平成21年度「民間企業に学ぶ」講演会 『経営マネジメント』
                
(この講演録では図は省略してあります)
              平成21年11月19日、四街道市役所、職員向けの講演
                            

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 ただいまご紹介いただきました北村三郎です。よろしくお願いいたします。気楽に1時間30分お付き合いいただければありがたいです。
私は昭和11年生まれでございますので、敗戦になったときは小学校2年生でした。ですから、戦争のすごさ、焼夷弾でどんどん爆撃されている状況も見ておりまして、そのことを思い出すことがあります。
高校時代は退学処分になったりして、それを聞けば大体想像がつくと思いますが、相当な悪餓鬼だったということです。それで、定時制高校、夜間高校ですが5年かけて卒業して、早稲田大学に入ったわけです。
そして、卒業してから、昔は大きな会社に入ることが安定した生活ができるということで、いろいろ調べて、自動車会社が将来いいんじゃないかと思いました。トヨタは名古屋だし、マツダは広島だし、私は東京出身だったので、東京から通えるとなるといすゞ自動車か、日産ということになります。結局いすゞ自動車に入社試験ではなくて、縁故で入りました。35年間、ヒラメ社員というのですか、ヒラメというのは上ばっかり見ているということですが、上を見ながら会社生活を35年、今にして思えばよくやったと思います。60歳で満期除隊ということで定年退職いたしました。
現在、73歳ですので、退職してから十二、三年たちますけれども、いまだにあちこちから講演会などのお招きいただくので、とてもこれはうれしいのです。やはりお座敷がかかる、お声がかかるというのはとてもうれしいことで、お座敷がかからなくなったら寂しいなと思うわけで、一生懸命頑張っているわけです。
私の講演というのは情報講演という感じです。だから、講演を聞いてすごく感動して胸が熱くなる、そういう講演の上手な人もいますが、私はそうではなくて情報講演です。私も長いこと企業人教育等をやっていますが、どんなにいい講演を聴いても、24時間後には歩留まりは数%、1カ月後には限りなくゼロに近づくのです。話を聴いているときは、それなりにいろいろと考えますが、後になって忘れてしまうというのがほとんどなのです。そういうことが分かってきていますので、どのような講演が役に立つだろうかと、いろんな試行錯誤をやってきています。
 情報講演ということで、これから私は皆様にいろいろなことを話します。私の頭に入っているいろいろな体験の中から、ジャズのアドリブ的な要素も出しながら、いろいろな情報をお伝えします。その中から一つだけでもいいですから、キーワードをキャッチして、自分でそれをさらに調べる。深く掘り下げていく。そうしますと身につきますね。話を聞きっ放しというのはほとんど身につかないです。ですからキーワード、自分の関心のあるものを1つキャッチして、それを深掘りしていく。そうすると必ず先にいろんな宝があります。できればそれを体験するといいです。体験に結びつけば、それは身体化というのですけれども、体の中に入っていく。身につくという感じになるのです。
 アンテナを研ぎ澄まして、自分の関心のあるものを1つだけでもキャッチして下さい。そうすれば今日ここにいらした方は必ず実りが出ます。
今日は経営マネジメントというテーマでお話します。経営の視点、マネジメントの視点からお話します。私は、これからの時代、行政も経営という感覚、あるいはマネジメントという感覚が必ず必要になると見ています。ですから、今日はどちらかというと非常に基本的なことを話します。何か講演というと新しいものを想像しますが、大事なもの、いいものは実は古いものにあるのです。流行と不易と言いますが、時代が変わりどんどん新しく取り入れるべきものと、昔から先輩が培ってきたもの、古いけれども大事なものとがあるのですね。この両方のバランスの中で進化していかなければいけないわけです。そういう意味でぜひ経営、あるいはマネジメント、この基本の部分について、もう皆さんの中には十分そんなことは承知しているという方がいらっしゃるかもしれませんが、もう一回原点に戻って、話を聴いていただきたいと思います。
