「企業風土の改革で元気企業を! 
―どうすれば職場風土は変わっていくのか―」
                      

 ご紹介いただきました北村三郎です。会社を退職して10年経ちましたが、未だに組織風土改革の実践と研究を続けております。私が「組織風土」に出会ったのは37歳の時でした。ある研修会で、企業には風土というものがあって、社員はこの風土に影響されて仕事をする、ということを教わりました。私はこの組織風土ということに強い関心を持ちました。それで会社に提案をして風土改革をやりました。途中で何回も挫折や失敗をしましたが、粘り強くやり続けました。70歳になりましたから、33年の間、風土改革をやっていることになります。会社を定年退職してから10年間、いろいろな企業、行政組織、労働組合、協同組合などの組織の中で風土改革のお手伝いをさせていただきました。そして、ここ2〜3年で分かってきたことがあります。そういうことも交えて皆様にお話したいと思います。
 私はあくまで実務家ですので、実務の話が多いです。そして風土改革とか意識改革という時に、その方法論がなかなか分からないんです。この講演の中で具体的方法論を三つか四つ、ご提示申し上げますので、何か一つでもそれを実行していただけると嬉しいです。

1.元気のある企業、病気に罹っている企業
 今日は「元気企業」ということがタイトルになっておりますから、この元気という言葉を使って、この二つを明確に分けてみたいと思います。元気のある企業というのは、社員がそれぞれの力を発揮している。いろいろな特徴のある社員がそれぞれの持ち味を十分発揮している組織。そして社員自らが考えて行動する。やらされているのではない。それは結局、社員の出力が上がるということで、やらされている状態では出力が上がらないんです。ですから極めて単純、当たり前のことですが、これを確認しておきたいんです。
 元気のない企業というのは、社員が組織に依存している。一種のパラサイト状態。それは上役の言うことだけを聞いている組織です。私も、30歳代くらいまでは、何とか上役の期待に応えたいということで上役の言うことをよく聞いて仕事をしていました。自分で考えて提案するというよりは、上役に気に入られるように一生懸命、行動していたというのが本当のところです。ですから、この差を明確にしておきます。高度経済成長の時代は、上役の言うことを聞いて仕事をしているほうが効率が良かったと思います。しかし、90年を境にして時代は変わりました。今のような時代は社員が自分の頭で考えて行動する組織、これが元気のある組織ということになると思います。
 次に大企業病という言葉が一時、流行語になったことがあります。元気のある企業の逆が、病気に罹った企業です。そして一番問題なのは、中堅、中小の会社に大企業病が伝染してくるということが一番怖いです。昔は子会社というのがありました。親会社の社員がある年齢に達すると、社長とか経営者として出向してくるんです。その時に大企業病のウィルス菌をそのまま中堅、中小の企業に持ち込んでくる。だから中堅、中小の企業に大企業病が蔓延しました。これはとても怖い病気で、中堅、中小の企業は大企業の仕事の仕方とはかなり違うのですから、そういうことも注意していかなければならないと思います。
 私は、今まで大企業に多く関わってきました。大企業病の診断は外からコンサルタントが診断する方法と、社員たちが自分の会社はどういう病気に罹っているのかを自己診断する方法があるんです。私は大企業の中で大勢の社員と共に大企業病の自己診断をやってきました。症状がまず出て、症状を次に病名にするんですけれども、いろいろな病気があるということが分かりました。たくさんある病気の中から、生活習慣病、いわば糖尿病、癌や高血圧のような事例として、大企業病の典型的な症状を三つ申し上げます。もしもそのようなことが皆様の会社の中に少しでもあった場合、かなり危険であると自覚して、早く治療に当たらないとそれがもっと蔓延して末期症状に至るかもしれません。
 一つ目は「自部門防衛病」です。組織の中には営業、開発、生産部門、いろんな事業部があります。よくあるのは自分の部門さえよければいい、他部門のことはどうでもいいと。またそれぞれの部門を統括する常務さんとか、本部長さんがいらっしゃいますから、自分の部門はなんとかお取りつぶしがないようにという気持ちがあります。ですから国でいえば本来なら国益を考えなければいけないのに、各省庁が自分の省の利益を考えて天下り先を確保しております。つまり「国益なくして省益あり」ですね。会社の中でもそういうことがあります。そして会社の会議はオフェンス、ディフェンスの応酬になることもあります。防衛するための資料を一生懸命に作って、つじつま合わせをしていく会議があります。そういう「自部門防衛病」、これが出てくると非常に危険信号だというふうに言えると思います。
 二つ目は「つじつま合わせ病」です。私も長いこと企業にいて、私自身が自己診断をすると、私自身がつじつま合わせをしていました。私が販売部長の時に、期末になると数字が出ないんです。そうすると何とか目標を達成したような形にする。そういうノウハウを先輩から教わってサラリーマンの知恵として蓄積していきます。ですから数字が達成したように見えるんです。そこにからくりがあるんです。そして決算期が次の期に移ると、数字が元に戻ってしまう、そういうことがあるんです。そのようななつじつま合わせの方法が、組織の中にはあるんです。特にその部門に長くいると、10年15年選手、そこで生きる知恵みたいなものができてきて、いろいろなつじつま合わせの技術、ノウハウが蓄積されていくわけです。サラリーマンはつじつま合わせが上手になっても、何か自分自身が人間としてすごく病気になっているような、心が病んでいるような、そういう自己矛盾があってなかなか爽やかな顔にならない。暗い顔になるというようなことがあるんです。皆様の会社の方で、ちょっとでもつじつま合わせが行われているとすると、それは大変危険な信号になります。
 三つ目に「やらせ・やらされ病」です。これは会社の中の二極構造、つまりやらせる立場の人とやらされる立場の人です。上役と部下の関係、あるいは企画部門と現業部門の関係、ラインとスタッフの関係。いろいろなところにそれが発生します。会社でやらせやらされの二極構造ができますと、先ほど申し上げましたようにオフェンス、ディフェンスの関係が生まれてきます。これはとても非効率でロスエネルギーが発生します。ですから健康な組織のあり方はみんながやる。やらされる立場の人がいるっていうわけではない。みんながやると。こういう状況がいいので、つじつまあわせがあっちこっちに発生するとこれは大企業病の症状ということになります。
 これは、タコツボから出ようよという小冊子です。私は今から10年前にいすゞ自動車を60歳で定年退職しましたけれども、私の最後の作品がこの作品です。風土改革の「100人委員会」という活動をやっていたのですけれど、最後の仕事としてこの小冊子を作りました。社員の中の欲しい人に配りました。全員に配ったわけではないですが、これがあちらこちらに普及して、この前、トヨタの人に会ったらトヨタの社員が、このタコツボの本を出してきたので私はびっくりしました。トヨタまでこの本がいっていたのか。あっちこっちにこの本が普及していたんだな、隠れたベストセラーだったんだなと思いました。
