意識改革の考え方と方法

1 なぜ、意識改革なのか
(1) 意識改革を必要とする背景
 今、企業は拡大成長が望めない市場環境の中で最後の生き残りをかけた改革を急いでいる。ボーダーレスの大競争時代を生き残るために、企業は戦略を見直し、仕組みの再構築の真っ最中である。瀕死状態にある企業は背に腹を変えられずリストラの名のもと、大幅な人員削減を進めている。大企業の社員といえども安閑とはしていられなくなってきた。日本的経営の三種の神器といわれた終身雇用、年功序列賃金、企業内労働組合も見直され始めた。このような環境は外圧として社員の意識改革を促進させることになる。この状況は単に企業だけの問題ではない。遅かれ早かれ行政にも波及する問題である。
 本稿では企業の現場で実践されている意識改革の考え方、方法を紹介する。これは企業の社員でも行政の職員でも同じように適用できると考えている。
(2) どう変わろうとしているのか
 右肩上がりで横並びの時代、企業の社員は「依存」と「同質」のマインドに染め上げられてきた。この「依存」と「同質」の社員こそが経営効率を高める原動力になったのである。ところが現在、社員は「自立」と「個性」に向けて意識を改革することが迫られるようになった。拡大成長が望めない市場では独創性のある商品、サ−ビスが求められる。個性的な企業でないと存在価値が認められないのだ。当然、個性的な企業には個性のある経営者、社員が不可欠になる。
一方、「自立」の条件は「自分の頭で考え、自分の心で判断し行動する」ということである。右肩上がりの時代は「依存」のマインドを持った企業戦士が本社や上役の指示のもと、一丸となって頑張ってきた。いわば中央集権のほうが経営効率を上げることができた。今のような変化が激しく、しかも成熟した市場では地方分権による経営のほうがお客様のニ−ズに敏速に対応できる。お客様の関心はただひとつ、応対する人が「何をしてくれるのか、何をしてくれないのか」だけである。お客様との接点で繰り広げられている応対のありようで企業全体の評価が決まってしまうのだ。だからこそ自分で考え、判断、行動できる社員が求められる。今、社員の個性化と自立化を促す意識改革が企業の最大のテ−マになっている。

2 意識改革を進めるための基本的な考え方
(1)見えない部分を大事にする
 右肩上がりの時代、企業活動では「見える部分」を重視してきた。つまり数量、金額など、数字やデ−タで表現できるものである。効率を追及するあまり、見えない部分は上手に手を抜くことも身につけた。 お客様からの信用を築く地道な努力や風通しの良い社風づくりなどの「見えない部分」は軽視されたといってもいい。社員は速効性のある実務知識とスキルが教育され、人間性を高める教育や「考え方」についての教育は疎かにされた。右肩上がりで横並びの時代、日本人はモノでは豊かになったが、心の豊かさを得たかというと疑問が残る。モノの豊かさと引き換えに失ったものがたくさんある。意識改革によって日本人が失ったものを取り戻す。それは「見えない部分」である。書家の相田みつをさんが「花を支える枝、枝を支える幹、幹を支える根、根は見えねんだなあ」という作品を残している。根とは「考え方」とか「生き方」の部分にあたる。幹は行動、枝や花は結果である。意識改革によってこの根の見えない部分に光を当てたい。
(2)「意識が変われば行動が変わる」
 意識改革は一人ひとりの人間の豊かな人生を築くことにつながるという考え方がある。つまり「意識が変われば行動が変わる、行動が変われば習慣が変わる、習慣が変われば人間性が変わる、人間性が変われば人生が変わる」という考え方である。人間一人ひとりにとっていちばん大切なことは「幸せに生きる」ことである。つまり意識改革を人間の幸せを築く原点としている。
(3) 変わりたい人が変わる
 意識改革は自分でやるしかない、という考え方である。他人に意識改革を強制されることはない。「自分自身を変えたい」という意思と意欲を持っている人だけが変わることができる。
(4) 知識の修得ではなく、実践で体得すること
 意識改革の進め方の基本は陽明学にある「知行合一」をベースにしている。まず意識改革の大切さ、方法などを知識として学ぶ。意識改革で大事なことは「知識」を「実践」に転換することにある。従って「知識」の習得と日常での「実践」を交互にくり返す。このくり返しを通じて「知識」から「知恵」、「知得」から「体得」に変わっていく。