このパワーポイントの資料については、後ほど人事課から皆様に配付されるということでございます。ですから、ぜひ私の話を集中して聴いていただいて、そしてキーワードをキャッチしていただく。そういうことでご協力をお願いしたいと思います。
では、パワーポイントを使いながら話を進めてまいりたいと思います。

 時代の変革期
まず、安定期と変革期ということです。とても当たり前のことなのですが、世の中は絶えずこれを繰り返すわけです。現在は2009年ですが、2010年ぐらいに底が来て、2030年ぐらいに安定期に入る。不安定期、安定期のサイクルを繰り返すわけです。ですから、いま現在は、これまでの日本がつくり上げた様々なシステムや制度、ものの考え方といったものが崩れている。そういう時代ですね。そういう時代に今我々は生きているのだということです。
私自身が企業で生きてきた時期は高度成長期です。1985年、プラザ合意があって、ここでピークになったことをグラフが示していますが、そこまで右肩上がりに成長した時代です。企業戦士という言葉がありますが、私たちは戦争で負けましたけれども、戦後、私が北米部長をやっていた時期などは、経済力によってアメリカを占領できると思いましたよ。事実、ニューヨークなどのビルをかなり日本企業は買いましたから。私自身はそういう傲慢な時期を経てきた企業戦士の生き残りだと思うのです。今の時期は変革期の真っ只中です。そんな中で私たちは何を考えていかなければならないか。

 『三位一体の改革』で組織を変える
小泉さんは三位一体の改革といいましたが、三位一体というのはもとはキリスト教の言葉です。それを小泉さんは国と地方の関係において三位一体の改革という言葉を使いました。私は企業の世界で構造の改革、仕組の改革、組織風土の改革を三位一体の改革ということで説明しています。これはこれからの行政改革においても通じることであり、また、国においても同様だと思います。
松下幸之助さんは85歳のときに私財70億円を投じて茅ケ崎に松下政経塾をつくりました。その理由は日本という国において国家経営がされていない。国も経営であるという観点から、幸之助さんは国家を経営できる人材を育てたいということで松下政経塾をつくったのですね。そして、現在は30期生が学んでいますから、ちょうど30年たつのです。三位一体の改革のうちの構造改革、リストラクチャリングと言いますけれども、ストラクチャーというのは構造のこと、リという接頭語は組みかえるとか、繰り返すという意味ですが、ここでは組みかえるという意味での接頭語に使っています。構造を組みかえるということです。民主党が今度初めて戦略局をつくりましたね。それは国の形を考える部署なのですね。これからの時代、世界の中でどういうふうにして日本は日本国としての独自性を保っていくか。企業においても同様で、時代がどんどん変化しますから企業の形を組みかえながら存在していく。
そして次に、仕組の改革です。企業というのはどういう会社にしたらいいのか。企業が生き残っていくためには20年後、30年後にどういう会社にするのか、どういう会社になって生き延びていくかということを考えているわけです。自動車でもただ漫然とつくっているのではなくて、こういう自動車をつくる、こういうところでほかとは差別化をするのだ、そういうことで自動車各社は生き残っているわけです。そのためにいろんな仕組みを考えるわけです。自動車を設計して、実験用試作車をつくって、そして走行テストをして、生産試作、量産試作を経て、量産をして、発売を開始する、そしてアフターサービスをするというプロセスがあるわけですね。
つい最近まで、自動車は見込み生産といって、需要を予測して、これだけ売れるのではないかといって車をつくって、そしてたくさんの売れ残りをつくった。つまり不良在庫が発生していたのです。今は限りなく受注生産です。コンピューターシステムを使って、注文が入ったらつくる。そうすると在庫は限りなくゼロに近づくわけです。そういう仕組みに今どんどん変換しているわけです。
今はガソリンエンジンからハイブリットか電気自動車に移行していますね。
このような変化が10年後にはもっと加速するという見通しを持って自動車各社は変革をしているのです。車の構造自体もどんどん変わるし、車をつくる仕組みもどんどん変わるわけです。
次に、組織風土の改革です。これは私が長年、取り組んできたテーマです。会社の理想の姿を描いても、いろいろな仕組み、制度、システムをつくっても、それを運営し支えるのは会社の社員なのです。大会社の場合、「寄らば大樹の陰」という考え方で会社にぶら下がっている社員もたくさんいます。言われた仕事だけをこなして、お給料さえもらっていればいいという社員が多かったら会社はどんどん衰退していきます。本来は「貢献なければ報酬なし」なのですね。ですから社員が会社にどれだけ貢献できるか、そのためにどれだけ力を発揮できるか。そういうふうに意識を変えていかなければいけません。