私はこういう本を発行することを許してくれた会社にとても感謝しています。これは会社という組織をタコツボに例えているんです。タコツボの中にさらにタコツボがある。これを昔の戦争の言葉で言うと、塹壕という言葉があるんですが、タコツボの中に塹壕がある。タコツボ内タコツボっていうことですかね。ですから、会社は大きなタコツボなんですが、更に小さなタコツボがある。それが各部門ということです。この入り口のあたりに部門長が陣取っているという感じです。社員は、ミミズ穴、塹壕の奥にミミズ穴があって、そのミミズ穴の中に閉じこもってしまう。だから大きな会社の場合は、社員がそのタコツボ全体を見た人は一人もいないです。社長でもそうです。社長でもある部門で成果を上げてタコツボの長になりますから、このタコツボ全体を見回した人は一人もいないのです。30年、35年を、ほとんどこのタコツボと、このタコツボの中で生活して定年退職をするという感じです。タコツボの外は大きな変化の風がビュービュー吹いているんですけれどもタコツボの中は無風状態、ぬるま湯みたいな感じがありまして、この中で生活をしていれば安心して生活ができる。それが右肩上がりの時代でした。そこで私達が社員に呼びかけたのは、タコツボから出ようよと。私達はこういう狭い世界に潜っているんだよと。そういうことを呼びかけたんです。私は会社にいる時から、そのタコツボの存在を何となく感じていました。しかし世の中はどんどん変わっている。タコツボに安住すると、環境の変化に対応できなくなってしまう。だからいろいろな世界を見よう。世の中はどんどん変わっているよ、社員はどんどん外に出て、広い世界を見ようじゃないか。そういうことをイメージとして作ったのがこの表紙なんです。

2.元気のある企業の実例と特長
次に元気のある会社の特長です。今日は元気ということがテーマになっています。私が33年間、ライフワークとして風土改革をやり、いい会社、並の会社、ダメ会社ということをいろいろ研究して現場の中に入り込んで調べてきましたが、今日皆様にご紹介する元気な会社の特長は次の四つだと見ております。
 一つ目は、変わるのが当たり前、変えるのが当たり前ということです。幹部社員がうちの会社は変わらないとか、変えたくないとか、変えなくていいんだなどと言っていると、かなり元気は失われてきます。
 二つ目が、計画段階で議論がなされており、決めたことは必ずやり遂げる。いろいろな会社を見ますと、計画が非常に甘いんです。そして計画を立ててスタートしますと、一年間経つと計画が未達に終わります。未達に終わっても、いろいろ理由をくっつけると、それが通ってしまう。そういう会社はどんどん疲弊していきます。ですから準備、実行、後始末とか段取り七分、とかいう言葉がありますけれども、計画段階に時間をかけて、そしてあらゆる状況を想定してしっかりした計画を立案する。そしてヨーイドンでスタートする。途中でいろいろな状況の変化が起きてもそれを必ずそこで修正する。最後にはきちっと目標を達成している。そういうことが当たり前になっている風土の会社。これは強いというふうにみております。多くの会社は計画がすごく甘いです。
 三つ目に2Sと挨拶が徹底されている会社です。これがやはり良い会社の特徴です。私もこういう仕事をしてますから、会社が朝8時30分に始まる会社ですと8時頃会社に行って社員が出勤してくるときの朝の挨拶を観察しています。朝、社員が黙って入ってきてすーっと座る会社。これは風土はあまり良いとは言えないです。元気のいい会社は朝の挨拶が良いです。しかも上役の人が、率先して挨拶をします。そこの挨拶の風景を見れば、職場風土の状況はかなり診断できます。
次に2S。2Sはご承知のように、整理整頓です。この整理整頓がダメな会社はほとんど風土は良くないです。人間は見た風景で心を整えるということがあります。整理というのは、要る物と要らない物を峻別して要らない物は処分するということです。整頓というのは、物のあるべき場所が決まっていて、ちゃんとあるべき場所に戻している。これが整頓です。ですから良い会社はこれがきちっとできています。
そして、そのようなことが徹底されているのがポイントです。一人や二人、そういうことをやらない人がいて、それが許されるっていうことはないです。挨拶する以上、全員が挨拶をする。整理整頓はみんながそれを徹底しているということです。この徹底というのは一つのキーワードです。
 四つ目は社員が自分自身でPDCAを回しているということ。これはご承知のマネージメントサイクル。P(Plan)・D(Do)・C(Check)・A(Action)です。これを上の人がPlanをして、そしてCheckは上の人がやって、社員はただDoをやるだけ。これでは元気がでないです。ですから会社として大きな方針、目標は設定されているけれど各論においては、各部の責任者あるいは担当者が、小さなPDCAといいますけれども、そのPDCAのマネージメントサイクルを自分で回すということです。時には失敗をしたりすることがありますから、それはチェックをして自分でアクションを取る。これが一つの大きなポイントになります。
私も長いこと風土改革をやってきて感じているのですが、今は他の企業と差をつけるということが重要な生き残り策になっています。ところが何か差をつけるというと商品で差をつけるとか、いろいろな技術で差をつけるとか、何か特別なことで差をつけたいというふうに思っています。これはとても重要なことではありますが、組織風土の観点でいうと当たり前のことで差をつけるということが大切です。これはどういうことかというと、実は多くの会社では当たり前のことがよくできていないということなんです。当たり前のことができていない会社がほとんどですから、先ほどの挨拶、整理整頓を含めて、うちの会社ではこの2Sと挨拶、これを徹底させましょう。これだけで組織風土は良くなります。ですからこれは当たり前のことです。だから他の会社ができていない当たり前のことを徹底させる。そしてそれで、社員が自信を持つ。しかもその状態に身を置いた時に自分がとても気持ちがいいっていうことです。このことがポイントでございます。
 次に元気がある企業の事例研究として、四つほど申し上げます。
一つは「伊那食品」。これは長野県の伊那市にある寒天メーカーです。スーパーなどにはあんまり商品を置いていないと思います。ほとんどが通信販売です。もしお時間がございましたら、伊那食品を訪れて、美しい庭に咲いている四季の美しい花、小さな美術館、整った工場、それから地ビールのレストランなどを楽しんでみてください。最近は観光バスなんかも立ち寄るようになりました。伊那食品はとてもいい会社だと思います。ここは年輪経営といって、木の年輪が少しずつ広がっていくような経営を志しています。ですから38年間、連続増収増益増員。増員ということがポイントです。人を一人も減らしていない。必ず人が増えているということです。なぜならば人を減らして利益を出そうとするのではなく、人を増やしながら増収増益をしているということです。
