意識改革から組織風土改革へ
その考え方と実践の方法

1.21世紀の企業と企業人の方向
(1)時代を見る二つの視点
まず1940年から1990年はどのような時代であったのか。それは武力戦争のために作り上げた戦時システムが戦後の経済復興、そして高度経済成長に有効に機能した時代であった。その戦時システムとは画一的な国民を育てる学校教育、官主導による業界保護、企業での年功序列、終身雇用などである。そしてこれをそのまま経済戦争に引き継いで、企業戦士たちは市場拡大をめざして滅私奉公の精神で企業のために戦った。この時代に育った企業人の特徴は「同質」と「依存」に染め上げられたことである。同質とは「皆と同じ」であり、依存とは「寄らば大樹の陰」である。いわゆる集団主義体制のもとに 、日本人は多くのものを獲得してきたが、失ったものもまた大きかった。高度経済成長は1990年をピークにバブルの崩壊というかたちで終わりを迎え、未だにその敗戦処理は終わっていない。
今日、繰り広げられている地球規模での大競争に日本の企業が勝ち残っていくためには、戦略と仕組みを思いきって変えること、あわせて企業人の意識と行動を大きく変えなければならない。
さらに、もう一つの視点として1975年から2025年に至る50年間は歴史始まって以来の大変革の時代と捉えることができる。産業革命を超える今の情報革命は地球規模で劇的な変化をもたらすはずだ。Globalization(地球化)への変化が進むと同時に、Localization (地方化)も進むだろう。そこでは地域に根ざした個性ある商品とサービスを提供できる企業、そして環境を大切にする姿勢を持つ社会に向けて開かれた企業が存在を認められる。巨大組織から小回りのきく組織へ、たこつぼ社会からネットワーク社会へと私たちをとりまく環境は激変する。

(2)依存から自立へ、同質から個性へ
これからの時代は「同質」と「依存」のマインドに陥った企業人が「個性」と「自立」に向けて意識改革することが最大のテーマになるだろう。成熟した市場で新しい需要を創り出すためには独創性のある商品、サ−ビスが求められる。独創性のある商品、サ−ビスは、顧客の気持ちを掴むことができる感性豊かな企業人たちが個性と創造力を活かしながら生み出していく。
一方、「自立」の条件は「自分の頭で考え、自分の心で判断し行動する」ということである。
右肩上がりの時代は企業も中央集権的な体制のほうが経営効率を上げることができたから、本社や上役の指示のもと、滅私奉公で頑張る「依存」のマインドを持った企業人が評価されてきた。
企業は精鋭の企業戦士を集めるために,採用試験では指定校・指定学部により均質な人材を確保し,入社後も階層別研修を中心とする画一的な企業人教育を実施してきた。さらに人事評価では異質な人材を排除することによって人材の標準化を進め、「依存」と「同質」の金太郎飴のような企業人を育てることに力を注いできた。
この日本的人材育成システムは右肩上がりの時代にマッチする最適なものとして成功をおさめた。製造業では品質のよい製品を効率よく造るため,あるいは行政官庁の庇護の下,護送船団に守られた業界では横並びの仕事をするのにふさわしい軍団を形成するのに役立った。
ところが今になって、このような人材の中から多くのパラサイトマネジャーを生み出すなど、企業は負の遺産を抱えこむことになった。そうした問題が指摘されるなかで企業人も時代の変化に対応するために自身の意識と行動を変えることが急務になってきた。

(3)企業人と企業の関係
企業人と企業の関係もこれからは大きく変わっていく。右肩上がりの時代、ほとんどの企業人は、組織>個人であることに疑いを持たなかった。滅私奉公の精神で企業戦士に徹してきたのである。しかし、これからの企業人と企業の関係は、個人の意志と選択によって組織>個人、組織=個人、組織<個人の三つに分化するはずだ。
「2:6:2の法則」でいう前の2割程度の企業人は組織=個人、組織<個人のいずれかになる。大企業の場合、8割の人は依然として組織>個人の意識が根強いだろう。大企業に入社している人たちの殆どは入社動機が安定志向、つまり「寄らば大樹の陰」だからである。前の2割の中のさらに2割、つまり4パーセントほどの人たちは組織<個人という考え方を持ち、そのように行動するだろう。この人たちは自己実現の手段として「組織を使いこんでいく人たち」である。言い換えれば「企業は自己実現を社会実現に転換する変速機」という組織観を持った人たちである。そして企業のリーダーは、企業に上手に適応する人から「企業を使いこんでいく人」に変わっていくはずである。大企業に従属していれば安心といった時代は終焉を迎えつつある。企業人は受動的に皆と同じようにふるまうのではなく、組織での生き方を自分で選ぶ時代になる。
これからの組織運営は大組織から小回りのきく組織へと変わってくる。持株会社など企業の合従連衡が進む一方、ミニカンパニー制など大企業を分社化して効率を上げようとする。そうなると今までもたれ合ってきた企業人と企業との関係も変わって、企業人は自分の足で立つことを求められるようになるだろう。