組織風土というのは、英語で言えばオーガナイゼーショナルクライメットというのです。クライメットというのは気候という意味ですが、組織にも気候があるのです。人間は環境の動物です。環境に適応して生きていくわけです。組織風土という環境は社員の意識の集まりからできあがっています。よい組織風土の中で社員が切磋琢磨をして、一生懸命仕事をして、自分の能力をフルに発揮していきたいのです。
日本の企業も本当にピンからキリです。立派ですばらしい企業もあるし、どうしようもない企業もあります。これは企業だけではなくどのような組織でも同じです。そういうことで「三位一体の改革」で組織を変えていくわけです。このことは国にも当てはまります。つまり民主主義のレベルというのは、国民の意識のレベルの反映ですから、マスコミの報道によって右往左往して、劇場型選挙をしているのではなく、国民の意識が上がって、自分で判断できる、自分で将来の国の形をイメージできる、それぐらいでないとなかなか民主主義は成熟していかない。

 いい組織の3つの共通点
いい会社には3つの特徴があります。これはぜひ皆様の行政の中にも置きかえていただきたいと思います。一つは、財務体質が健全であるということです。バランスシートにおいて財務体質が健全であること。一時的に利益がでているということではありません。もちろん利益を出す必要があるのですが、なぜ利益が出ないと駄目なのかといいますと、まず従業員に世間並みの給料が払えません。また、製品開発でいいものが出来ません。利益が出ていれば次々に投資をして新しい製品を開発していくことができます。
ギリギリになるとそれができなくなるから商品が陳腐化することになります。財務体質、利益、バランスシート、これらが大事だということになります。
二つ目は、地域社会の人から支持されているということです。後で、いくつかの事例を挙げますが、地域社会から存在を感謝されていることが大切です。
三つ目は何だと思いますか。三つ目のいい会社の条件。これがなかなか民間の企業でもわからないのです。
それは従業員が育っているかどうかということです。社員を部品化したり、道具として捉えているではなくて、一人の人間としてその会社の中で成長していく。仕事力、つまり仕事の能力が伸びるだけではなく、人間力、つまり人として人間性が豊かになっていく、そういう会社があるのです。
一番目が収益性、二番目が社会性、三番目が教育性ということです。この3つのバランスがとれていないと会社というのは永続的な成長はないということです。利益が一時的に出ていても従業員が育っていなかったら必ず破綻が来ます。持続可能で永続性のある会社、これが大事なのです。

 バランスのとれた経営
次にバランスのとれた企業経営ということについて申し上げます。ポイントは3点です。一点目が世のため、人のためを第一に考えた経営、これがやはり支持されます。ここにバランスという要素が必要になります。先ほど言いました収益性と社会性、教育性といったバランス感覚が非常に大切になってきます。
二点目の命、自然、環境、文化、地域を考えた経営が、現代を生き残る絶対の条件になってきています。
最後の三点目は、独特の見方、おもしろい見方になりますが、大企業というのはなかなかいい会社がありません。昔は大きいことはいいことだ、ということでやってきました。大きくなると手続きが煩雑になったり、組織がたくさんあるのでいろいろな駆け引きが多くなったりして硬直化を招いてしまっている。30年、40年、50年続いてきた会社はほとんど動脈硬化を起こしている。柔軟性がなくなってきているのです。私が北米部長だったころ、ゼネラル・モーターズと合弁会社をつくっていましたから、GMの本体の中に入っていろんなビジネスをやっていました。そのGMもいよいよつぶれるような感じになってきています。なぜなのか。企業は30年生命説というのがあって、30年以上生き延びるためには絶えず変革していかないと生き延びることができないのです。大企業で柔軟な会社は非常に少ないです。今は中小、中堅の時代といいますか、中小、中堅というのは大体二、三百人ぐらい、このぐらいだったら総身に知恵が回る。血流がいい。非常に柔らかなのです。そういう会社が多いです。