皆様にお配りした資料の中に、「いい会社をつくりましょう」という本の書評があります。これは伊那食品を長いこと率いていた塚越寛さんが書いた本でございます。この本は町の一般書店には置いていないんです。長野県小布施町にある文屋というところが出版していますので注文すれば手に入れることができます。これもやはり塚越さんの一つの思想だと思います。東洋経済とかダイヤモンドなの大手出版社が出すのではなく、地方のローカルの小さな書店で出してそれが隠れたベストセラーになるということなんです。
経営を勉強するときに松下幸之助さんの「商売心得帖」とか「経営心得帖」というPHP研究所から出ている本をお読みになったと思います。あの行間に線が引いてある本です。和綴じみたいな本なんですけれども。私はこの塚越さんの「いい会社をつくりましょう」という本は、現代版の経営心得帖、商売心得帖だと思っています。それほど優れた本でございます。ぜひ、お読みいただきたいと思います。
 ちょっとここでこの言葉を使うとちょっと変な、気になる言葉なんですけれども、あえてざっくばらんに申し上げます。塚越さんは企業の利益はウンチであると言うんです。私達は毎日生活をして、1日1回、ウンチをする。そのウンチは利益だからこのウンチをある日は特別に30パーセント余計に出す。またある日はウンチがまったく出ないというのは身体によくないですから、毎日、同じ量が決まった時間に出ることが大事なんです。企業の利益というものはそういうものなんだと。だから特にこの期はうんとウンチを出そうとすると、うんと余計食べなきゃならないとかいろんなことが起きて無理が起きるんだと。だから利益の性質はウンチと同じようなものなんですね。つまり、会社が日々、健康に活動した結果が利益なんだと。こういう思想なんです。ですからやたら無理してある時はパッと売り上げを増やすとかしないで、だから38年間連続の増収増益増員に繋がったんです。私は塚越さんをとても尊敬しています。
 次に「イエローハット」という会社がございます。イエローハットというのはご承知のように自動車用品の専門店でございまして、オートバックスとイエローハットが両横綱ということになります。イエローハットの創業者は鍵山秀三郎さんです。この方は昔は行商をやっていました。ハンドルカバーなどの行商をやっていてだんだん自動車用品店として成功されました。鍵山さんの名前がなぜ知られるようになったかというと、それはお掃除なんです。お掃除をひたすらやった。社員が出社する前に自分が会社に出て車を清掃し、トイレ掃除をしていたわけです。社員はうちの社長は掃除が趣味だから困ったものだとぶつぶつ言っていました。社長がトイレ掃除をしているとそれを跨いで社員が用を足していったということです。でも鍵山さんはお掃除を黙々とやっていた。そしてそれが今、「日本を美しくする会」ということで掃除運動として、全国に広がっている。ご存じの方、いらっしゃると思います。
鍵山さんが書いた本に致知出版からの「凡事徹底」という本があります。ですからこれは先ほど私が話したことと同じなんです。つまり平凡なこと、ごく当たり前のことを徹底してやることが大事なんだと。なにか特別なことを求めるんではないんだという考え方です。それで今日ここで一つ情報を提供しておきます。鍵山秀三郎さんと伊那食品の塚越寛さんが対談した本が平成19年の春、出版されます。この本は先ほど紹介した小布施の文屋さんが出版します。もちろん塚越寛さんと鍵山秀三郎さんはそれぞれ別な会社を経営しておられ、今まで一回も面識がなかったんです。本を作るとき、普通1回くらい対談してパーンと本を作っちゃうのが今の風潮ですが、塚越さんは東京のイエローハットの本社を訪ねる、鍵山さんは伊那市の伊那食品を訪ねる。お互いに行ったり来たりしながら3回くらい対談をして、たくさん写真を撮って本に仕上げて、間もなく発売されます。経営のあるべき姿、組織風土の本質などが著されると思いますので参考にしてください。私のホームページにも、そのことを逐次、紹介していきます。それをご覧になれば注文の方法なども分かりますから、ぜひ記憶に留めておいてください。
私は現代の経営者の東西の横綱はキヤノンの御手洗富士夫さん、伊藤忠商事の丹羽宇一郎さんだだと考えております。キヤノンの御手洗富士夫さんの思想、考え方は、さすが経団連の会長になるだけあり、その風土づくりという点において本物です。 
 伊藤忠商事の丹羽宇一郎さんも注目です。伊藤忠とは、私が元いすゞ自動車の北米部長をやっていた時に、アメリカで伊藤忠と合弁で販売会社を運営しておりましたので、伊藤忠とは非常に関係が深いんです。そして丹羽さんが社長になられた。丹羽さんは、名古屋の本屋さんの息子なんですけれども、名古屋大学を卒業後、伊藤忠に勤め、繊維畑を歩んで社長になりました。丹羽さんの「人は仕事で磨かれる」という本が出ていまして、とても良い本です。やはりあの人のすごいのは自分が地下鉄で電車で通っているということです。そしてカローラに乗って、社員と共にいつも語り合うみたいな姿勢があります。経営者が雲の上の人にならない、みんなと同じ目線でやっていく。だから社員がとても尊敬をしているんです。丹羽さんの生き方、経営者のあり方、それには本当に拍手を送りたくなる、そういう方です。言行一致です。言っていることと、やっていることとが一致している。それを社員が見ているということです。そして、社員が盛り上がる。だから風土づくりの原点は社長の行動である。言っていることと、やっていること、行っていることが一致する、これが一番のポイントになります。
 次に「トヨタ自動車」。これはもうさすがです。学ばなきゃならないことの宝庫です。
一つは、仕事ということに関する定義です。私たちは毎日仕事をしていますね。仕事という二文字の中身がトヨタ自動車では遺伝子として、創業者の豊田喜一郎さんの時代から伝承されています。特に大野耐一さんという方が看板方式を作った。あの頃からずっと伝統的な風土として根付いている考え方です。これは仕事というのは作業プラス改善であるという考え方です。ですから作業だけしていると給料を半分返してくれと言われるわけです。必ず改善をしなければならない。会社の中は改善の種の宝庫です。すべて完璧に完成された仕事なんてないです。どんなことでも改善の余地があります。それを社員が血眼になって探すわけです。そしてその改善の種を見つける。そして自主研と言うんですが、関係者でグループを作ってさっと改善してしまうということです。ですから乾いたタオルを絞るというくらい改善が進むわけです。
トヨタ本といってトヨタの改善を紹介した本はたくさんあります。いろいろなトヨタ本を読んでみても本質はなかなか分かりにくいです。あれもこれも書いてあるから。しかし一つのポイントは仕事の定義です。ですから皆様の会社でも作業をやっている人はたくさんいると思うんです。しかし50%は作業で50%は改善だから、改善をすることを風土とする。これがとても大事です。
