猫道を外す

 「踊る阿呆に見る阿呆、わたしゃ寝たきりになられんよ」というかけ声とともに私は阿波踊りの渦の中で夢中で踊っていました。
昨年の8月13日、暑い夏の夕暮れのことです。場所は阿波踊りの晴れ舞台、徳島市役所前のメイン会場です。私にとって阿波踊りは初めての体験です。
なぜ、私が阿波踊りに参加できたのか、それにはワケがあります。ある会合で知り合った徳島県阿南市の石川医院の院長夫人から電話で「ボランティアで阿波踊りに参加しませんか」というお誘いがありました。東京から参加する身体障害者を介護をしながら一緒に来てくれないか、というのです。身体障害者が寝たきりにならないで社会参加ができるようにという願いを込めた「ねたきりになら連」というボランティアグループのあることも初めて知りました。 

 私は日頃、意識改革の方法として「異体験をすること」を提唱しています。サラリーマンは毎日、同じ道を歩き、出会う人も同じ、見る風景も同じという生活を繰り返しています。ご承知のように猫は毎日、同じ道を巡回しています。つまりサラリーマンが猫化しているのです。異体験をすると猫道を外すことができます。このボランティアの誘いは私にとってまたとない異体験のチャンスだと思い、二つ返事でOKしました。

 8月12日、羽田空港で右半身マヒの田辺清さんと対面しました。田辺清さんはバリバリのビジネスマンでしたが、55歳の時に脳卒中に見舞われました。以来14年の間、車椅子の生活をしています。
 いよいよ2泊3日の介護の旅が始まりました。徳島市に着くと参加者の交流会、阿波踊りの練習、観光など行事が盛りだくさんです。車椅子での参加者が70人、お世話するボランティア140人が全国から集まってきています。たまたま同室でご緑のあった身体障害者やボランティアからさまざまな人生劇場の話を聞くことができました。私は車椅子を押すことが初めてです.飛行機への搭乗、バスヘの乗降、トイレや入浴の介助、あっちこっちへの移動を汗びっしょりになりながら体験しました。この介護がご緑で東京へ帰ってからも田辺清さんと親しくおつき合いするようになりました。障害を持った人と交流すると健常者では気がつかないことをたくさん学びます。
 このような体験をすると「サラリーマン時代は猫道に入り込んでいたなあ」としみしみ感じます。「異体験」の中でも、ボランティアは特に猫道外しに有効なようです。
【賃金事情2月25日号から】

■ トップページに戻る