「日本的経営の興亡」書評  
日本経済新聞 1999年10月3日

TQCの呪縛、大企業病招く

戦後日本の産業発展を支えたとされるTQC(全社的品質管理)が、逆に企業から革新性を奪い、大企業病の原因にもなったという視点は新鮮である。
副題は「TQCはわれわれに何をもたらしたのか」、精力的な取材をもとに、著者は明快に答える。
デミング賞受賞という目標に向かって社内を一つにまとめるTQCは、要するに組織の管理技術。QCサークル活動を通じて社員の画一化、均質化を促し、創造性の欠如を招いたとする。TQCを日本的な経営管理の核心と位置づけ、もう一つの戦後経営史を描き出している。
写真業界の2社の分析が興味深い。95年に会社更生法の適用を申請したオリエンタル写真工業は、TQCに力を入れれば入れるほど内部管理に目が向き、市場の変化を読みとれなくなった。一方、富士写真フイルムが86年に発売し、人気を呼んだレンズ付きフィルム「写ルンです」は、組織ぐるみの改善活動からではなく、個人の独創的な発想から生まれた。そう指摘し、TQCに経営革新の要素などなかったと言い切る。TQCによって米国企業を上回った日本企業の競争力がその後逆転され、独創性では依然として開きが大きいとされるのも、著者によれば「TQCの呪縛(じゅばく)」とうわけだ。「管理から戦略の時代へ」とある経営者は言い表す。作れば売れた大量生産・販売の時代、経営者の仕事とは早い話が組織の管理だった。だが独自の商品・サービスを次々に創造しなければ脱落する今は、戦略の構想力や迅速な判断など経営者としての真の資質が問われている。本書は集団主義による社員の活力の喪失というTQCの「負」の部分を強調しすぎる嫌いはあるが、「管理」主義が社内にもたらす影響を直視し、戒めとするうえで有益だ、TQCが日本に根付く経緯を丹念に追い、分析に厚みを添えている。
                   編集委員 水野裕司

もしご興味がございましたら、冒頭の「プロローグ」をお読みください。北村三郎

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