このパワーポイントの下の方に会社名が出ていますが、これは全部小さい会社です。今本屋さんへ行くと「いい会社」なんていう本が出ています。著者が5つとか6つぐらいの会社を選んで、この会社はいい会社だ、という本が出ているでしょう。あれには大企業は出ていないです。全部中堅企業です。パワーポイントに出ているよう会社です。トヨタの販売店で一番いいのは高知にあるトヨタ南国ですね。ここの特徴は、CSの前にESだというのです。CSというのはご存じですね。カスタマーサティスファクションといって顧客満足ですが、それよりもES。ESというのはエンプロイーサティスファクションです。従業員満足が先に来て、それからお客さん満足が来るという、そういう順番で経営しております。そういう考え方です。
次に、今日は2ついい会社の例を挙げます。1つは、長野県伊那市にあります伊那食品工業、これは寒天のトップメーカーですね。先ほど言ったいろんないい会社の本があります。そのとき必ず出てくる会社です。私は伊那食品を十数年前からいろいろ研究していまして、会長の塚越寛さんとも親しくお付き合いをさせていただいております。それからイエローハットという会社がありますね。そこの創業者の鍵山秀三郎さんという方がいらして、この方はお掃除の神様と言われていて、新宿歌舞伎町なんかで毎月1回第3木曜日にお掃除をやっています。多田さんも1回、新宿歌舞伎町にお見えになって参加していただきました。
一昨年、私は鍵山さんと塚越さんとの対談の本をプロデュースしました。出版社は講談社や東洋経済新報社など有名なところではなくて、長野県小布施町にある文屋。これもインターネットですぐわかりますが、文屋という出版社が出しています。
鍵山秀三郎さん、塚越寛さん、あるいは伊那食品、これらをぜひキーワードとして、インターネットで調べてもらうといいですね。
また北村三郎という名前をヤフーやグーグルで検索しますと必ずトップに出てきます。それは13年間ホームページをやっているからです。その中からさらに検索していくと伊那食品も出てきますし、鍵山さんも出てきますし、リンクを深く張ってあります。
 私は年に2回ぐらいグループで伊那食品に見学に行っています。朝の朝礼とか、掃除風景なども見学しております。
 私は73歳ですから、ビジネスで仕事をするのではなく、社会のために働きたいと思っています。ですから研修費用は基本的に割り勘でやっています。伊那食品については、「いい会社をつくりましょう」という本が文屋から出ていますので、その本をお読みいただくといいと思います。
今、経営を勉強するときには、必ず松下幸之助さんが登場します。人間は神様にはなれないのですが、なぜか私たちビジネスに関わっている人間は、幸之助さんだけは経営の神様と呼ぶのです。幸之助さんが神様と呼んでくれと言ったわけではないのに、回りの人たちが神様と呼ぶのです。松下幸之助さんの文献というのは膨大なものがあります。今でも本屋さんへ行けば店頭にいっぱい幸之助さんの本があります。幸之助さんの本には経営の本質が書いてあります。けれども、例が少し古いですね。水道哲学というのは古いでしょう。そういう意味で、私は「いい会社をつくりましょう」という塚越さんが書いた本を現代における経営心得帳、あるいは商売心得帳だと思っております。ぜひ「いい会社をつくりましょう」という本をお読みいただくといいと思います。

 仕事=作業+改善
次にトヨタです。今日は一つだけ大企業の話をします。先ほど大企業にはすぐれた会社がない。3つのバランスがとれた会社がないと言いました。トヨタももちろん、すべてがいいわけではないですし、いろいろ問題があります。しかし、あれだけの企業になったというのは凄いことです。世界一ですから。車もものすごくいいです。なぜそういう企業になったか。しかも、愛知県の三河にある会社が、です。トヨタというのは非常に変わり身が早くて、絶えず変革を続けています。それでビジネスの世界の人は皆、トヨタのようになりたいと思っているわけです。何だかんだ言っても利益が出なければ叩かれるわけですから。私たちの言葉ではトヨタ本と言うのですが、本屋さんに行けば、トヨタはなぜこうなのかといった本がたくさん売られています。そして、トヨタ出身のコンサルタントが数百人います。トヨタでずっと仕事をやってきて専門領域を極めた人はコンサルタントで飯が食っていけるわけです。
