経営者と社員が一体の風土改革

1.いまの時代をどう見るか

[1] 企業戦士の時代

歴史観は人によっては異なるが,私は1940〜90年は「武力戦争から経済戦争への時代」とみている。先進国に追い付け,追い越せと日本人が一丸となって戦った時代だった。
日本を代表する企業戦士たちが世界を舞台に活躍し,ジャパンマネーで海外の土地を買いあさったこともある。企業は精鋭の企業戦士を集めるために,採用試験では指定校・指定学部により均質な人材を確保,入社後も画一的な社員教育を実施した。さらに人事評価により異質な人材を排除し,金太郎あめのような人材を育てることに力を注いできた。この日本的人材育成システムは右肩上がりの時代にマッチした最適なものとして成功を収めた。製造業では品質のよい製品を効率よく造り,あるいは行政官庁のひごの下,護送船団に守られた業界では横並びの仕事をするのにふさわしい軍団を形成するのに役立った。

[2] 滅私奉公する企業戦士たち

このように育てられた人材は戦後の経済成長に大きく貢献した。その反面,依存心が強く,しかも個性を喪失した多くの社員が育つ結果になったのである。そのような社員や,経営トップまで上り詰めた−部の人たちは会社のためという大義名分の下「おかしいことをおかしい」と言わず,時には反社会的行為もやってしまう人間集団をも形成したのである。
このような現象は何も企業だけではなく,行政官庁での行政マンにも多々見られることである。ところが90年のバブル崩壊を境に状況は変わってしまった。現在はまさに世界中がボーダーレスの戦国時代に入っており,日本国内も戦場と化して世界中から最強軍団がなだれ込んでくる時代になったのである。

[3] 21世紀に通用する社員像

キーワードで表せば「自立」と「個性」ということになる。自立するということは,「自分の頭で考え自分の心で判断し行動する」ということである。個性の尊重とは人間がもともと持っている特長を自分自身も大切にするし,他人の違いも認めるということである。「自立」し「個性」を持った社員の集団こそが21世紀の社会に存在を認められる会社,つまり創造的な商品やサービスを提供できる会社になれるはずだ。

2.風土改革への基本的考え方

[1]風土とは何か

どんな会社でもその会社が持つ独特な雰囲気があったり,社員が共通して持っている行動様式といったようなものがある。社員はある職場に属するとその職場の行動様式に合わせて行動するようになる。これが社風であり,組織風土,企業文化などともいう。この社風はその組織の歴史によって培われてきたもので,DNAの遺伝子のように組織のなかで脈々と伝えられていく。したがって,社風の本質は「その組織に属する構成員の意識,行動の集合体」である。組織のなかにはその組織だけに通用する常識といったものがあり,世間では通用しない常識もまかり通るようになる。これがいわゆる「組織のたこつぼ化」である。「依存」と「同質」の企業戦士が集まって醸し出す社風は,異質を排除する雰囲気をつくる。
「自立」と「個性」を大事にする社員が集まった集団は,違いを認め合う創造的な雰囲気を持つ社風を形成することになる。この考え方からすると,社風改革の本質的アプローチは経営トップが21世紀に通用する価値観を持ち,現場の第一線までそれを浸透させる努力を続けることである。一方,社員については自らの意識と行動の改革を行う全社運動の展開ということになるはずである。

[2]経営者と社員が一体となった改革

今後,企業改革のために「リストラクチャリング」によって経営資源の配分の見直しが一層進むし、また、「リエンジニアリング」によって時代に合わなくなった各種の制度やシステムの改革が加速されるだろう。私が強調したいのは「リマインディング」の重要性である。そのためには企業戦士になるためのマインドコントロールを受けた社員の意識改革を経営者と社員が一体となって取り組むしかない。

3.風土改革の方法

[1]社員が会社を変える

一口に社員の意識改革といっても,それは簡単なことではない。時代が変わったからといって会社が急速に価値観の転換を強いることができないからである。社員は自ら変わる能力を持ち合わせているのだから,会社は「意識改革」のチャンスを提供することが必要だ。社員が主役の「リマインディング」活動をサポートする。

評価制度の改革などとリンクさせると効果はさらに大きくなる。つまり社員が変われば会社も変わるということである。

[2]風土改革は漢方薬で

「リストラ」と「リエンジ」は急進改革で進め,「リマインド」は時間をかけて穏健改革で進める方がよいというのが私の考え方である。
その意味では西洋医学的処方でなく東洋医学的処方で改革を進めたい。人間の身体と同じように組織も自己治癒力を持っている。それは「2:6:2の法則」でいう2割程度の社員が持つ間題意識と改革へのエネルギーの活用である。そのエネルギーがわき起こるように漢方薬的な処方をしたい。

[3]社風改革の処方せん

最近,「複雑系」という考え方が経営にも適用されている。つまり組織は機械ではなく生き物であるという組織論である。生き物としての企業組織を変えるためには複数の処方をすることが効果を誘発するというのが体験から獲得した知恵である。そこで6種類の処方せんの要点を述べることにする。

・社長メッセージ
  社長の価値観や社員の行動への期待を中心に小冊子として作成,配布する。数値目標や課題を盛り込むことは避ける。

・経営トップと社員との対話
  社員の希望者と経営トップとが同じ目線で対話する。形式や演出を極力,排除する。

・ミニコミ誌
  社員が日ごろ感じているホンネの話題を中心に有志がミニコミ誌を作成,配布する。

・塾活動
  意識改革を目的に希望者が集まって相互啓発や学習を行う。塾長には企業改革の志を持った経営者や部長を担ぎ出すとよい。

・セミフォーマルミーティング
  特別の議題を持たないで,社員の問題意識を自由に語り合える「場」をつくる。

・異質な組織との交流
  キラリと光る会社と評価されている企業の経営者や社員,またはユニークな組織と交流する。組織の規模はまったく問わない。

(労政時報、平成10年10月30日号)

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