創造的、個性的企業の時代に向けて〈Re-minding〉を
時代の大きな変革の渦の中で、企業もパラダイムの転換をいやおうなく迫られている。一般的に企業のパラダイム変革の方向は次のようになると思う。
今まで殆どの企業は「追いつき・追い越せ」つまり量的な成長を前提とした経営を目指し、欧米のオリジナル技術を受け入れて、発展させるという経営をしてきた。これからは創造性豊かな特色のある企業が社会から必要とされるようになる、つまり質的な成長を目指し、その企業の独自技術で国際社会の進歩に貢献できる企業が求められるようになるということだ。そのような時代に向けて今、新しい風が吹き始めている。
新しい風 安定から変革 依存から自立 均質から個性 物から心 量から質 競争から共生 多くの企業はその変革を主として次のアプローチで行っているようだ。
@経営戦略の変革<Re-structuring>
A仕事の仕組みの変革<Re-engineering>
の2つである。
21世紀に向けてのパラタイム転換を目ざして企業が取り組まなければならない必須のアプローチは上記の@とAに加えて
B社員の意識、行動の変革<Re‐minding>
がますます重要になるだろうというのが私の見方である。
今までの右肩上りの時代の横並び企業経営が必要とした人材は、どちらかというと仕事を上手にこなすことに長けた人材であった。企業の教育研修もそのような人材を育成することに主眼が置かれてきた。もちろん、極めて少数の先進企業にとっては、ここで言うことは当てはまらない。
一例を上げれば、右肩上りの時代に大きな貢献をしたであろうTQCも、人々をやらせの世界に閉じ込め、発想を均一化させ、人材を部品化することにつながったというのが、6年にわたってTQCをやらされた私の実感である。
このような時代に輩出した仕事を上手にこなすことに長けた多数の人材を、これからの時代の主役となる創造的・個性的企業を支える人材として、育成し直すことが急務になってくるだろう。それを効果的に進められるかどうかのカギは経営トップが社員の意識・行動の変革、つまりくRe-minding>に取り組む強い意思をもてるかどうかにかかっている。
<Re-minding>はいわば企業の土壌改良と考えるとわかりやすい。土壌が荒れたり、酸性になっていては、いくら良い種を蒔いても、良い肥料を与えても良い作物は育たない。企業の土壌は社員の意識・行動であり、そこに内在するエネルギーである。この土壌を改良しないで創造的企業を創りあげることは難しいだろうということだ。「創造的能力」がますます必要になる
企業が創造的、個性的になるために、その企業を支える社員に創造的能力を持つことを求めるのはあたり前のことだ。特にホワイトカラーにとってこの創造的能力が不可欠の時代がくる。創造的能力というのは、知的な働きとして、自分の仕事に常に独創的な工夫を加え、アイデアを具体化する、つまり知的付加価値を生み出す能力だ。また仕事の仕組をイノベーションできる能力も創造的能力のうちだろう。
「創造とは必然(ひつねん)の先見である」という言葉がある。「必然」とは将来、必ず誰かが実現させるということであり、「先見」というのはそれを自分が他の人より先にやるということだ。
日本のホワイトカラーの給与は平均7万ドルで世界一の高水準にあるといわれる。それに対して付加価値をどれだけ上げているか、知的生産性はどうか、ホワイトカラーが自分自身に問いかけてみれば、なかなか自信のある答えはみつからない。
一口に創造的能力というけれど、この能力を身につけるのにはかなりの努力が必要である。だいいち今まで日本の社会は創造的能力を育てる環境にはなかったからだ。学生時代に学んだことは創造性とはかけ離れていたし、ほとんどの企業では創造性を育てるマネジメントは存在しなかった。多くの日本の企業は創造性を育てることには熱心でなかったといえる。
時代が変わりつつある今、これからの時代を生き抜くためにも私たちは自分の問題として、創造的能力を身につけることを真剣に考えなければならないだろう。自分自身で創造的能力を育てる
それでは創造的能力をどうやって育てていくかということについて、私の考え方を述べたい。それを「社員個人の意識」と「創造性を育てる環境」という両面から考えてみたいと思う。
まず「社員個人の意識」についてであるが、
@その企業でどのような仕事をやりたいのかをはっきりさせる。
A仕事を通じて深めていきたい「テーマ」をはっきりさせる。