トヨタ本を読んで、トヨタの本質は何かというのを研究する人が多いのですが、分厚い本を読んでも何が本質なのか_みきれないのです。なぜかというと、本は膨らませて書いてあるからです。だから、本を読む眼力、トヨタの本質は何か、これを見極めることが必要なのです。
私は本だけでは分からないので、トヨタの人間と付きあったり、トヨタ出身のコンサルタントとも付き合いながら、トヨタの原点を探していったわけです。その結果2つのことがわかった。これが風土として定着している理由なのだということがわかったのです。
一つ目は、仕事の定義なのです。仕事というのは、私たちはみんな仕事をしています。私も仕事をしているし、皆さんも仕事をしている。仕事というのは2文字なのです。普通、二文字言葉というと、「おい、仕事をしているか」と尋ねれば、「ハイ、仕事をしています」と答えるけれども、ではどういう仕事をしているのか。トヨタではこれが定義されています。先輩からの伝承によって定義されているわけです。それは「仕事イコール作業プラス改善」なのです。作業をしているか、改善をしているかです。作業をしている、ものを造っているだけだったら給料を半分返してくれと言うのですね。なぜなら半分しか仕事をしていないからです。残りの半分は改善なのです。どんな仕事でも必ず改善の種があるのです。石川五右衛門という人が釜ゆでの刑になったとき、「浜の真砂は尽きるとも、世に泥棒の種は尽きまじ」と言ったといいます。『浜の真砂は尽きるとも、世に改善の種は尽きまじ』なのです。あらゆることが改善になります。改善には完成というのがないです。どんな仕事でももっと安くできないか、もっと時間を少なくできないか。必ずあります。トヨタでは乾いたタオルを絞れと言われております。現場第一線の人でも絶えず改善の種を考え、それを提案するのです。普通の会社には提案制度というのがあるのです。トヨタでは提案して、作業は誰かにお願いするのではないです。自分たちで提案して仲間とやるのです。それを小集団活動と呼ぶのです。
 この経営の仕方がアメリカですごく研究されているのです。改善という言葉が英語になり、その小集団活動というのをヨーロッパも含めて、自動車会社がやっているわけです。ここにポイントがあるのです。いい会社の本質は改善、改良を限りなくやっているということです。今、行政の事業仕分けとかが話題になっておりますね。
これからどのように展開していくかわかりませんが、限りなく無駄を排除し、そして目的に合う仕事をする。仕事は必ず目的がありますから、目的に合う仕事をするということです。

 『今日の作業』と『明日の経営』
もう一つの考え方があります。トヨタの本質の二つ目です。今日の作業というのがあります。今日の作業と明日の経営がありますが、今日の作業というのは、ある数量の車を品質のいいものをしっかりつくり込むということです。これが今日の作業ということなのです。これがきっちりできないと会社というのは回っていかないです。もう一つ大事なことは明日の経営です。
会社というのは10年後、20年後もずっと永続していくわけですから、同じことをやっていたのでは必ず壁にぶつかる。先ほど言ったように電気とかハイブリットとか、今後は電気自動車が中心になっていくわけですから、中小企業だって電気自動車をつくっています。そういうときにどうやってトヨタが生き延びていくかという明日の変化をイメージしています。その両方がなければ会社は成り立たないわけです。
よくある大会社のパターンは、上に立つ部長さんや役員さんも今日のことを考えている。今月の売り上げはどうなのか、今日の生産はどうなのか、その日暮らしのことをしきりに言う偉い人がいるのです。トヨタではそこを完全に分けているわけです。今日の作業というのは課長以下です。トヨタには課長、部長、役員、現場では工長というのがいますが、課長以下は今日の作業なのです。そして、明日の経営というのは部長以上の仕事です。だから、部長という名前がついたら今日の生産はどうだ、販売はどうだということではなく、未来の世の中はこれからどう変わっていくのか、そのために我々の会社はどうやって生き延びていくのか、それを絶えず考えているわけです。社長が年に1回、個別面接を行うわけです。年に1回です。そのときに2時間なら2時間の中で一人の部長として、トヨタが生き延びていくためにはこういうふうにしたいと具体的な提案を出して、そしてそれがいいとなったらその人の提案が社長の経営方針に加わってくるのです。ですからトヨタの部長というのは意外にあくせくしていない。朝来たら新聞を読んで、お茶飲んでというふうに。しかし、面接のときは勝負ですから、日ごろ、土曜、日曜も含めてすごく考えているわけです。
