時代を読む感性を磨き、仲間と一緒に社会を変えよう!

             

現代企業が抱える3大症状
―――現代企業が抱える問題点とは?

日本経済は、戦後ずっと右肩上がりでやってきました。それが、御存知のように90年をピークに、現代は「うつむき加減」の時代とでも呼べる状況へと転換しています。右肩上がりの時代は、少しでも多くの売り上げを上げることが企業にとってとても大切なことで、前年比アップ、他社に負けないという競争で経済活動が成り立っていたという部分がありました。そうした競争社会で、日本企業、経済は成功を収め、得たものも大きかったのです。
しかし、その反面、失ったものも多かったと私は思います。例えば、そうした企業の中で、私たちはどういう働き方を強いられてきたのかと言えば、上のいう通りにやれば、中央の指示通りにやれば、評価が得られ、成果も上がる、といった働き方です。そして、数字が挙がれば何でもいい、悪いことを隠してでも、結果さえ出せばいいという風潮に、社会全体が毒されてしまったわけです。
その結果、企業には3つの病気の症状が生まれました。1つ目が、自分の部門さえよければいいという、「自部門防衛病」。もちろん、会社というものは、全体が機能してうまく回らなければいけないのですが、それを忘れて、自分の部門さえ、自分さえよければいいという病気です。
2つ目が「つじつま合わせ」です。いろんな数字を出したり、結果を出したりするために、ごまかしたり、つじつま合わせをしたりすることが日常的になってしまうのです。先日、新聞紙上をにぎわせたカネボウなどは、その典型です。トップ自らがそうしたつじつま合わせ、不正行為を行うから、社員もそういうものだと思ってしまって、不正行為という間隔がマヒしてしまうのです。
そして、最後の一つが「やらされ病」。上司と部下、本社と営業所、スタッフとラインなど、会社の中がやらせる人とやらされる人の2極構造になってしまうことで起こる病です。会社と言うのは、自分たちで考え、自分たちで努力する人間の集合体であるべきなのに、その機会を与えられず、上は下に指示を出し続け、下も下でその指示を待っているという関係ですから、自分で考えて行動するという意欲すら失われてしまうわけです。この3つが多くの会社に共通する、大企業病の3大症状と言えます。


大企業病が中小企業、さらに個人にも巣食う恐ろしさ
また、こうした大企業病のウィルスは、中小の会社にも伝染してしまいます。実は、コレが一番深刻で、恐ろしいことです。なぜ、小さな会社にまでこうした大企業病が伝わるのかと言えば、大企業でこうした病気に冒された人材が、中小の会社に天下っていくからなのです。これらの疾患を抱えた会社は、人間に例えるならば、生活習慣病に冒された瀕死の状態。それが社会全体に広まってしまったことは、日本経済にとって大きな問題なのです。
国レベルでみると、省益を確保して国益を失う―、ということがあります。つまり、組織が腐る仕組みには、官も民もないのです。各省が天下り先を確保するために関連法人を作りますよね。なぜ、そんなことが堂々と行われるようになってしまったのか。大企業に限らず、日本という国がどんどんおかしくなっていっているわけです。
―――先生は、著書の中で、その大企業病が、個人にも及ぶとおっしゃっています。
そうです。私たち人間は、完全健康体である人はまずいません。生きていれば必ずどこかに病気を抱えるものだからです。実は、会社も完全健康体の組織というものはあり得ません。先程お話したように、不正を不正とも思わなくなってしまうようなマヒ感覚は、経営というものを通じて、社員個々が汚染されていってしまうからなのです。
みんなやっているからしょうがないことだと口をつぐみ、おかしいかな、と思っていても、やってしまう。そういう社員の多い会社は、大企業病の末期といえるでしょう。社長を裸の王様にして、誰も止められなくなるのです。
JR西日本事件も記憶に新しいですが、社長をはじめとする経営の利益第一という方針の中で、社員たちはどんどん感覚がマヒしていってしまったのでしょう。誰が考えても、安全より大切なものはないはずなのに、会社全体がそれを無視して利益に突っ走ってしまった結果が、あの大惨事です。結局、ドカ〜ンと、取り返しのつかない大爆発が起きるまで、誰もそれを止めることができなかった。大企業病の恐ろしさは、そうした部分にもあるのです。


