JR西日本研究「再生への道」 第5部 「経営陣刷新」
真の安全 現場と追求「上層部は現場の意見を聞くという姿勢を打ち出している。この半年で会社は『真の安全』を追求しようとする第一歩は踏み出した」
福知山線脱線事故の後、JR西日本の幹部社員が現場の声に真摯に耳を傾けるため始めた「安全ミーティング」の一つに参加した現場の四十歳代の社員は、このように変化を感じている。
たとえば事故現場に設置されていれば脱線は防げた、と指摘される新型ATS(列車自動停止装置、ATS-P)の設置がそうだという。これまで、現場からみると、必要と思われる場所にはなく、不要と思われる場所に設置されていたが、事故後は、会社側も安全ミーティングなどで現場に意見を求め、設置場所を精査している。
たた、この社員は一方で、「最高速度やダイヤが問題視されていたが、それを改善しただけでは安全は確保できない」とも指摘する。「新型ATSをはじめ、一定時間運転操作をしないと非常ブレーキがかかる緊急停止装置を全車両に装備するなどの設備(ハード)と、ダイヤ改正などのソフト改善の両輪が整えられてこそ、「実現しえるものだ」
また、JR西が根底から変わろうとしているのか、まだ疑心暗鬼だ。信楽高原鉄道事故や東海道線の二重衝突事故など、人命にかかわる事故を何度も起こしてきたというJR西が目に見える形で変わったといえるまで、結論は出せないという。「失ってしまえば二度と取り返すことのできない命を重く受け止めるという原点に戻りたい」。この社員はこれからも会社に〃現場の目線〃を届け続けるつもりだ。
企業再生に向けて長い道のりを歩み始めたJR西に対しては、識者の間でも一段の努力を求める声が多い。
関西大学教授(交通政策論)の安部誠治は、国鉄改革を知らない世代である中間管理職層の意識変革がカギを握るとみる。
彼らは『井手イズム』の信奉者。このままでは『安全を軽視していた』と反省の立場に立てるか疑問」と指摘し、効率化を推し進めた点では大きな功績があった元相談井手玉敬の〃負の遺産〃の部分を払拭できるか、注目している。
安全文化をつくるには、下からの盛り上がりが必要だ。そういう土壌があれば、施策(安全性向上計画)がトップダウンで浸透していく」とするのは、高崎経済大学教授(産業心理学)の岸田孝弥だ。岸田は「経営トップの危機感が、社員に伝わっていないのではないか」と懸念している。事故後、垣内剛社長ら幹部が現場社員と意見を交わす「安全ミーティング」を行っているが、「社員に『その程度』と思われないためにも、幹部はもっと率先して現場を回るべきだ」と強調する。「本質的な風土改革の成否には、経営陣の刷新しかない。サラリーマンにとって上役は環境、(本気度は)全部、上役しだいです」と指摘するのは、「いすゞ自動車」の風土改革で社員レベルの旗振り役を務め、現在は企業などを対象に講演活動を行っている「人と情報の研究所」(東京都)代表の北村三郎だ。
平成10年、JR西のグループ会社でJR西日本メンテック社長の山崎正夫(現在JR西副社長)が上京し、北村を訪ねてきた。「長年染み付いた体質で、コスト意識も低い。企業風土改革に関心を持っている」と相談するためだった。
北村はその前年、JR西幹部約100人を集めたセミナーで講演したこともあるが、「『組合があるからできない』とか言い訳が多かった」と、同社にあまり好印象は持っていなかったが、山崎の姿勢に「JR西出身者にもこういう人がいたのか」と感銘を受けたという。
「これまでの経営方針に疑問を持っていた人材を経営幹部に起用することが必要」と主張する北村は、その山崎がJR西に復帰し、安全への取り組みの統括者となったことを高く評価。同時に、「トップが変わったと、社内外にアピールできるような人材を発掘・登用できるかがポイントだ」と、すでに辞任の意向を表明している垣内らの後任人事で、改革への意欲が測れとみている。
敬称略
産経新聞大阪版 (JR脱線事故取材班) 10月29日朝刊に掲載
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