 以上、元気のある会社の特長を四つに絞ってご紹介しました。


3.企業風土改革について
 今日は企業風土、組織風土の話でございますので、これから少し理屈ぽい話をします。よく企業文化、社風あるいは企業風土という言葉を使います。
企業文化というのは経営学の概念としても存在するもので、英語ではコーポレートカルチャーと言います。企業風土と言うのは英語ではオーガナイゼーショナルクライメットと言うんです。クライメットというのはお天気という意味ですから組織にはお天気があるっていう考え方です。いろいろな言い方があるものですね。
このようなことを専門に研究されている大学の先生もいらっしゃいます。企業文化と組織風土との違いなどを研究している人もいますが、私たち実務の世界では、そのようなことを調べても仕様がない。大体同じものだというように考えていただいて結構です。結局、組織には風土というものがあるんです。
経営資源というのは人、物、金の三大資源。これは経営学の本にも書いてあります。
その他にも三つの経営資源があります。それは情報と時間と風土です。これが見えない経営資源。ですから風土は経営資源なんです。
ところがこの風土というものを経営資源として捉えて経営される方が少ないのです。企業風土の本質というのは、職場で働いている一人一人の意識と行動の集合体であると。つまり会社というのは人間の集まりですから、そこにいる人達の意識と行動が風土をつくっています。従ってこの本質が分かれば、風土改革をする時にどうしたらいいかっていうのが分かるわけです。それが社員の意識と行動を変えるということにつながっていきます。言い換えれば、風土というのは企業の土壌です。企業活動というのは種をまいて、肥料をあげて育てて綺麗な花を咲かせたいのです。たくさんの収穫、つまりお客様の評価や利益を得たいわけです。そのような収穫を得るためには土壌がよくないと駄目です。ですから風土改革は一種の土壌改良、いちばん根本的なことです。また良い土壌から人間力が発芽し開花していきます。
 結局、企業というのは人間の集まりだから、社員の職業的な能力だけではなく総合的な人間力。それを発芽、開花させたいんです。ですから職業的な能力だけを発芽させるんじゃなくて、全人格的にその人の人間力を発芽させていく、そういう土壌を作りたいんです。
 右肩上がりの時代は、そういうこと言わなくてもよかったんです。その人の職業的能力だけを買ってくればよかった。ところが今はそういう時代ではないです。人間力というのがキーワードです。この土壌がよくないと、人間力が発芽しないんです。せっかく持っている力が、開花していかない。みんなの力をフルに発揮させたい。そういう土壌を作りたいということです。
 もう一つの職場風土の定義です。
私はこの定義を30年間くらいずっと温めてきました。それを資料でお配りしました。定義は次のようなものです。
その部門の人達が疑問を持つこともなく、ごく当たり前と考えている仕事の仕方、行動の仕方の常識、暗黙のルール、価値観のようなもの。社員はその風土に従って行動する。これが職場風土の定義なんです。
 「その部門の人達」という表現に注目してください。ですからトヨタ自動車の人達と言わないんです。トヨタ自動車の開発部門のエンジン開発課の人達、営業部門の商業車販売部門の人達、そういう感じなんです。ですから部門の話なんです。
会社によっても風土は違いますが、部門によっても風土は大きく違います。例えば営業部門、開発部門、生産部門の風土は大きく違います。人事部門は人事部門の風土があります。人事の人は入社した時から人事の職場風土に慣れて、疑問を持つことがなく当たり前と考えているわけです。それも10年15年の単位で、ずっといきますから。ですからその部門の常識は世間の非常識みたいなのがあります。だからお役所なんかでも、いろいろなお役所の常識があるでしょう。だけど一般庶民から見るとすごく非常識なこと。それを平気でやっているところがありますね。だからタコツボと言われるのです。
 これは私が現役の時代に、社員に説明するために作ったものです。私は、会社にいる時、現在もそうなんですけれどもかなり辻説法をやるんです。辻説法って言うのは「変わろう。変えてみよう。」と呼びかけることです。そういう呼びかけをするためには、難しいことでも分かり易く説明する能力が必要なんです。世の中は逆のことがあります。説明の仕方を工夫すれば、シンプルでわかりやすく説明できるのに、難しく説明する人がいますね。それのほうが偉そうに見えることもあります。
経営改革の考え方を分かり易く説明するにはどうしたらいいか、いろいろ工夫しました。そこで、この方法を考え出したんです。
次に三位一体の改革です。一つはリストラクチャリングなんです。リストラっていうと雇用調整の代名詞、クビ切りの代名詞のように言われていますけれど、本当は違う。構造改革なんです。ストラクチャーというのは構造のことですから、企業でいえば、一つの工場を閉鎖して、工場と工場を統合するとか、あるいはこのマーケットから撤退するとか、そういうことです。商品戦略、市場戦略などいろいろな戦略がありますけれども、右肩上がりの時代からみると環境が変わってきたので、戦略を組み替える。この「リ」という接頭語は繰り返すという意味と組み替えるという意味があります。ですから構造を組み替える。だからリストラクチャリングということです。今の時代、企業はリストラクチャリングをしなければ生き残ることはできません。どこの会社でもやっていることです。
もう一つは、仕組みの改革です。これをリエンジニアリングと言うんですけれど、エンジニアリングというのは、付加価値を生み出す要素技術の組み合わせ。戦略だけでは付加価値を産み出しませんから、付加価値を産み出すための仕組みが必要です。
製品を開発してそれを商品化して、販売ルートにのせてアフターサービスしていく仕組みのことです。
自動車で言えば、昔はほとんどが見込み生産。3ヶ月後にはこれが売れるだろうと仕込んでいたわけです。今はもう限りなく、受注生産に近づけて在庫を減らすような仕組みに変えています。それをリエンジニアリング、仕組みの改革。いろいろな仕組みを今、変えようとしています。
この戦略の改革と仕組みの改革はどこの会社でもやっています。これをやっていない会社はありません。生き残れないから。その戦略と仕組みを動かすのは社員です。幹部社員や社員の意識が、すごいスピードで変わって行く戦略や仕組みを動かせるように意識を変えていかなければならない。長い間、右肩上がりの時代に慣れ親しんでいる人が今、幹部社員になっております。私たちは偏差値教育の中で上を目指して頑張ってきました。私の学生時代にいちばん力を注いだのが、正解が分かっている問題をどれだけ早く解くかという能力の開発でした。予備校や塾で。ですから正解がある問題を解くのは得意、そういう脳になってしまいました。だから左脳肥大、右脳縮小みたいな感じになっているんです。今のような変化の時代、直感が働かないといい仕事はできないですね。ですから昔、マインドセットされた脳をもう一回解き放って時代の変化と共に、マインドイノベーションをする。リマイングと言っているんですが、もう一回マインドを組み替えると、そういうことが行われないとこれが三位一体として動かないということです。そういうコンセプトです。
