リクルート『かもめ』編集長
福西七重さんインタビュー 
(インタビューアー木村幸男さん)

   
姉かな 母かな 生徒会長かな? ただものではない憧れの君!

七重の連想ゲーム

 まず連想ゲーム。ぽくが、言葉をあげるから、思いつくことを言ってみてください。なんでもいいんです。

ええと、最初は人間って何?
「やっかいなもの」
 
親とは?
「いつか別れなければならないもの」
 
結婚とは?
「もめてる方々が多いですね。私ならうまくやるのに(笑い)」
 
男とは?
「小説に出てくるような男の中の男って、なかなかお目にかかれませんね(笑い)」
 
友情とは?
「瞬間の連続芸」
 
では憎悪。
「時が解決してくれます。ちょっと気を鎮めて待ちましょう」
 
忍耐とは?
「それほど大袈裟なものじゃありません」
 
犯罪。     、
「人間は小さな犯罪人」
 
情報。
「メシのタネですね」
 
国家って何?
「怪物だと思います」
 
金銭は?
「ほんのちょっぴりぜいたくができる程度あれば。貧しいのはいやです」
 
では、最後に愛。
「すべての原点」

福西七重は、さりげなく忍耐のできるオンナなのだろうか。だとしたら、さりげなく貧乏な生活なんかもさせてみたい。きっと、今よりもっと美しくなるかもしれない?

母は八重 私は七重

 三宅島の生まれなんですってね。
「東京都三宅島伊ケ谷、4月16日生まれ、牡羊座。牡羊座の性格は、ものの本によると陽気で負けずぎらい、積極的。困難にぶちあたっても敢然と自分の道を切り開いていく。友情に厚く、弱い物をかばう親分肌なんですって。
 
血液型は?
「0型。0型の牡羊座は、頼まれたらイヤといえない性格。暗示にかかりやすく、人情味があり、こせこせしてないんですって」 
 
中学まで三宅島で?
「ええ。空気も人の気持ちもきれいなところです。村中が親戚みたいな生活をしていて、かつては夜でも家に鍵なんかかけなかったんですよ。
結局、私が単純に人を信じてしまうところ、人はすべて善人だと思ってしまうどうしようもない性格は、三宅島での幼時体験からきているんでしょうね」
 

ご兄弟は?
「男4人、女6人の9番目。母が八重で、私は六女で七重(笑い)」
 
たぶん、真面目に勉強する人だった?
「ほんと。大真面目に勉強してました。好きな課目は、国語、社会、体育、美術。運動神経はよかったですよ。短距離の選手で、文芸部と新聞部に入っていました」

編集者の集まりなんかでも、話を聞きながら彼女は、なにやらセッセとメモをとったりしている。まるで駆け出しの編集者のように。講義を開いている女子大生のように。

自費で夜学へ!
 リクルートに入られて、最初から社内報編集でした?
 「いいえ。人事、総務、採用、経理、営業企画、秘書など、同時期に二つの仕事を兼務したことが多かったんです。社内報の仕事は46年の6月かう創刊号が出たのは8月」
 
なぜ編集にまわったんだと思います?
「いろいろなセクションでの経験があったからでしょうか。社内事情に詳しかったし、社内に知り合いも多かったから」
 
そのころの福西さんは、どんな社員?
「マジメで、明るくて、働きもので、かわゆい女の子でした(笑い)。それが、そのころのリクルートの典型的女性社員でしたね」
 
じゃ、現在の典型的リクルートマンは?
「頭がよくて、自信たっぷり。仲間意織が強く、案外世間知らず。世界は自分を中心に回ってくれないと困る、という人間集団。善人の集団です」
 
編集は、最初は一人で?
 「ええ、6年間はたった一人で。ゼロからの創刊でしたから何もわからず、いたって軽い気持ちでスタートしたんですが、まさかこんなにしんどい仕事だとは!(笑い)」

いまだから笑って言える?
 「そうなんです。まずエディタースクールへ通って編集全般の勉強。ついで、デザイン教室でデザインの勉強。それからマスコミ学校へ通ってコピーライティングの勉強。もちろん自費で授業料を払ってです。すべて夜学、あ、この言いかたた古いかな(笑い)。学校が終わってから、会社や自宅で原稿を書くことなんて、しょっちゅうでしたよ」
 
編集面で心がけたことというと?
「まず全社員の顔と人となりを覚えること。それから、社員をわけへだてなく好きになること」
 
特別に好きになった人って、いない?
「あんまり切り込んでこないでください(笑い)」
 
わけへだてなく愛しすぎたんじゃないですか。
「ご想像におまかせします(笑い)」
 
いい奥さまになれるのに。
「フフフ、そう思います。家庭の奥さまって、働く女性以上に賢くなければいけないと思います」

「世界は自分を中心にまわっている」と思っているリクルートマンの中で、福西七重は、「世界はみんなを中心にまわっている」と思っている、ただ一人の人かもしれない。ある人は彼女のことを、「リクルートの母」と呼ぶ。

じつは恥ずかしがり屋!
で、なんとか自信がついたのは?
「4年目くらいでしょうか」

スランプ、あります?
「あります、あります。小さいスランプは、ときどき」
 
そんな時、どうするんです?
「出勤する前に、2時間くらい街をうろうろしたり、締め切りの迫った原稿をほっぽらかしたまま本を読みふけったり、デートしたり。とにかく嵐の過ぎるのを、じつと身を締めて待つんです」
 
