私のライフワーク「ヒトの教育」
1 教育との出会い私が学生だった頃、受験競争を勝ち抜くために「予め正解が決められている問題を速く解く能力」の学習をしていました。16歳から20歳まで予備校に通っていた時期を含めて、そのようなことに時間をかけて努力していたのです。目標は偏差値を上げることでした。英語は中学から大学まで10年間、学習しました。単語や文法を覚えて、難解な文献を読めるようにはなりましたが、英会話ができるようにはなりませんでした。受験のための英語を卒業して、言葉としての英語を学んだのは社会に出てからのことです。
社会に出て働くようになれば「勉強から開放される」と思っていました。
そのような私が人生の大半を教育に関わる仕事をしてきたのだから不思議です。
私と教育を結びつけたのが、いすゞ自動車に入社したときの配属先、人事課教育係でした。この新入社員の配属先が「ヒトの教育」という私のライフワークにつながっていきました。教育係に配属されたのには、ある理由がありました。
早稲田大学3年生のときに早めの就職活動を始めました。就職説明会でいい会社に就職するためには人気のあるゼミナールの単位を取得しておくと有利であるという話がありました。ところが私は学業成績(優の数)が不足していたので、希望するゼミナールに入ることができません。何とか入れたのが「社会教育」のゼミナールでした。当時の風潮として、教育はマイナーな分野だったのです。
いすゞ自動車への入社試験を受けるときに提出した履歴書に記載した卒論のテーマが「戦後教育の民主化の実証的研究」でした。この論文が教育係への配属につながりました。
当時は人事部の中でも陽の当たる仕事、陽の当たらない仕事がありました。
陽の当たる仕事は人事企画、人事管理、労働組合対策などで、陽の当たらないのは福利厚生、教育などの仕事です。社内ではそのような見方があったようですが、教育を手がけてみると面白い仕事であると思うようになりました。
そのうち労働組合に担ぎ出されましたが、着いたポストが教育担当執行委員でした。
会社に戻ってから、いろいろな仕事を体験したあと、教育課長というポストに就きました。
教育課長のときに風土改革という新しいテーマを発見し、チャレンジしました。
その後、海外の仕事を体験してから「いすゞ能力開発センター」という教育専門会社の社長になりました。そして60歳の定年まで、いすゞ自動車の風土改革、そして社員の意識改革の仕事をやり続けました。
60歳で定年退職をするとすぐに「人と情報の研究所」という会社を創りました。
しがらみのない環境で「今、いちばん必要な教育」を実践してみたい」と思ったからです。
現在はフィールドを全国区に広げ、企業、行政、労働組合,協同組合の現場で「今、いちばん必要な教育」を実践しています。2 今、実践していること
今、私は「創造力を発揮して生きる」こと、そして「対話力を育てて豊かな人間関係の中で生きる」ための教育にチャレンジしています。これなら過去の経験を活かして私にもできそうだと考えているからです。
まず「創造力を発揮して生きる」ことです。「好きなことを見つけて上手になって人を喜ばせることが人生でいちばん幸せなこと」ではないか、ということです。
「一芸に秀でる」「好きこそものの上手なれ」といいます。これを求めることがヒトにとって幸せであり、誰にでも挑戦できることではないでしょうか。それがひいては「落ちこぼれ」「不登校」「いじめ」などを産み出さないことにつながっていくと思います。
私は創造力を育てるために「異体験」という学び方を工夫して教育の現場で実践しています。
「異体験」というのは過去に体験したことのない初めての体験を実行してみることです。日常から脱却して、見たことがない現場を見る、会ったことがない人に出会う、という体験をすることを奨励しています。またグループで日本各地を訪れ、その地方が誇る優れた文化、志を高く持って地域のために貢献している人に触れるという体験学習も行なっています。そして「異体験」してきたことの内容と感想を学習グループで発表します。
私はおよそ10年間、異体験の実習を積み重ねてきた結果、異体験を継続して実行するうちに創造力が育ってくることを実感できるようになりました。
異体験は意識(顕在意識)から入って無意識(潜在意識)に蓄積(ダム化)され、その情報の記憶が相互につながり合って、気づき、アイデア、ひらめきが生まれるのではないかという仮説を立てて検証をしております。
次に「対話力を育てて豊かな人間関係の中で生きる」ことです。以前に比べると面と向かって対話をする時間が少なくなりました。地域や職場での人間関係が希薄になっているように感じます。対話力がつくと誰とでも会話ができるようになり、いろいろな人を受け入れて豊かな人間関係を築くことができるようになります。
私は対話力の基本として「自己開示」という方法を取り入れています。
まず「自己開示」と「自己紹介」の違いです。
*自己紹介(Self Introduction) 自分をよく見せる(ときには背伸びをする)
*自己開示(Self Disclosure) ありのままの自分を見せる(等身大の自分)
良い人間関係をつくるのに、なぜ自己開示が有効なのか、以下はその原理です。
左側の図は「ジョハリの窓」と言われているものです。自分自身のことについて、自分が知っていて他人が知らないことを明かすのが「自己開示」で、他人が知っていて自分が知らないことを教えてもらうのが「フィードバック」です。自分のことは知っているようで知らないこともあるのです。「自己開示」ができると「フィードバック」を受けやすくなります。
「ジョハリの窓」には開かれた窓(Open Window)と閉ざされた窓(Closed Window)があります。開かれた窓が大きく、閉ざされた窓が小さい人は対話力があり、こころが通い合う豊かな人間関係をつくっていきます。
私は学習グループ(Learning Organization)をつくるときに、まず最初の会合で「自己開示実習」を行ないます。「自己開示」をしたあとはメンバーのこころの距離が近づいて活発な対話が行なわれるようになります。
上記の「創造力を発揮して生きる」「対話力を育てて豊かな人間関係の中で生きる」は教科書で伝えるのが難しく、また学力という評価基準では測定できないという問題があります。3 これからチャレンジしたいテーマ
「これからの時代、社会のリーダーにある立場の人はまず人間性、人間力が問われるようになるでしょう。
人間性、人間力を育てるためには、どのような学習がいいのでしょうか。
今のところ、人間性、人間力が豊かな人に触れて学ぶしかないというのが実感です。
「こころについてもっと見直され関心が持たれる時代が来ると思います。
こころは手入れをしないでおくと汚れがでたり、ときには荒んでいくこともあります。どのようにしてこころを磨いていくのか、「こころ磨き」の方法を探究していきたいと考えています。
「教育には「家庭教育」「学校教育」「社会教育」があります。
私が携わっている教育の分野は「社会教育」ということになりますが、「社会教育」は「家庭教育」「学校教育」に密接に繋がっていると感じています。
これからは家庭、地域、職場など社会が一体となって次世代を育成していく時代が到来すると思うので、この連携も視野に入れながら活動していきたいと思います。
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