3 意識改革の具体的方法
 ここで意識改革の具体的な三つの方法、「自己開示」「異体験」「内観」を紹介したい。この方法は人間の成長にとって大事な「実践」と「内省」をベースに組み立てられている。またこの方法は企業の現場で実践され効果が確認されているものである。
 まず最初は「自己開示」である。人は誰でも「自分をよく見せたい」という本能がある。だから日頃、他人に弱味を見せないものだ。知らず知らずのうちに背伸びをして無理をしているかもしれない。自己開示の目的は弱い部分を含めた等身大の自分を他人に開示しながら自分を変化させていくことにある。「自己開示」によって自分の個性を自覚、自信を持つようになり、存在感が高まることにもなる。個性がはっきりすると周囲からの風当たりが強くなるが、その風に鍛えられて意識改革が進む。
「自己開示」の簡単な方法は、日頃の人間関係の中で子供の頃のこと、家族のこと、余暇の過ごし方、将来の夢などを自然体で語ることである。誰の心にもキズやシミがあるものだ。それらも開示できる勇気を持ちたい。心のドアの把手は人の内側についているという。ドアを開けるかどうかはその人の意思に委ねられている。こちらが先に心を開いてこそ、他人も心を開く、そして心の連帯が生まれていく。
ある政令指定都市の研修で自己開示実習を継続的に行っている。課長、部長といった幹部職員がお互いに心を開いて自分を物語る様子をみるとき私はいつも感動する。 
二番目の方法は「異体験」である。組織に属していると、組織が「たこ壷化」していることもあって、人の行動はパタ−ン化しやすい。私はこのパタ−ン化を猫化現象といっている。猫が猫道を通ることと同じだからである。猫道を通っていると安心感はあるが、行動のテリトリーが決まってしまう。そうすると見る風景と出会う人間が固定化してくる。「異体験」は猫道から意識的に外れることである。猫道をそれて行動することにより、見たこともない新しい風景を見る、会ったことのない人たちと出会うことができる。
人は三つのことから学ぶという。第一は読書、第二は人間、第三は自然である。異体験によってこの三つに出会うことができる。「人生は出会いである」ということを実感できるはずだ。
最近、企業の中で進めている異体験は「ボランティア」である。「ボランティア」は文字通り「自発性」のことである。「ボランティア」の場では上役の指示命令は存在しない。自立の心を育て、異質な人間に出会う最高の場が「ボランティア」である。この異体験は心の中の潜在意識に蓄積され、意識の新陳代謝を促進し、おのずから意識改革が進むようになる。
 三番目の方法は「内観」である。「内観」というのは文字通り自分自身を内側から見つめることである。一般的に物事がうまくいかない場合、自分に原因を求めず、他に求めて自分自身を納得させようとする。つまり「外観」になっていく。一方、「内観」は自分自身に原因を探ろうとする。外側の原因は変えるのが難しいけれど、自分自身を変えることはできるという思想が「内観」にはある。この「内観」は浄土真宗の修行から発展し、現在では専門家によって心理療法としての方法論が確立されている。「内観」はとても簡単な方法で実行できる。それはもの心がついた頃からの過去を積極的に思い出すだけである。時間のあるときに、幼稚園の頃の思い出、小学校低学年の頃の思い出、というふうに細切れに思い出す。思い出そうと努力して思い出すことがポイントである。私たちは日頃は忙しいので、子供時代の思い出は忘却の彼方に押しやっているのが普通である。特に辛い思い出、悲しい思い出ほど、潜在意識の奥にしまいこんでいる。楽しい思い出も辛い思い出もありのままに思い出し、それを受け入れていく。このように原体験を思い出すと、自分の人生の節目、節目に他人から大きな影響を受けていることがわかる。「内観」を体験した人たちは口々に、一人で生きてきたのではなく、多くの人々に「生かされてきた」ことに気がついたと言う。そして現在の自分があるのは、両親、家族兄弟、先生、友人、同僚などのお陰だと思うようになる。「内観」によって、このことを実感できた人は、すべての原点は自分にあることに気づく。そして周囲に感謝する気持ちに切り替わり、自分自身の存在を他人に役立てようとする意識に変わっていく。

4 意識改革から組織文化の変革へ
(1)ミクロの改革からマクロの改革へ 
大企業のような巨大組織にいると「私だけが頑張っても組織は変わらない」と思うかもしれない。組織論として「組織の実体は20人程度の対面小集団の連鎖である」という考え方がある。大組織といえども小組織の連合体だということだ。多くの人はこのことを頭ではわかっている。しかしこのことを実感としてわかっている人は少ない。最近、複雑系という物理学の新しい考え方が経営に持ち込まれている。この複雑系の中に「バタフライ効果」という考え方がある。比喩として「北京で蝶が羽ばたくと、ニューヨークでハリケ−ンが生じる」があげられている。一つの職場の小さな改革があちこちの職場に波及し組織全体に影響を及ぼすのだ。
(2)組織文化は人の意識の集合体
「人間は環境の動物である」という考え方がある。これは人は「環境に支配される」ということを示している。どんな職場でも人の行動に影響を与えるような独特な雰囲気や慣習がある。これを企業でいえば社風、組織風土、あるいは企業文化などという。これは役所も同じで職場によって独自の組織文化があるはずである。そして組織文化は一人ひとりの人間の意識、行動の集合体として捉えることができる。
 「すべての原点は自分にある」と思う。自分が変われば、周囲が変わっていくのだ。自分自身の人間性が高まれば、周囲の人たちを感化していく。自分を変え、そして「足下、つまり自分のできることを変える」ことが改革の原点になるはずだ。一人ひとりの職員が意識改革をして行動を変えていけば、組織文化も変わっていくことになる。(東京都特別区研修所、研修のひろば)

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