2.三位一体の企業改革
(1)日常業務、改善、改革
企業組織での仕事は日常業務、改善、改革の三つから成り立っている。どれもが企業活動にとっては欠かせないものである。日常業務は日常の仕事を確実に遂行することである。品質にバラツキのない製品を計画通りに生産する、またお客様に満足いただけるサービスを心をこめて提供する、事故を起さないように予防の点検をする、といった仕事である。これはマニュアルによる仕事の分野である。
次に改善である。どんな仕事でも完璧ということはなく、無限に改善する余地があるものである。このことの重要性を認識し、不断の改善努力を行うかどうかが企業発展の原動力になる。これはかつて日本的経営の特色とされたものであり、小集団活動によって推進される分野である。
次に改革である。改善は「過去の延長線上でより良くする」ことであるが、改革は「過去の延長線上ではない考え方や方法でより良くすること」である。今は戦前から戦後にかけて形成された社会システム、つまり政治、行政、教育、産業、企業などのシステムが制度疲労を起こしている時代である。変革期を迎えた今、あらゆる分野で改革を行い、新しい時代にふさわしい社会システムへと移行していかなければならない。
日本はGDPなどの経済規模では先進国レベルに到達したが、人びとの真の豊かさを実現するための社会システムという面では未だ開発途上国レベルにとどまっている部分が多く見られる。未成熟な社会システムを先進国のレベルへに引き上げることは、改革によってなされるのである。

(2)戦略、仕組み、意識の改革
企業は改革を推進するために、リストラクチャリング(Re-structuring)をすすめている。リストラというと雇用調整の代名詞のように使われているが、リストラクチャリングの本来の意味は企業の構造を組み替えることである。つまり、経営資源である「人、もの、金」の配分を従来とは違った分野に組み替えることである。これは「戦略の改革」といってもいい。企業環境の変化に対応して企業がリストラクチャリングを推進する過程では雇用の流動が起こり、産業構造も変化していくようになる。
またリエンジニアリング(Re-engineering)という改革も進めている。これは「仕組みの改革」である。もともとエンジニアリングというのは付加価値を生み出すための技術の組み合わせである。時代が変わり、今までの仕組みやシステムが制度疲労を起こして時代に合わなくなったから、さまざまな面の技術、やり方もつくりかえているのである。
以上の二つの改革はどこの企業でもいろいろなネーミングをつけて実行している。
 次にリマインディング(Re-minding)という考え方が登場する。右肩上がりの時代、 企業人は共通してある種の意識を植えつけられてきた。この意識の植えこみをマインドセットという。このマインドセットを組み替えるからリマインディングということになる。マインドセットの結果として代表的なものは、企業人の「依存」と「同質」のマインドである。リマインディングが目指す方向は、この「依存」と「同質」の企業人が「自立」と「個性」に向けて変わっていくことである。
リストラクチャリングとリエンジニアリングはトップダウンで速効性の効果を期待して急進的に進められる。一方、リマインディングは、ミドルアップダウンでプロセスを大切にしながら成果を求めることを急がないで進めることが望ましい。

3.リマインディングの考え方と実践
(1)意識が変われば企業が変わる
現象には必ず原因があり、原因と結果が直結しているというのが因果率の考え方である。例えば製品不良の発生は、その原因を見つけて対処すれば不良はなくなる。事故が起きれば事故の原因を見つけて再発防止をする。しかし意識改革にはこの因果律は当てはまらない。意識改革を進めたからといって、直結した結果がもたらされるものではない。世の中の因果関係には原因と結果が直結せず、因果が巡り巡って回っていくという事象がある。この「因果は巡る」をわかりやすく説明したものに「風が吹けば桶屋が儲かる」がある。この「桶屋が儲かる」式に「意識改革がもたらす結果」を説明すれば、次のようになる。つまり「意識が変われば行動が変わる、行動が変われば習慣が変わる、習慣が変われば人間性が変わる、人間性が変われば人生が変わる」という考え方である。同じように「意識が変われば、風土が変わり、企業が変わる」という因果律も成り立つだろう。なぜなら、組織風土は企業人一人ひとりの意識と行動が集まって形成されているからである。言い換えれば、経営陣を含めた企業人のレベルがその企業の組織風土を決定づけるということである。

