研究所からの情報提供(平成15年10月1日発行分)


1 小さきは小さきままに
昨年、熱海で開催された「人にとって教育とは何か」というセミナーの続編が今年は高知で開催されました。
昨年と同じように井口潔先生、村井実先生、清水博先生が基調講演を行い、招待講演として小椋克己先生(坂本竜馬記念館長)、しょうち三郎先生(しいのみ学園長)が招かれました。またパネラーとして山下正寿さん(四万十川楽舎)三浦一広さん(奄美ゆずり葉の郷)、平井雷太さん(セルフラーニング研究所)、雨谷忍さん(イオン労働組合)、長塚篤夫さん(順天中学校長)など多彩な顔ぶれが参加し、講師、パネラー、受講者が2泊3日間、寝食を共にして交流しました。
今回のセミナーでは、今年97歳になるしょうち先生(しいのみ学園長)からどのようなお話をしていただけるのか、とても楽しみにしていました。
私が高校生だった頃、香川京子さんが主演した映画「しいのみ学園」を見て感動したのを覚えていたからです。若い頃のしょうちさんは社会一般の通念で言えば、挫折の連続でした。軍人だった父親は、しょうちさんを当時、軍人養成のエリート校だった陸軍幼年学校を受験させましたが、身体検査ではねられ不合格になってしまいました。父親は「一生、子供と一緒に暮らすんだな」ということで、しょうちさんを師範学校に入学させ教員の道を歩ませました。教員時代に結婚し、3人のお子さんに恵まれましたが、そのうちの二人、長男と次男が脳性小児麻痺にかかってしまい、夫婦で悲嘆の日々を過ごしました。昭和29年、二人の自分の子供を育てる養育環境をつくるために、すべての財産を処分して全国で初めての養護施設「しいのみ学園」を設立しました。当時、知的、身体的に障害を持つ子供たちは、家の中で生活するしか方法がなかったのです。「しいのみ学園」の設立はそのような子供を持つ親にとって朗報でした。全国各地から「子供をお願いします」と親が子供を連れてきました。
設立当初は行政の壁との戦いがありました。県の監査で「保母は子供10人に1人の基準なのに2人おいている。おやつは週3回が基準なのに毎日、出している。単価は5円なのに30円分食べさせている」と指摘されました。しょうちさんは「私は親です。法を守りません。子供を守ります。」
それで即刻、認可は取り消され、共同募金からの援助は没収されました。以来、国、県の補助を受けないで、親心一筋で施設を運営してきました。
教え子だった武田鉄矢さんが「母に捧げれるバラード」で紹介したしょうちさんの言葉「小さきは小さきままに、折れたるは折れたるままに、コスモスの花咲く」。
この短い言葉に「人にとって教育とは何か」の原点があるように思いました。

2 連戦連敗
せっかく高知市を訪れたので、「ハルウララ」のことを、もっと知りたいと思いました。「ハルウララ」は連戦連敗なのに人気上昇中の競走馬のことです。高知セミナーの会場になったホテル日航高知の山岡支配人に尋ねたところ、すぐに高知県競馬組合に連絡をとって、資料を取り寄せてくださいました。
「ハルウララ」は5年前にデビューしてから現在までの生涯成績は94連敗、獲得賞金は102万円ほどです。競馬の世界では連敗が続けば処分場行きになる。調教師の宗石大さん(52歳)は「馬を処分に出す時、馬はこっちを向いて泣くんです。ずっと僕のほうを向いてね。だから走れる以上、赤字でも、僕は馬を処分に出したくない。」
「ハルウララ」は負け続けましたが、そのひたむきに走る姿を見て、フアンが声援するようになりました。つい最近、2番人気になったこともありました。大穴を当てるというより、リストラにならない守り神として外れ馬券を財布にしまっておくのだそうです。(その後、「ハルウララ」の引退後の進路が決まったようです。11月にはNHKテレビ「人間ドキュメント」で放送されます。)
「ハルウララ」の話に関連して私は安藤忠雄さんと松下幸之助さんのことを思い出しました。
建築家の安藤忠雄さんは高校を卒業して独学で建築を学びました。建築事務所を設立してから、コンペに応募し続けましたが「連戦連敗」でした。50歳を過ぎてから世界でトップクラスの建築家として認められ、東大教授にもなりました。安藤さんが東大で講議した内容をまとめたのが、「連戦連敗」(東大出版会)です。
「仕事も人生も思い通りにはならない、負け続けてもやり続けることが大切」というメッセージに、私は励まされています。
「ハルウララ」は松下幸之助さんの「2:6:2の法則」も思い出させてくれました。他人が稼いだ分で給料をもらっている20%の人たちはリストラの対象になってしまう昨今ですが、松下幸之助さんはその20%の人を包み込んでやっていける経営を目指していました。その20%の人たちもいつか将来、人の分まで稼げる人になるという人間観を持っていたからです。(PHP研究所 人事万華鏡「人を得るのは運命」より)


                    ■トップページに戻る■