トヨタの場合は細胞系が強いです。人間の身体は大脳系、自律神経系、循環器系、細胞系などがありますが、細胞系というのは手足など身体の末端まで広がっています。つまり現場が強いということです。現場の感覚が鋭いということです。多くの会社は大脳系です。つまり社長やトップが偉くて、考えを下へおろしていって、細胞を動かすという形になっていますが、トヨタの場合は細胞の働きが活発だということです。
これからの経営というのは大脳系でやるだけではなく、細胞系、現場でいろいろ考えて提案していくという、そういう組織が強い組織だということです。

 大企業病の症状
次に大組織病の症状でございますが3つあります。私も会社の中で現場の人、もう何百人という人と対話をしました。そして、どういう問題があるのか、どういうことを感じているのか、そういったことで体の全身症状をいろいろ診断してきました。先ほど言いましたように組織が大きくなれば必ず動脈が硬直化して、筋肉も硬直化して、柔軟性を失っているから変化に対応できない。大企業病と言われるが、これは一体どういうことなのだというふうに私たちは思いました。50歳ぐらいのときからこの大企業病をずっと研究してきたわけです。現場へ入り込んで、いろんな人と話し合ってそれを探ってきました。
その結果、病気はいろいろありました。人間の身体も企業組織も完全健康体というのはないのです。おぎゃあと生まれたときは健康かもしれない。しかし、20年、30年、40年生きていれば必ず病気にかかります。ウイルスが入り込んできます。組織も同様、必ず病気にかかっています。いい会社というのは病気がガン化しない。ガンにならないうちに早く見つけて、手を打って改良していくわけです。いい会社では自分のところの病気は何か、ウイルスはどんなものが入り込んでいるか、それを絶えず診断しているわけです。コンサルタントが外から来て診断する方法と、そして内部診断、自覚症状によって診断する方法があります。私は、自覚症状によって診断するのが一番いいと思います。外から来たコンサルタントにたくさん金を払って診断してもらうより、自分たちで自己診断をしようという方策をとってきました。いすゞ自動車は1万6,000人の従業員がいる会社だったのですが、それをずっとやってきました。私が会社を卒業してから十数年たちますが、その間もずっといろいろな会社に入り込んで、現場の奥へ入り込んで調査研究をしております。その結果、パワーポイントで示したこの3つが大企業病の症状であるということがわかってきました。そして、これは学校でも、病院でも、行政でも、労働組合でも、すべて共通の組織病であるというのが、今の私の考えです。
一つ目が「自部門防衛病」です。部局など部分組織をつくるのは組織全体の目的、目標を果たすためです。国の場合、「省益あって国益なし」という言葉があります。自分たちの天下りのシステムを作ったりしていますが、会社でもそういうことがあります。自分の次の人生の行き先に対して何か仕組みを作るというような、全体目的のためではない、自部門防衛の仕組みがあるのです。日産自動車では一時破滅状態になったことがありました。ゴーンさんが来て改革したわけですが、自動車会社の場合には、大きく言って3つの機能があるのです。人事だとか、購買だとか、コンピューターシステムとかいろいろありますが、大きな根本の事業体、機能が3つあります。自動車というのは国際企業ですから3交代、つまり世界中が24時間、3交代でつくっているような感じです。日本で指示して作ったり、ヨーロッパで作ったり、絶えず24時間動いているわけなのですが、自動車会社の3つの機能、ご存じでしょうか。1つは開発部門です。つまりこれからどういう自動車をつくるか。自動車というのは大体寿命がワンモデル8年ぐらいです。8年たつとモデルチェンジになります。そうすると、車を新車で発売すると、もう次の車を開発しているわけです。そういうふうにやるわけですので開発部門があります。そこで試作をつくり、テストをして、そして生産試作をして、量産試作をして販売しているわけです。それから2つ目が生産部門です。生産部門といったって大変です。車というのはいろんな生産の種類があって、トラックの場合では生産、鋳造、鍛造なんていうところもあるのです、そういったようなところを含めて、エンジンをつくったり、電器部品をつくったり、いろんなことをやっているのです。80%ぐらいは外から仕入れてきますが、生産部門が2つ目の部門です。それからもう一つ大事な部門は営業です。販売部門。造ったものは世界中に売れなくてはいけない。日本国内はもとより世界中に。販売、開発、生産というのが根本の3機能ということになります。
