決まり文句は皆に共通する励ましの言葉にはなりません。一人ひとりのおかれた状況を良く見なくてはいけません。そして、この人にはこういう励ましがいいと考えて言葉を掛ける。これはとてもクリエイティブなことだと思います。

10.環境に支配される

 (1)行動は人より環境が支配する
この公式、これはクルト・レビィンという行動科学者の有名な式ですが、この「B」はビヘイビアー(Behavior)です。「ナ」はファンクション(Func t ion)で関数という意味ですね。「P」というのはパーソン(Person)で個人の能力という意味です。「E」はヱンバイロメント(Envi ronment)で環境です。Behaviorつまり先ほど意識と行動の改革と言いましたが、ビジネスマンは行動が積極的であり、生産的であり、効率的であり、創造的であることが大事で、それが消極的で、非効率的で、非創造的であったら良くはありません。ヒジネスマンがこのようなブラスイメージの行動をとるために自己研鍵や研修会などを通じ、一人ひとりの能力を向上させます。確かに知識もアップします。しかし、このクルト・レヴィンの考え方は、個人の能力も大切ですが、それと同じ位理解も大切だということです。つまり人間は環境に支配されるということなのです。

(2)ボスが環境を支配する

いくら個人の能力がアップしても、「風土」つまり環境が、クリエイティブで積極的で生産的でない職場であれば、能力が高く積極的な人でも、そのBehaviorは消極的になっていきます。しかし、会社の中にいるボスつまり細識の長がブラス思考の行動をとれば環境は大きく変わります。皆さんは全員がこのボスにあたります。職場に帰れば大変なものだということは、私も承知しているつもりです。このBig・Eというのは巨大な環境という意味です。「トップの価値観・思想によって環境は作られる」ということを肝に命じましょう。そして環境がいかに大事で、しかも皆様方の存在そのものが環境になっているということを私たちは良く知っておきましょう。

11.情報観の転換

次に情報の問題です。情報観の転換については、全部説明したいのですが、時間の都合もあり、さわりの部分だけ説明いたします。

(1)情報は現場にある
今までの情報というのは殆ど「お上」にあると考えていました。「お上」に近い人や「お上」から情報を得てうまく仕事をしていれば無駄が少なくてすみます。そういう人は部下から尊敬されていました。いまのような変革期には、世の中の変化の兆候が現場の第一線に現われるので、価値ある情報がたくさんあることは事実です。しかし、別に「お上」の情報が価値がないということでもありません。双方に価値ある情報は存在するのですが、今日では、現場の情報のウエイトが高くなっていると思います。

(2)Face to Face
情報の伝達というのは昔は文書でした。会社の中は文書でないと通用しません。となりの職場に仕事を頼みにいって「これこれを頼むよ」なんて口頭で頼んでも、「悪いけど上に通知書を出しといて」なんて言われることがよくありました。そして文書が回ってこないと、上の人が「俺は聞いていないぞ」と。この上の人が聞いていないというのが昔は一番恐かったものです。それで、文書で回しておかないといけないと思い、あちらこちらに文書を回してしまう。結果紙の山になっていました。勿論文書は大切ですが、今はフェイスツゥフエイス(Face lo Face)が大事だと私たちは考えています。最近パソコンが管理職の机に一人一台設置されイントラネットでつながるようになりました。でもそれは、チョンマゲを結ってパソコンの前に座っているイメージなんです。具体的に言えば、今までとなりの部長や、ちょっと離れた工場に、仕事の協力を求めるために豚詰めで、フェイスツゥフエイスで、いろんな情報を伝えるということをやらずに文書だけでやってきた人たちが、パソコンを与えられた時にどれだけその人たちに情報を流すことができるかということです。だから将来はEメールになり、現場最先端の情報が社長の所にもいくようになりますが、ガサネ夕情報の流通ばかりではどうしようもありません。本当に人を動かしていく情報、しかもたくさんある情報の中で本当に価値ある本質的な情報をお互いにフェイスツゥフエイスで想いを持って伝えていく。これは大変なことですが、Eメールの普及と同時に、フェイスツゥフエイスコミュニケーションというのも私たちは奨励しています。

(3)Give and Given
ギブ・アンド・テイク(Give and Take)というのは、100 の情報を出せば100の情報が入ってくるという期待感があります。ギブ・アンド・ギブン(Giveand Givcn)という考え方ですと100対30でも成立します。例えば、いすゾの風土改革に関心を持っていただいている人たちに100人委員会の情報誌を送っていますが、そのうちの3割の人が先方から情報を送ってくれます。これは、こちらから先に情報を発信し、それに対して時々先方から情報を返信してくれる、サムタイムズ・ビー・ギブン(Sometimes beglvcn)の考え方で成立するものです。つまり情報はギプ・アンド・テイクではなくギブ・アンド・ギブンの思想で発信し続ければ、自ずと情報が入ってるということです。

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