個人的な編集ポリシーを、キャッチフレーズ風に、どうぞ。
「すべての働く人に愛を!(笑い)」
 
ご自分の長所と短所。
「長所は、バランス感覚、問題意識、心身ともに健康なこと。短所は、恥ずかしがり屋なこと」
 
ハハハ。そんな!
「他人がそう見てくれないところが、私の不幸でありまして(笑い)。ほんとに根はとてもシャイなんですよ」
 
編集作業における好き嫌いは?
「企画は好きですね。嫌いなのはレイアウト。初めて会う人へのインタビューは、じつは苦手!」
 
シャイだから?
「そうなの。整合性のある回答でしょ」
 
強く影響を受けた人とかは?
「当社の社長の江副さんですね。いつも目の前にチラチラしている(笑い)」
 
あの方、ロマンチストなんですか。
「とんでもない。夢とか希望といったヤワな言葉は嫌いなリアリスト。
戦後の東大が生んだ最大の商売人。それで.なければ、うちの会社、ここまでにはならなかったでしょう」
 
でも、とても気さくでしょ?
「それはもう。『かもめ』が全国社内報コンクールでベストワンになつた時なんかは、自分で社内放送のマイクに向かってアナウンスをしてしまうような一面もあります」
 
これからは、両性具有的感覚の経営者の時代とか言われますけど、その点では?
「あ、十分資質あると思いますよ。したがってリクルートは不滅です(笑い)」

数年前、・NHK名古屋でのテレビ録画でいっしょになったとき、彼女は、しつかりシャイで、かわいかった。本人は、シャイであることを隠そうとしている節もあるが、彼女の人気の源泉はそこにある。思えばこの国には、シャイであることを忘れたキャリアウーマンが多すぎる。

オンナであること
 福西さん、編集をやってて人間としてどうですか。
「正義感が増幅されたんじゃないかな」
 
こんなことを言うとぶんなぐられるかもしれないけど、福西さんは女ですよね。
「インタビューアーとして減点一!私は正真正銘のオンナです。でも仕事のうえでは、相手の方が、女性であることを特別には意識しないで接してくださるほうが嬉しいと思っているオンナです」
 
そういえば『かもめ』は、全員女性編集者だ。
「そうなんです。でも、誌面にはオンナ臭さがにおわないように気をつけています。なぜかというと、大人の男の人たちに、色仕掛けでなく読んでほしいから」
 
女性の社内報編集者、増えつつあるようだけど、どう思います?
 「自分がオンナであることを、必要以上に意識してますね。甘えがチラチラ。でも、その一方でケナゲにやっている若い人たちも増えてきて、応援してあげたいな、と」
 
では、後輩編集者へのアドバイスを。
 「だいたいの会社にはローテーションがあるし、企業というものは長くても一年か二年で結論を出したがります。そういう中では、自分の意向だけではどうにもならないこともありますが、編集担当になったからには、悔いを残すことのないように、存分に取り組んでほしい。それが、ビジネスマンとしてのプライドじゃないでしょうか。努力すべきこともしないで、環境のせいにしたり、上司のせいにしたり、グチを言ったりしている人は、いさぎよくないし、すごくメメしいと思いますね」
 
女性編集者であることの有利・不利は?
「うーん、わかりませんね。その人しだい。性差より個人差では?」

なるほど。福西七重は、やはり女性編集者としての欠点を持たずにすんだ幸運な人というべきである。そしていま『かもめ』も、福西七重も、リクルートも、頂点にいるのかもしれない。

七重の故郷を救う会
全国社内報コンクールのベストワンをはじめとして、毎年賞をとつてますが、賞があなたにもたらしたものは、なんでしょう?
 「さあ、なんでしょうね。社内でも社内報界でも、フツーのオンナでいられなくなつたことかな、フフフ。というのはウソでして、じつは私、フツーのオンナです」
 
真面目に答えなさい!(笑い)
「そうですね。先輩、同輩、後輩編集者に、素晴らしい.知人ができたこと。これは、かけがえのない財産です」
 
審査について、なにかご意見は?
「百社百様の社内報があって当然なので、ひとつの基準で評価するのは難しいですね。自社の社員にどれだけ読まれているか、どれだけ必要とされているかを判断し、評価すべきだと思いますが、実際には、評価を指数化するのには困難もあるし。社内報は、読者としての社員抜きには語れないので、作品の完成度だけを求めるのは危険だと思います」
 
編集活動の中で個人的に忘れられないエピソード。いろいろあると思いますが?
「昭和57年10月、私のふるさと三宅島が突然噴火して、隣の村がまるまる溶岩の下に埋もれてしまったんです。その時、社内の有志何人かが、″福西七重の故郷、三宅島を救う会″を即座に結成し、ビラをまいて義援金を集めてくれました。自分にかかわりのあることなので『かもめ』の記事にはしませんでしたけど、涙が出るほど感激しました。そして、この人たちのために、どんなことをしてでもお返しをしなければと、心から思ったものでした

ニューメディア時代については?
「社内報界のメディアミックスって、はたしてうまくいっているのかしら? ほんとうは活字やブラウン管を通してじゃなく、人と人とのダイレクト・コミニーケーションが理想でしょう? 
でも物理的・時間的に無理なので、社内報みたいなものがある。どんなに技術が発達しても、コミュニケーショシの基本は「こころ」。機械は手段、ハイテクも同じです。ハイテクになればなるほど、弱くてやさしい人間は、やさしい心を求めるはずです。だから、やさしい気持ちで社内コミュニケーションをやっていきたいなあと思います」

世にも稀な(?)超活性化集団であるリクルートにも、弱くてやさしい人間が存在するのだろうか。リクルートは、そういう人でも生きていける組織なのだろうか。いや、もしかしたら福西七重は、「人間は、みんなそうなんですよ、ほんとうは」と考えているのかもしれない。
(1986年1月 「月刊総務」掲載)

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