ですから戦略、仕組みの改革の他に社員の意識を変える、変わるのが当たり前という意識に変えていく。そのようなことを経営として努力されることをお勧めしたいと思います。
そこで、これも私が長いこと考えてきて、現場で見つけた考え方ですが、改革の場合、この三つのやり方を組み合わせることが必要です。組織は必ずトップとミドルとそれから現場第一線、まあボトムっていうふうに言いますが、ボトムって言う言葉はあんまりいい言葉ではないのでフロントラインとか、第一線という言葉を使いたいのですけれども便宜上、こういう言葉にしています。
 トップの役割は右肩上がりの時とは大きく変わりました。今のトップは改革の方向性をきちっと示すのが重要な役割です。そして、改革を決断する。トップの指導性がない限り改革は進みません。政治の世界でも行政の世界でも企業でもみんな同じでしょう。それで次にミドルアップアンドダウンというのがありますが、組織は必ずトップがいてミドルがいて、ローアー、ボトムがあるわけです。どんなに時代が変わってもミドルはなくならない。昔のピラミッド組織には13とか14もの階層がありました。今はそれがフラット化して平たくなってきます。だけどもミドルはなくならない。組織には必ずミドルが必要です。ミドルの仕事はとても重要です。風土改革にとっても同じです。本当に優秀なミドルというのは上に対する影響力が強いです。下に何かやらせるだけではなくて上へ。ですから頼りになるのは上役に影響力のあるミドルです。ですからミドルアップアンドダウンということになるわけです。ミドルが改革の主役になるべきです。それは何故かというと改革の提案ですね、これはミドルがした方がいいです。方向性は上が出す。しかし具体策はミドルが出すということです。その場合に、私が勧めるのは必ず選択肢を出すこと、二つ案を出す、一つに絞らない。必ず代替案を考える癖を付ける。一つの方法だけにするとそれが全部いいことだ、いいことだって理由を付けるようになるからです。そして改革の主役、実行の主役はミドルです。
 そしてボトム、第一線は、さっきのトヨタの考え方がいいんです。つまり改革と改善は違うでしょう。改善というのは過去の延長線上でもっとよくするのが改善です。
一方、改革というのはオールクリアとかご破算にして過去のものをチャラにして新たな仕組みを作ることです。だから現場第一線というのは、改善の主役なのです。だから今ある仕事をよく見直して、改善の種を見つけてそれを小集団で直していくというところがボトムの役割です。改革はあくまでミドルということです。
改革の実行はトップが決断をしなければなりません。そしてミドルが進める改革をサポートしないと駄目なんです。「改革をやれ」と言っておいてはしごを外すトップもいます。トップとミドルがよく連携して進めないと改革は挫折することが多いのです。このことをぜひ頭に入れておいて欲しいです。

4.意識改革について
 次にどう変わったらいいのか。
「変われ変われ」と言う場合、どう変わったらいいのか、という問題です。結局、自立なんです。自立と言うと、会社を辞めて自分で自営するというふうに考えやすいんですけれども、私たちは組織人は組織の中で自立することが目標になります。
ですから組織の中で一人一人の社員、特にミドルが自立していくこと。これが非常に重要なんです。ところが右肩上がりの時代は依存でした。。ですからみんな社長の方を向いていました。それのほうがうまくいった時代だったのですね。多くの大企業では社員全員が上を向いていた。「ヒラメ社員」ということですね。ですから取締役になっても自立しない。取締役は常務を見ている。常務は専務を見ているみたいな感じがあったんです。組織の中で自立すること、これを求めていきたいのです。
それでは自立とはどういうことなのでしょうか。このような二文字言葉は、企業でよく使われますが、分かったような分かんないような曖昧な表現です。だから組織の中で使う二文字言葉は、なるべく定義をしておくといいんです。私の定義では「自立とは自分の頭で考えて自分の心で判断する」ということになります。この定義を会社の中の共通用語にしておくことです。
私がサラリーマンだった時代、上役の頭で考えて上役の心で判断してもらったことを実行すればよかったのです。うまくいかない場合は上役の責任に転嫁できますからね。自立するということは自分の頭で考えて自分の心で判断する。特に自分の心で判断するということを大事にしています。
人間には二重チェック機能があって、頭で考えていいと思っても心が受け付けないものは何となくおかしい。理屈は通っているけれど、心が拒絶反応を示すものは実行を拒否していく。そういう感覚が組織の中では必要なんです。心で拒否したもの、おかしいと思ったことを誰も気づかずにやり続けると組織の感覚は麻痺していきます。だから自立した社員を育てることは一種の免疫細胞を増やすことと同じなのですね。不祥事の誘惑などの病原菌、ウイルスが入ろうとしてきた時に免疫性があればそれを防げる、そういう感じなんですね。ここのところを経営者の人はよく指導して行く必要があると思います。
次に、意識が変われば人生が変わる。これは私が言ったことではなくて、昔から伝えられている言葉です。
 私は長い間、この言い伝えが正しいものかどうかどうかを検証してきました。今ではこの言い伝えを若い人たちに本当にいいことだよと勧めることができるという確信に至っています。
まず意識が変われば行動が変わる。子供には「意識を改革しなさい」とは言いませんね。子供には躾をしなければなりません。だからこういう風に行動しなさいと教える。子供は行動から意識ができてくるわけですけれども、大人に対してこう行動しなさいという行動基準を作ってもなかなか守られないです。ですから意識が先になります。意識を変えて行動を変える。そしてその行動を繰り返し繰り返し行なう。行動を繰り返し反復すると必ずそれが習慣になります。
次に「習慣が変われば人間性が変わる。」ということです。
先ほど人間力、人間性が大事だと言いました。人間性を高めるというのは単なる職業的能力を高めることだけではない。人間力、人間性を高めることを目標にしている会社はどこでもいい風土になっています。
 意識改革というのは会社をよくするためやるのではない。人生をよくするために意識改革をするんだよって言うと、社員は意識改革をするんです。このところをよく考えてみてください。意識改革をし続ける人達の集団がいい風土を作るわけです。ですから人生をよくするために意識改革を続けていくと、それが巡り巡って風土がよくなって会社がよくなるんだと、そういうふうに考えるといいですね。
 人間性が変われば人生が変わるというのは、これはどういうことなのでしょうか。これもいろいろ検証してきましたが、人間性が良くなると応援者が出やすいようです。それではいい人間性というのは、具体的に言うとどういうことなんだと聞かれます。これはみんなで考えてもらいたいんです。いい人間性ってどういうことなのか。