現代における、労働組合の役割
―――会社というものは、利益を求めていくものです。その中で、労働組合は別の活動をしていかなければ行かない。どんな役割を担うべきでしょうか。
労働組合の仕事は、雇用の確保と労働条件の維持向上です。90年までは、これだけをちゃんとやってくれればよかった。もちろん、それは今日でも組合の基本機能として一つの核となるものですが、時代は変わり、今はそれだけでは、組合員のニーズに応えることができなくなっています。
右肩上がりの時代は、雇用も賃金も確保でき、組合費以上のサービスを提供することもできた。ところが、うつむき加減の現代では、この2つの機能が果たしづらくなくなってきて、平成不況の名の下に、リストラの嵐が吹き荒れる中で、雇用の確保すら満足にできない労働組合もあります。ベア(昇給)も、時短(労働時間短縮)も限界がきている。こうした現状を踏まえれば、労働組合は、必然的に新しいサービスを組合員に提供しなければならない、変革の時代になっています。
イオン労働組合は、他の組合に先駆けて、基本機能(雇用の確保と労働条件の維持向上)にプラスして、他の組合員に向けてさまざまなサービスを提供していますが、やはり、一つのポイントなるのは、教育ではないかと私は考えています。 
会社は、利益を出すということが目的ですから、教育といえば、企業に役立つ人間を育てることに集中します。でも、労働組合における教育とは、それと同じことをやる必要はないですし、やってはいけないだろうと思います。組合員がどんな働き方をしたらいいか、働くための基本という部分や、仕事を離れた部分も含めた生活全般、人生を豊かに過ごせるような、大きな視点での教育というものを行うべきだと思います。
日本では、企業内労働組合なので、会社の目指す山と組合の目指す山は基本的に同じものでなければなりません。日産自動車は、一時期、労使が全く違った山を目指して登りはじめてしまい、大変効率の悪い経営となったことで、ライバルのトヨタに敗れてしまいました。ただ、逆に言えば、目指す山の頂は同じにすれば、会社と組合は、登り方や方や登山ルートを変って当然なのです。


「人間の成長」のための教育
―――イオン労組も、「働く人の幸せ」を出発点に、様々な教育的なプログラムを行っていますが、その際に注意するべき点はどんなことでしょうか。
私は、人間にとって、人生にとって1番大切なのは、成長していくということだと思っています。カラダの成長は20歳までですが、ココロの成長は死ぬまでなのですね。人間はすごく大きな可能性を持っています。教育は、もちろん家庭での教育が基本にあって、その後、学校教育を受けて、社会人になってまた、会社の教育がある。でも、これらの教育とは別に、日常の中で成長を学ぶという支店が必要だと思います。そういう感覚を持った人が、自分自身を成長させることができるのですね。
人間のためには、教わる世界と学ぶ世界があります。教わる世界は、学校教育、会社の教育に代表される、先生のいる教育。でも、実際の社会では、先生と生徒という関係が成り立たない場合がとても多いのです。そして、人間の成長に大切なのは、この先生がいない、学ぶ世界なのです。
労働組合は、自分を成長させるための教育、その手伝いを積極的に行うという役割を担える存在だと思います。その際に、一番のポイントとなるのは、常に日常から何かを学ぶ、学ぼうとする姿勢や、学び方、技といったものを身につけてもらうということだと思います。それを覚えて、学ぶことが楽しいと感じてもらえれば、その人は、日常の中でいろんな刺激を感じながら、人間として一生成長できるわけです。会社は、なかなかそうしたことまで手が届かない。こうした教育は、組合でしかできません。
また、親の世代にそうした生き方が広まれば、今、学力低下が問題になっている子供たちの教育にだって、いい影響を与える事ができるはずです。挨拶をする親の子供は、教えなくても挨拶をするし、本を読んで日常的に勉強する親の子供は、やはり、人生は一生学び続けて豊かにするものだと感じるでしょう。  


知恵は、客のニーズをつかめる現場にある
―――現状でイオンの従業員をみれば、なかなか自分の成長を人生の目的にできる人は少ないといわざるを得ません。
それは、イオンに限らず、日本の社会の歪でもあると思います。90年までは、会社に帰属し、依存する心がとても大きかったわけです。大きな組織に寄りかかり、ぶら下がる。入社しても、自分を高めよう、会社を変えようなんてことよりも、とにかく生活の安定を求める人間ばかりだったわけです。今も、それは基本的に変わっていません。上役の言うことを聞いて、言われた通りにやるだけ。以前はそれも間違いではなかったのだけれども、それを続けると、自分の頭で考えることができなくなってしまう。
ところが、先程もお話したように、90年以降は状況が全く変わってしまった。上役の言う通りやっても売り上げが上がらなくなってしまったのです。みんなが頭を使って、知恵を出さなければ立ち行かなくなってしまったわけです。じゃあ、その知恵はどこにあるのか、もちろん、現場です。お客さんと常に接している現場だからこそニーズがつかめるし、そこから知恵が出せるわけです。
右肩上がりの時代は、部品の標準化など図面の標準化、作業の標準化とともに、人間もマニュアルで標準化した。それがいちばん効率が上がるとされた。でも、それには無理がありました。だって、人間はもともとみんな違うのですから。逆に、自立した人間たちの、その個性を生かした柔軟な発想が現場に生まれるようなマネジメントに転換した企業は、大きく業績を伸ばすことができたわけです。
―――自立と個性尊重というのは、組合が行う教育でも重要なポイントになりそうですね。
その通りです。人間というものは、本来、自分と違うものを許容してできません。これが普通の人。でもそれだけでは、人間は狭く小さくなってしまいます。人はみんな違って当たり前なんです。そうでなければ、みんな金太郎飴のようでおもしろくない。企業も、自分で考え、自分で行動できる、自立した存在であることはもちろん、やはり、個性的な集団でなければ、斬新なアイディアは生まれない。逆に言えば、そうした人間を受け入れられる器を持たなければいけないということにもなります。