Bその「テーマ」に関連する情報を集め、情報創造をする、ということになる。
人間が喜びを感じながら仕事ができるのはやりたいことをやる時だろう。いやいやながら仕事をやっていて喜びを感じるということはまずない。やりたいことだからうまくやれるのであって、やりたくないことをうまくやれるわけはないのだ。つまり自分が何をやりたいのか、ということをハッキリさせておくことが大切だということになる。それは生涯の「テーマ」につながってくる。これが創造的能力を育てるための絶対条件である。
だから仕事のことに限って言えば、企業に入ったら遅くても30才代の前半までには自分は何をやりたいのか、中長期の「テーマ」を見つけ、それをはっきりさせておくことだ。もしその企業のなかに自分のやりたいと思うような仕事が見つからなかったら、その企業をやめた方がよいと思う。それは本人にとって不幸なことだからだ。
自分のやりたいことをはっきりさせておいて、自分の意思を上司に日頃からきちんと言っておく。そうすれば、入社して10年もたてば、納まるところに納まるし、企業としてもそれを受け入れる仕組みを作らなければならないだろう。ある程度の年になったら専門性というか、得意分野がないと困るということだ。それは他の企業でも通用するレベルを目指すことになる。そして、この人達は「専門職」として位置付けられる。創造的能力を育てる環境
次に創造的能力を育てる環境について考えてみたい。
まず「創造的能力を育てるマネジメント」に関するキーワードを示す。
今まで これから 機能 課題割付、進捗管理 目標共有、問題形成 コトバ 管理 サポート 推進力 指示、命令 アドバイス 動き タテ ヨコ 目線 上役 顧客 情報 抱え込み 開示、共有、共鳴 メンバー 忠実、部下 自立、仲間 姿勢 既成の枠を守る 既成の枠を壊す 関心 仕事そのもの 人間、情報 パワー 肩書き、地位 人間性(生きざま)
私はこれからの時代のマネジメントを担う役割を持ったりーダーの基本的な条件を次のように考えている。
@自分のテーマを持ちながらも、グローバルな視野を持っている人
A自分にとって耳障りな意見や情報でも、積極的に受け入れようとする度量のある人
B部下や仲間をプラス発想で信頼していこうとする意志のある人
以上のような資質を持ったリーダーは、創造的能力を持った異質な人達を組み合わせながら、創造的な技術やシステムを産み出していく。
そして将来、このリーダーの人達は経営を担う人材に育っていくことになる。前述の創造的能力を持った「専門職の人達」も少数派である。大多数は上記のどちらにも属さない「普通の人達」だ。企業ではこれからもこの「普通の人達」の存在を必要とするだろう。
これからの時代、「創造的能力を引き出しアウトプットを造り出すリーダー」や「創造的能力をもった専門職」と「普通の人達」とでは処遇の差が大きくなっていくだろう。
どの道を目指すかは一人ひとりの自由であり、選択の問題である。創造性を育てる企業風土
社員がどういう人材に育つかは本来、個人の自己責任の問題である。個人は企業にあまり依存し過ぎない方が良い。企業が果たすべき役割・責任は社員の成長を助けるサポートシステムである。その意味で人事評価システムは抜本的に検討し直さなくてはならないだろう。また、創造的能力を育てるリーダーの育成は従来とはまったく違った方策が模索されるはずである。
そして、企業が<Re-minding>を通じて目指す究極の目標は「創造性を育てる風土、体質づくり」ということになる。
そのポイントは、
@加点評価の企業風土をつくる
A人の違いを認め合う企業風土をつくる
ということになると思う。
今、産業界は変革の端境期にあり、新旧の価値観が入り乱れている時代だ。いすゞ自動車ではこの小論で展開した考え方をベースに改革を進めている。
冒頭に述べた企業改革の三本の柱のうち、<Re‐structuring〉と〈Re‐engineering〉は経営トップや職制の主導で実現できよう。しかしくRe-minding>は企業の土壌改良に当たるので、社員が主役になって推進することが大事だ。このように社員が自ら変革を進めることのできる舞台を企業の中に造るには経営トップの十分な理解と支援が欠かせない。
この経営トップの理解と支援を取りつけながら、「やらせ」にならないように配慮した〈Re-minding〉による企業変革のシナリオを描くのも新しい時代の人事・教育担当者の重要な役割として期待されるだろう。