一つ言えることは、自分のことばかり考えているのではなく、自分の周りをよくしたいと考えている人。これは人間性がいいことの条件でしょうね。
それからもう一つ。人間性がいいかどうかの判断基準は謙虚な人です。今まで謙虚な人で人間性が悪い人に会ったことはない。謙虚の反対はごう慢です。ごう慢な人は自分に自信がない人が多いのです。これは長い経験を通じて人を見る時の判断基準になりました。、私は以前、営業をやっていました。営業のプロは最初の5分間の対話でこの人はどういう人かを見分けます。人を見る眼力がないと商売はうまくいきませんからね。
 次に行動変化のプロセスです。
肉体の成長は20歳までです。一方、知、精神、心の成長は死ぬまで続けることができるんです。しかし多くの人は35歳くらいになると水平飛行。いわゆる惰性の軌道に入ってしまって、成長が鈍化してしまいます。ですから変わり続けることは成長することと同じことであると考えるといいのですね。意識が変わることも大事ですけれど行動が変わることがもっと大事。言動が変わっていくということが大事なんです。言動はどうすれば変わるのでしょうか。それは日常で気づきがあるかどうかなんです。気づかないことにはどうしようもないという感じなんです。
だから結局、意識改革を進める上でどうやって気づかせるか。その方法論の開発になるわけです。私たちは日常ではほとんどの行動を無意識でやっています。気づくというのは無意識から意識に変わるということで、つまり意識化するすることです。
意識して変えるように行動する、その行動を継続するとその行動が習慣化するんです。
風土改革というのは、そこにいる一人一人の社員が意識改革をして行動が変わっていく、その集積が風土として変わっていくのです。だから意識改革の重要性はわかっているけれど、どのように意識改革をしたらいいのかがわからないという人が多いのです。そこで私は三つの変わり方のワザを時間をかけて開発してきました。
 その一つが異体験です。私たちは行動がパターン化しますから、猫道に入って同じ道を毎日、歩いているようなところがあるんです。ですから猫道を外れて新しい道も歩いてみたいのです。ですから教室の中で勉強をしていてもなかなか意識改革はできない。意識改革には二つの要点があるんです。
 一つはですね、志のある人に会う。それからもう一つは、いい現場。経営でも何でも、いい現場があります。学ぶべき現場。それを見ることです。そうするとそれを五感で、左脳だけでなくて五感でそれを吸収する。そうすると価値観が変わるんです。価値観のことは後で少し触れます。
 二つ目は、自己開示。自己開示というのは英語でセルフディスクロージャーというんです。私たちが日常、行なうのは自己紹介で英語ではセルフイントロダクションですね。自己紹介では自分をよく見せようとします。
 昨年からNHKで「プロフェッショナル仕事の流儀」というのが放送されていて脳科学者の茂木健一郎さんがガイドしています。昨年8月10日に夏の総集編というのがあって、今まで22人のプロフェッショナルが登場して、その共通項を茂木さんが解説してみせました。その中でプロフェッショナル22人がみんな挫折を体験している。その挫折を克服するためにどのような方法を取ったかというと、ほとんどの人が自己開示をやっています。部下に対して、または仲間に対して。つまり自分が抱えている悩みを打ち明けているわけです。そこで一体感ができて、壁を乗り越えているわけですけれども。自己開示能力というのはすごいワザです。つまり自分を格好良く見せないで背伸びしないで等身大で見せるっていう感じなんです。自分の弱いところも含めて。だから一番私がすごいなって思うのは、上の人が部下に弱みを見せる。そうすると部下はグッと側に近づけることができるんです。そういう心の距離。
 三つ目は、内観です。私達は過去、現在、未来に生きていますね。今までこうやって生きてこられたのは、いろいろな人のお世話になって生きてきているわけです。人に助けられて生きてきている。だから自分の過去の歴史をきちっと把握できた人は、結局自分が生きてきたっていうよりも生かされてきたという自覚をもつようになります。そういう感覚になると今までのご恩を社会のためにお返ししようという気持ちになるので内観っていうのは非常に有効なんです。
 この三つの方法はワザです。知識ではないので、試して実行してそして体得する。体で覚える、そういうことをやっていくわけです。
 ここで、少し理論的にご説明しなければいけません。「変わりなさい」と言うと、性格を変えるこというように感じる人がいるんです。ところが性格を変えるのは難しいというのが結論なんです。性格というのはほとんど遺伝子。先天性のものです。だから同窓会へ行くと分かるでしょ。小学校時代の友達にしばらくぶりで会っても性格はほとんど変わらないじゃないですか。何が変わるか。後天的なもの、学習したもの、それは価値観です。
実は価値観が重要なんです。価値観っていうのは何を大事にして何を大事にしないかということの優先順位です。つまり人間は自分が大事だと思っていることに対して行動するんです。大事だと思わないことには行動しない。人間はお金が大事だ、あるいは出世が大事だ、家族が大事だ、友達が大事だ、健康が大事だ、いろんなことがあります。全部は満たされないから無意識で優先順位をつけています。若いときの価値観の優先順位は年を取っていくと変わっていきます。だから意識改革は価値観の新陳代謝というとわかりやすいでしょう。ですから無理に変えようとしない。異体験をすると意識は自然に変わっていきます。新しい価値観が入るから。そうすると古い価値観が自然にどこか行ってしまう。それで新陳代謝になる。性格は変わらないけど、行動は変わります。そのように考えた方がいいです。価値観には人間観、組織観、人生観、仕事観などがあります。私は長い間、価値観を研究していますが、いちばん大事な価値観は宗教観と死生観ではないかと思っています。
ここで「死生観」に関する本を紹介をします。富山県にオークスという冠婚葬祭の会社があります。今は駅前に立派なホテルを経営しています。その会社の専務だった青木新門さんという方がいらっしゃいます。この方は長い間、葬儀の納棺の仕事をやっていました。亡くなった方を4,000人ほどお世話したのでしょうか。その体験を「納棺夫日記」という本にまとめて文春文庫から出しています。2回ほどお目にかかって、いろいろ教わりました。「死生観」に関して言えば、私たちは生から死を見ていますね。ところが青木さんは死から生を見ています。すると不思議に生き方が変わってくるんです。死生観と同様に宗教観も大事です。私は最近はイスラムとかヒンズーに関心を持っています。「死生観」「宗教観」などに関心を持つのは趣味の世界だと言われそうですが、「人間観」とか「組織観」などはたまには点検してみるといいと思います。