悪いことも平気で語り合える、情報公開できる場の大切さ
そこで、組合の役割は、とにかく交流の機会を多く作るということが一つあると思います。どうしても同じ考え方、感性の人間たちが集まってしまいがちな店や部署から、どんどんと外に出して、いろんな人間と交流をさせるわけです。そうすると、時々違った人が出てきてもそれを許せるようになるし、許せる幅が広がって、面白い人がいるなぁ、と考えられるようになるのです。もちろん、そうした機会を増やすことで、情報も行き交うようになります。
さらに、その中で、悪いことも平気で語り合える、情報公開できる場、関係が築ければ理想的だと思います。悪い組織は、情報を流さないでそれを隠します。私たちの人生には、たくさんの失敗があるように、どこの会社だって失敗をします。でも、そこから学ぶ姿勢があれば、それは飛躍のチャンスにできます。人の足を引っ張るとかそういうことではなくて、いろんな間違い、過ちを口に出してみんなで話し合って、「失敗のバンク」にして再発を防止するような、そういう知恵を、ある部分だけでなく全体で共有することが大切なのです。実際に、他部門の知恵に学ぶというようなことで、意識的にそれを行って成果をあげている会社もあります。
組織というものは、絶えず変化してゆくものですが、その時に情報というのは、人間の体でいえば血液にあたるものです。情報が縦横斜めに常に流れている会社は、もし、問題が起きても、すぐに対処できる許容力、自己治癒力を備えています。逆に情報が流れず、血管が詰まっていることを自覚できない組織は、ある日突然ドカンと爆発してしまうのです。


労働運動の変革のパイオニアに―
―――イオン労組の進むべき方向性について、御意見をおきかせください。
結局、組合員のみなさんは、家に帰ればお父さん、お母さんで、同時に労働者であり、社会人でもある。そのどれもを切り離すことはできません。先程、教育の話をしましたが、会社での教育というのは会社の労働面だけを引っ張り出して、会社に役立つことを教えているだけですが、やはり、労働組合は、もっと全人格的に見ての教育という視点を待つべきで、それができるのは唯一労働組合だけだろうと思います。
イオン労働組合の活動は、そうした特定の一部分ではなく、全人格的にアプローチされているわけですから、目指す方向としては全く正しいと思います。そして、7万人の組織が組合の活動を通じて、日常から何かを学ぶ、学ぼうとする姿勢や、学び方、技といったものを身につけたら、すごいことになるはずです。
組合は、今、ビジネスに直結するセミナーから、海外のボランティアに至るまで、多岐に渡るコンテンツを持ち、幅広い様々な活動をしていますが、組合員のみなさんには、是非そうしたチャンスをどんどん活用して、人間としての視野を積極的に広げて欲しいと思います。
私自身、イオン労働組合は、労働運動の変革のパイオニア、トップランナーになってほしいと願っています。企業も、学校も、政治のすべての組織はすべて変革しなければいけない時代ですが、労働組合も例外ではありません。トップというものには、モデルがありません。全く新しいものを作るのですからね。その時には、やはり、現場の人たちがどういう気持ちでいるか、日本の社会がどう変わり、世界がどう動いていくのか、10年先を予測するということが大切で、そうした時代を読む感性を磨くことが今の組合には求められているのだろうと思います。
また、どんどん実験的な部分にもチャレンジしてほしいと思います。それが、他の組合にも波及して、社会を変えるということになるからです。仲間を増やして、社会全体を変える。全人格的な人間が求められている、こんな時代だからこそ、労働組合の出番なのです。
             イオン労働組合「Phoenix」268号より




                 
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