(2)意識と無意識
見えない心をあえて構造化して絵にすると次のようになる。心は意識と無意識、言い換えれば顕在意識と潜在意識から成り立っている。顕在意識の表層には外部世界に対する自己防衛または潤滑材としての役割を果たすペルソナ(仮面)が存在する。周囲への過剰適応が続くと自分自身を見失ってしまい、いわゆるペルソナ人間になってしまう。自我(エゴ)は顕在意識の部分に存在し、本当の自分(自己またはセルフ)は潜在意識の部分に存在するといわれる。また潜在意識の深部には集合無意識と言われる領域が存在する。
これは深層心理学者であるフロイド、ユングの研究成果である。意識改革は意識(顕在意識)に直接に働きかけてすすめる方法もあるが、本稿で勧める意識改革は無意識(潜在意識)の層に働きかける方法である。
特に「異体験」は、無意識(潜在意識)の層に体験情報を蓄積することにより、意識の層にある価値観に影響を与えて古い価値観の新陳代謝を促す方法である。この方法は企業の現場での多くの実践例(臨床例)を重ねており、有効な方法であることが確認されつつある。また後述する内観と自己開示も無意識(潜在意識)に影響を与える方法である。

(3)リマインディングの方法(内観、自己開示、異体験)
ここでリマインディングの具体的な三つの方法、「自己開示」「異体験」「内観」について詳述する。この三つの方法は人間の成長にとって大事な「実践」と「内省」をベースに組み立てられている。「実践」は「行動すれば何かがわかる」ということで、逆にいえば「行動しなければ何もわからない」という考え方がベースにある。一方、「内省」は自分自身としっかり向き合い、自分の内面を見つめることにより人は成長していくという考え方である。「実践」と「内省」はバランスが大切であり、両方を組み合わせて実行することが大切である。「実践」の具体的な方法が「異体験」であり、「内省」の具体的な方法が「内観」、その中間にあるのが「自己開示」である。
まず「異体験」である。組織に属していると、組織が「たこ壷化」していることもあって、人の行動パタ−ンは定まってしまいがちだ。これを私は猫化現象といっている。猫が猫道を通ることと同じだからである。猫道を通っていると安心感はあるが、行動のテリトリーが狭まってしまう。行動のテリトリーが狭まると、見える風景と出会う人間が広がらない。そして意識の固定化が促進される。「異体験」は意識して猫道から外れることである。猫道をそれて行動することにより、見たこともない新しい風景を見る、会ったことのない人たちと出会うことができる。このような体験を通じて新しい価値観に触れ、その殆どは潜在意識に蓄積されていく。
次は「内観」である。「内観」というのは文字通り自分自身を内側から見つめることである。一般的に物事がうまくいかない場合、他に原因を求めて自分自身を納得させようとするものだ。つまり「外観」になっていく。一方、「内観」は自分自身に原因を探ろうとする。他人を変えることは難しいけれど、自分自身を変えることはできるという思想が「内観」にはある。この「内観」は浄土真宗の修行から発展し、現在では専門家によって心理療法としての方法論が確立されている。本格的な内観 は一週間ほどの時間をかけて専門道場である内観研修所で体験するのがよい。ここでは日頃、忙しくて時間のとれない企業人が日常生活の中でできる内観の方法を紹介したい。それは、もの心がついた頃からの過去を積極的に思い出すだけである。時間のあるときに原体験、つまり幼稚園の頃の思い出、小学校低学年の頃の思い出、というふうに細切れに思い出す。思い出そうと努力して思い出すことがポイントである。私たちは子供時代の思い出は忘却の彼方に押しやっているのが普通である。特に辛い思い出、悲しい思い出ほど、潜在意識の奥にしまいこんでいる。楽しい思い出も辛い思い出もありのままに思い出し、それを受け入れていく。このように原体験を呼び戻すと、自分の人生の節目、節目に他人から大きな影響を受けていることがわかる。「内観」を体験した人たちは口々に、自分は一人で生きてきたのではなく、多くの人々に「生かされてきた」ことに気がついたと言う。そして現在の自分があるのは、両親、家族兄弟、先生、友人、同僚などのお陰だと思うようになる。「内観」によって、このことを実感できた人は周囲に感謝する気持ちに切り替わり、自分自身の存在を他人のために役立てようとする方向に意識が変わっていく。
 三つめの方法は「自己開示」である。企業の生活はサバイバルレースになっているので、企業人は本能的に弱味を見せないようにして行動している。つまり背伸びをしているということだ。自己開示の目的は弱点を含めた等身大の自分を他人に開示しながら自分を変化させていくことにある。「自己開示」によって自分の個性を自覚し、自信を持つようになり、存在感が高まることにもなる。また過去へのこだわりがなくなり、脱皮できるようになる。個性がはっきりすると周囲からの風当たりが強くなるが、その風に鍛えられて意識改革が進む。「自己開示」の簡単な方法は、子供の頃のこと、家族のこと、地域でのこと、好きなこと、余暇の過ごし方、将来の夢などを日頃の人間関係の中で自然体で語ることである。心のドアの把手は人の内側についているという。ドアを開けるかどうかはその人の意思に委ねられている。他人の心のドアをこちらから、こじ開けることはできない。こちらが先に心を開いてこそ、他人も心を開く、そして心の連帯が生まれていく。
 