「組織観」の一つの見方を紹介します。組織の実体は20人ほどの対面小集団の連鎖であると。つまりどんな大きな組織、例えば10万人の組織でも、組織の実体を小企業の連合体であるというふうに考えると組織への関わり方が変ってきます。ところが大きな組織に属している殆どの人は「自分は歯車の一つに過ぎない」という組織観を持っているのでどうにも動きがとれないのです。要するにどんな巨大組織でも小企業の連合体。こういう組織観を持っていると一人の人間でも組織にかなりの影響を与えることができます。もう一つの組織観。「組織は自己実現を社会実現に転換する変速機である。」今は自己実現ができる時代でしょう。ところが自己実現だけではなく社会のために役立つような人生を送りたい、という人もいるのです。社会のために役立つには一人よりも組織があったほうがいい。そういう組織観です。このことをぜひ考えていただきたいと思います。
次に風土改革の処方箋です。風土改革はどちらかというと、漢方処方がいいと思います。漢方処方は遅効性ですが万能的効果があります。
三味位一体の改革のうち戦略の改革と仕組みの改革は速効性のある西洋医学的な処方がいいでしょう。ところが東洋医学、漢方処方というのは一つの病気に効くだけではなく効果が全身に広がっていくような感じがあるんです。ですから漢方処方としていろいろなクスリを試して、有効なものだけを処方箋としてお勧めするようにしています。この中の一つでも実践されたらいいと思います。
 一つはトップからのメッセージです。いい会社になるかダメ会社になるかはトップによって決まります。副社長とか専務ではありません。社長のものの考え方、価値観、あるいは難しく言うと経営哲学のようなものです。お正月とか期の初めに「わが社はこういう風土を目指そう」というメッセージを発信する。社員に直接、伝えるのがいちばんいいけれども社内ネットとか社内報を通じて発信してもいい。それには社長が会社の現状を見てこういうところがとっても気になる。こういうところは何とか直したい。そういう思いがないといけない。組織風土の現状をしっかり把握して書くのが大事です。
 それから意識改革の研修会をすることです。特に「自己開示実習」が有効だということがわかってきました。「自己開示実習」をすると社員相互の心の距離が近づいて一体感が生まれます。特にミドルの人、そして経営者の人に「自己開示力」があるかないかによって一体感の作り方に差が出てきます。
それから風土診断ミーティングです。「問題は何か」かが分かれば解決への道筋は立てやすいです。知識偏重教育を受けてきた人は問題を解決する能力はあっても問題を発見する能力は弱いようです。ですからミドルを中心に「うちの会社の残したい風土、変えたい風土」などを本音で語って自己診断する。コンサルタントが診断するのではなく、社員たちが自覚症状から自己診断をする方法をお勧めします。自己診断して見つけた病気は治療がしやすいからです。
 優れた風土の会社をグループで訪問するという処方も効果があります。世の中には「優れた風土の会社」、「並の風土の会社」、「ダメな風土の会社」っがります。「優れた風土の会社」は業績もよく社会からも支持されています。そのような会社をグループで訪問、その雰囲気を五感で感じるのです。
私が主宰する「風土改革研修」では「いい風土の会社をグループで訪問してわが社に取り入れたい中身を発表すること」という課題を出します。訪問する会社を見つけたり訪問の手続きもすべて研修生が行ないます。人事部や総務部は手伝いません。そこで研修生はどう対応するか、興味があるところですね。いちばん多いのが同級生ルートの活用です。同級生を棚卸ししていくと、どこどこ会社の管理職になっていることもあります。そのルートを辿って訪ねて行くのです。研修チームのメンバー一人一人が持っているリソースを総動員して、訪問する会社を見つけて、訪問する。
そのすべてのプロセスを発表し合います。このようなタコツボの外のいい風土や習慣を取り入れるような研修方法。ですから研修のやり方も大きく変えていきたいです。
 よくあるのは階層別のメンバーを集めて研修室に閉じこもってケーススタディーかなんかをやります。それをやってもいいけれども、私に言わせれば大した効果はないと思います。
最後にもっとも効果があるの処方箋。それはトイレ掃除の会に参加するということです。これはちょっと突拍子もないことを言うようですけれども、私は12年前にこのことに気づきました。鍵山秀三郎さんの「日本を美しくする会」。インターネットで「日本を美しくする会」を検索すれば出てきますし、新潟県にも支部があります。小学校とか中学校に行ってトイレ掃除をするわけですが、主婦や学生、企業人、いろいろな人が集まって掃除をするわけです。私は12年間、掃除をしています。参加するたびに新しい気づきがあるんです。今まで汚かったトイレの一つの便器を徹底的に綺麗にするんです。掃除道具の準備の仕方、その道具の使い方もいろいろ工夫がされています。およそ2時間ほど集中して掃除をすると見違えるように綺麗になるんです。掃除をする前と掃除をした後の違いがよく分かる。汚いものが綺麗になる、それがよく分かるわけです。人間は環境に適応して生きていく動物だと言われるけれど、トイレ掃除をすることにより、身の回りの環境なら変えることができるということを実感するんです。お掃除の効果は体験してみないとわからないと思います。一度、騙されたつもりでお掃除の会に参加してみてください。今、この掃除の活動が上海、北京、ブラジル、ニューヨーク、台湾まで広がっています。
以上、風土改革、五つの処方箋を示しましたけど、このうちの一つか二つでも実行すれば必ず変わっていくと私は確信しております。
しかしそれがすぐに業績に繋がるということはありません。会社は長期と短期のバランスがよければ長期的に繁栄を続けていきます。風土改革は長期に耕す活動ですから、このようなことにもコストをかけておいた方がいいでしょう。
 次に社員の三つのタイプについて説明します。これはあなたの会社にはどのような社員が多いのか考える視点です。私は毎月1回、開催される新宿歌舞伎町での掃除の会にできるだけ参加するようにしています。およそ200人くらい集まります。歌舞伎町で朝6時から掃除をしていると、次のようなことに気づきます。私が掃除をしていると、目の前の道路にたばこの吸い殻を捨てていく歩行者がいます。
それから、たばこの吸い殻を路上に捨てないも少ないけどいるんです。道端に捨てることは良くないことだという意識がある人ですね。そういう人は携帯用の吸い殻入れにしまうとか、喫煙室でしかタバコを吸いません。
それから三つ目に、とても稀なのですが路上の吸い殻を拾う人がいます。
朝早く、犬を連れて散歩しているとお年寄りの人が一人でタバコの吸い殻やゴミを拾っている人がいます。いらっしゃるんですよ。世の中にはそういう人が。
 結局、社員も大体この三つのタイプに分かれるのです。今はタバコの吸い殻の例で話をしていますが、これは「一事が万事」ということで、社員のすべての言動に共通することです。
さて最後に70年間の人生の体験、33年間の風土改革の体験で気づいたことをお話ししたいと思います。