4.意識改革から組織風土改革への道筋
(1)意識改革と風土改革の関係
どんな企業でもその企業が持つ独特な雰囲気があったり,企業人が共通して持っている行動様式といったようなものがある。人間は誰でも環境に適応して生きていくので、ある職場に属するとその職場の行動様式に合わせて行動するようになる。このような目に見えない環境が組織風土といわれるものである。組織風土はその企業や職場の歴史のなかで培われてきたもので,DNAの遺伝子のように脈々と人を通じて伝えられていく。したがって,組織風土の本質は「その組織に属する構成員の意識、行動の集合体」ということになる。組織のなかにはそこだけに通用する常識といったものがあり,世間では通用しない常識もまかり通っていたりする。これがいわゆる「組織のたこつぼ化」である。「依存」と「同質」の企業人が集まって醸し出す組織風土は,異質を排除する雰囲気をつくっていく。一方、「自立」と「個性」を大事にする企業人が多数を占めると,違いや変化を認め合う創造的な雰囲気を持つ組織風土を形成することになる。これからの時代は、違いや変化を受け入れる組織風土を育くめる企業が強くなるだろう。自立し、個性のある企業人が周りに影響を与え、徐々に組織風土は変わっていく。

(2)依存、自立、相互支援
企業人、特に大企業に属している企業人は「大組織は潰れない、定年まで安心して働ける」という意識を持っている。しかし今、「大企業なら大丈夫」という安全神話が崩れつつある。この環境の変化に対応するために企業人は「依存」から「自立」に脱皮しなければならなくなった。ここでいう自立とは組織の中で自立することであり、組織から離れて独立することではない。自立は、依存してきた人がまず目指す目標であるが、仮に一人が変わっても、直接的に組織風土の変革にはつながらない。そこで自立した人たちが相互支援することが必要になってくる。企業人の相互支援という場合、依存している人たちの相互支援が多いのが現状である。これはもたれ合い、または派閥と言われるものであって、自立した人たちがお互いに支援し合う人的ネットワークとはほど遠いものである。自立した人たちが相互支援した場合は、そこから生み出されるエネルギーが組織風土を変えていくことになる。

(3)「場と共創」と「複雑系」
組織風土改革を支える理論に「場と共創」、そして「複雑系」がある。「場と共創」は清水博先生(金沢工業大学、場の研究所)が提唱する理論である。清水博先生は21世紀の社会を進化させる原理を生命学の視点から「競争」から「共創」へ、「自他分離」から「自他非分離」、「新幹線」から「ローカル線」へ、などのキーワードで説明している。
資本主義社会では「競争」こそ最大のエネルギー創出の源として捉えられ、社会のあらゆる場面に競争原理が持ち込まれてきた。ところが、今日、行き過ぎた競争によるひずみが社会のあちらこちらに露呈し、「競争」を超えた新しい進化のための原理が求められている。その一つが「共創」という考え方である。「共創」はそれぞれ異質な個人がお互いに協力し、新しい社会を創ろうという思想であり、これこそが「生きていく」という生命活動に合致する。
次に「自他分離」であるが、私たちは自分の内側と外側を分けて考える思考を知らず知らずのうちに身につけてきている。例えば現在、自然環境の破壊が急速に進んでいるが、これは私たちの内側、心のありようが荒れているからであり、それが外側、つまり自然の破壊という現象となって現われてくる。したがって、外側だけを対象として捉えて変えようとするのではなく、まず内側を変えなければならない。つまり「自他非分離」とは自らを外側の現象と分離しないで、作用し合う一環として捉える思想である。「自他非分離」は自然、社会、家庭、経済といった生命が生存するすべてのものに存在している原則である。組織も生きものであるから、この原則に反することをすれば、やがて生存自体が難しくなるはずだ。
早く目的地に着くこと、そのためのスピードが重視される「新幹線」は効率優先社会の最大の産物である。「新幹線」は便利であり、社会の進歩に大きく貢献している。一方、人間がいろいろな風景を楽しみながら人と触れ合って生きるという「ローカル線」の良さを失ってしまっている。「新幹線」は点と点の場所を結ぶだけであるが、「ローカル線」は人と人とのつながりや、地方の風物や人情といった平面の広がりをつくっていく。
次に複雑系についても簡単に触れておきたい。複雑系はアメリカのサンタフェ研究所で追究、理論化されたものである。複雑系を学び、それを実践することにより私たちが過去に常識として身につけてきた組織観は大きく変貌する可能性がある。その代表的な思想は、「個の自発性が全体の秩序を生み出す」「共鳴が自己組織化を促す」「ミクロのゆらぎがマクロの大勢を支配する」などである。以上の「場と共創」そして「複雑系」の思想は私たちが志向する企業風土づくりに密接に関係している。

(4)右手の法則、左手の原則
 ここで「右手の法則」と「左手の原則」について私見を紹介したい。
「右手の法則」の法則(Laws)は戦後の特別な時代、つまり右肩上がりの時代に有効に機能した。これからは「左手の原則」の原則(Principles)の出番が回ってくる。法則(Laws)は文字通り、流行、可変のものである。一方、原則(Principles)は時代を超えて不易、不変のものである。「右手の法則」は高度経済成長というある特定の時代には有効だったが、時代の変化とともに、右手だけの企業経営ではバランスがとれなくなってきた。従来、あまり使われなかった「左手の原則」も重要な役割を果たすようになってきた。
次に示すのは「右手の法則」と「左手の原則」をキーワードにしたものである。
今後、企業経営は効率と創造、統制と自由、フォーマル(公式)とインフォーマル(非公式)、さらに知識偏重のIQと感性を大切にするEQへとバランスを取るように変わっていくだろう。
義務教育とは階層別研修に代表される召集令状による教育である。塾には学びたい人が自らを高めるために集まるという教育の原点が存在する。
 PDCAというのは、プラン・ドゥ・チェック・アクションの略で、要するに計画をきちんと立ててから行動するやり方だ。それに対してACDPではアクションファースト、つまり、まず行動ありきである。行動してみて不都合なことがあったら修正を加えていく。つまり対応しながら考えようということだ。このほうが変化が激しい時代、また分散化、分権化の時代にはふさわさしいだろう。
金太郎は金太郎飴のことである。どこを切っても同じ金太郎の顔が出てくるように、これまでの日本の企業社会では周囲と同じような顔をすることが期待されてきた。これからは個性を大切にする桃太郎の時代がやってくる。桃太郎は雉、猿、犬という違った個性と才能を認めて活用する。雉は情報のシンボル、猿は知恵のシンボル、犬は忠誠のシンボルである。それぞれ特徴をもった異能を組み合わせてこそ創造が生まれるだろう。
マネジメント手法は管理と監督中心のSupervision から自律性を育てるEmpowermentに変わっていくはずだ。
長期的にみれば経営は「右手の法則」から「左手の原則」へとウエイトを移していくことになるだろう。今は古い波と新しい波がぶつかりあっている変革の時代である。したがって、右手の法則から左手の原則に急進的に切り替えるのではなく、右手と左手の両方をバランスよく使いわけていく時代であろう。このバランス感覚さえ失わなければ、将来は徐々に自由度の高い左手の原則が経営の主流になっていくはずだ。
(SHOIN 経営文化ジャーナル2001年3月号)

             
                ■
トップページに戻る