 人生を90年と仮定してみましょう。そうすると、0歳〜10歳までは野球でいうと1回なんです。私は70歳だから70歳〜80歳というのは野球で言うと8回なんです。実は、ラッキーセブンというのは野球で一番大事なところでしょう。7回の裏表。これは60代なんです。
私は定年後、「人と情報の研究所」を創っていろいろな企業で風土改革をやりながらいろいろな人を見てきました。サラリーマンの現役時代、また定年後の生き方なども興味を持って見ています。これから団塊の世代が続々と定年退職しますね。私が言いたいのは「知、精神、心」で最も脂がのるのは60歳代だということです。過去に学習したこと、経験したことがすべて活きてくるという感じがします。ですから定年がゴールなどとは絶対に考えないで、まだまだ30年ある、ひょっとしたら延長戦もあるかもしれないという長期の視野で学び続ける。そうすると60歳代、つまり7回、ラッキーセブンが’もっとも充実してきます。私が会社にいたとき、特に40歳代(5回の裏表)は本当に忙しかったです。午前、午後の会議、出張、それから部下の査定。それから会社までの通勤に往復2時間もかかるんです。定年になるとこれからすべて解放されました。24時間を好きなことに自由に使える。できれば過去に会社で体験してきたことを活かせるといいのです。
 それから、もう一つ。人生で脂をのせることができるかどうかの分かれ目は学び続けることができるかどうかです。
学び続けるためには「学ぶこと」と「働くこと」と「楽しむこと」を一体化させるのがコツなんですね。これができると生涯、学び続けて、成長できるんです。サラリーマンの現役時代は、この三つが分離されているんです。会社は働くところ。それから学ぶのはビジネススクールとか、通信教育とかになる。それから楽しむのはアフター8とか土曜、日曜でしょう。この分離されている三つを次第に重なり合わせていきたいんです。そしてラッキーセブンに入った時にこの三つをほとんど一致させたいのです。そうすると本当に自分の好きなことができるという実感が持てるようになります。ですから会社の仕事を好きになって楽しみながら工夫してやっていく、そして定年になってからも引き続いて好きなことをやれるように。そういう長期的な視点が大事だと思います。
 私の場合は風土改革というテーマを33年間やってきました。一つのテーマを追求し続けおよそ30年くらい経つと、登山で言えば8合目くらいに到達すると思います。8合目くらいに行くとそこに山小屋があって、山小屋に泊まります。するとその山小屋で出会った登山者が同じようなテーマを追求しているんです。何か一つのテーマをずっと追求して20年〜25年、30年くらい経つと同じテーマを追い求めている同志に出会えるというのが私の実感です。
だから私が上甲晃さん、鍵山秀三郎さん、塚越寛さん、今日、名前を挙げた方々に出会えたのも、一つのテーマを追求してきたからなんです。だから皆様もいろいろな思いがあって働いていると思いますから、何か一つ、テーマを自分で探してみてください。30歳代、40歳代はまあ、仮テーマでいいですね。だんだん自分のテーマが決まって、そのことを深堀すると、必ず年を取ってからでも社会のためにお役立ちできるという人生が送れるんじゃないかなと思います。
 それで目指したい企業の理想は、次の三つになります。元気のある会社の第一の条件は利益を出し続けることです。利益を出さないと、いいサービスができない、社員の処遇も上げられない、新規投資もできない、新製品の開発もできないからです。
二つ目は地域社会から支持されている。特に私は地域社会と言いたいです。地域の人たちからその会社の存在が有難いと思われる。三つ目は社員が育っているということです。社員を単なる労働力として使うのではない。働きながら職業能力はもちろん、人間性、人間力も成長していく。以上のことは企業の収益性、社会性、教育性ということですけれども、この三つのことをバランスよくやっていく会社がいい風土だということになります。
 最後に、私も改革者の一人として改革を実践していますが、改革者の三つの条件というのを最後にお話したいと思います。
 一つは、志を持つということです。私自身、若い頃、出世したいとかお金を稼ぎたいとかを第一に考えて、すごく頑張ってきました。私にもそれなりの野心がありました。野心というのは自分のことだけを考えているところがありまして、野心で風土改革をして一旗揚げたいと思ったこともあります。風土改革が山場にさしかかったときに壁にぶつかりました。そのとき「野心でやるからうまくいかない、志を持って進めることが大切」ということをある先輩が助言してくれました。志というのは自分のために働くというよりは社会のために働くということです。それから悩んだ挙句、「志の修行」をすることを決心しました。それから上甲晃さんの志ネットワークに参加したり、トイレ掃除をしたりしました。
それから私のやり方も少しづつ変わってきて、仲間たちから支持されるようになってきました。だから企業の改革でも改革をする人は志を持つことがいちばんの条件だと思います。
それから、もう一つ大事なのは、企業では評論家はいらないということです。私はいろいろな企業に行きますが、企業の中にも多くの評論家がいるのに驚くことがあります。うちの会社はこうだからダメなんだというダメな理由は見事に分析するけれど、自分で変えようとしない。企業には評論家ではなくて当事者が必要です。当事者というのは足元から変えることができる人です。当事者は自分の職場、そして自分が影響を及ぼせる範囲から変えていきます。組織の実体は20人の対面小集団の連鎖ですから、自分の足元を変える人が増えて、広がっていけば会社は必ずよくなるんです。このような考え方を社長が出したらいいですよ。自分の足元から変えようと。そのような着実な実践を評価していけばいいんです。そういうことの積み重ねです。ですから私はミクロの改革はマクロの改革に繋がるとみるわけです。だから日本の改革もそうです。政治、行政など「公の改革」もこれから進むでしょう。しかし、「民の改革」。私たち、民間の力で社会を変えていく。教育を変えていく。そういうことをやりたいです。そういう仲間をどんどん増やしていきたいと思って、今、同志を募ってやっているわけでございます。
 最後に、結局、自分が変わることなんです。経営者が自分は変わらないで、社員に「おい、変われ」と言ってもダメなんです。自分が変われば周りが変わるんです。夫婦の関係もそうでしょう。相手を変えようと思っても駄目なんです。自分が変わると相手が変わるんです。
 いろいろ生意気なことを申し上げましたけれども、皆様のお役に立ったでしょうか。相談事とか何かありましたら、どうぞご質問、あるいは終わった後でもいいですし、また、日頃いろんな相談事があったら、どうぞメールその他でもお問い合わせください。何かのご縁ですから一生懸命、皆様のお役に立ちたいと思います。ご静聴ありがとうございました。
                  平成18年9月26日  新潟県経済同友会にて



        
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