日産自動車で非常に問題になったのは、じゃんけんのグー、チョキ、パーの関係で、どれが勝ったり負けたりするかということですが、このグー、チョキ、パーの関係で他責のたらい回しという状態にあったということです。他責というのは人のせいにする。売れないのは、いい車をつくってくれないからだ。あるいはこういう故障の多い車をつくってきてしまうのは開発の設計が悪いからだというふうに人のせいにするのを他責というのです。人間も他責型の人間と、自責型の人間がおりますがどうしても他責にする傾向が強いです。言いわけをするために、うまくいかないのはあいつのせいだ、あの部門のせいだという、そういう体質があるのです。日産自動車については、一時期グー、チョキ、パーの関係で、開発と生産と販売の3部門で他責の関係になった。他責のたらい回しと言うのですね。だから、会議の中でもオフェンス、ディフェンスの関係で、一方で攻撃をする、もう一方で攻撃からの防衛のためにいろんな資料をつくる。そういう時期があった。どん底だったのです。
会社がそういう状態になる、自部門を何とか防衛する、そのためにいろんな資料をつくる。私もいろんな資料をつくったり、部下に資料をつくらせてきましたが、防衛のための資料もたくさんつくりました。実際、会議などの本番で使われるのは1%で、99%はごみ箱に入りました。そういう時期がありました。
二つ目は「つじつま合わせ病」です。このつじつま合わせというのを組織の人間は身につけていきます。知らず知らずのうちに何か言いわけしたり、正当性を証明しようとしたりするわけです。なぜかそうなってくる。これが非常に怖い病気です。一人だけでやる、つじつま合わせのセンスを持っているのではなくて、組織全体、組織ぐるみでつじつま合わせをやるということです。そういうことが現実に企業でも行われているわけです。
三つ目が「やらせ・やらされ病」です。組織の中はやらせる人とやらされる人の2極構造になるということです。ですから、会社にはスタッフ部門と現業部門とがありますが、スタッフ部門はラインにやらせることで存在価値があるのです。多くの会社は管理部門、例えば生産管理だ、品質管理だ、何とか管理、管理という言葉を使いますけれども、その管理部門の人間が20%ぐらいいる会社があります。管理をつくっている会社です。80%の部門が生産をし、ものづくりをして、利益を出しているのですが、20%の人間は管理部門です。管理部門の人はやらせることが仕事です。トヨタのよさというのは、管理部門がとても少ないことです。管理部門はありますが総人員の10%未満ですね。どういうふうにやっているかというと、現場に管理を織り込んでいるのです。品質管理というものは大事です。品質管理というのは物をつくったら、出てきたら、だれかが管理して、品質をチェックしますが、自分たち現場の工程の中に品質管理の機能をつくり込んであるのです。そうすると管理部門が要らないわけです。
この3つが代表的な組織病なのです。この症状に浸かってしまうと人間がだめになってくる、この症状により仕事は大わらわになるわけです。そういう企業はいまだにあります。しかし、いずれ必ずそういうものは発覚したり、問題になったりします。最近は内部告発というのがありますが、品質不良のものを売って、ごまかして、違法なことをやって、ばれてしまう。そういうことは結構あるのです。

 7つの経営資源
次に経営資源でございます。マネジメントの基本的なところです。経営資源で一番大事なのはヒト、モノ、カネ。これは経営学の教科書を見れば必ず出てくる言葉です。ヒト、モノ、カネ。これをどれだけ効率よく使うか、これらを組み合わせて経営をしていくということですが、最近は見えない経営資源ということが非常に注目されてきています。この見えない経営資源というのを4つほど提案しますが、多くの会社はそれらを意識しています。ここに組織の勝負どころがあると思います。
まず情報です。情報に対して敏感性がある会社は変化に対応しやすいです。ヒト、モノ、カネの効率化というのは、今はもう当たり前水準です。これで無駄を発生していたのでは企業は生き残っていけません。ほかのところで差別化を図ります。それは情報であり、次に時間です。時間の使い方です。私たちの人生もそうです。時間をどういうふうに使うかというのは非常に大事なところだと思います。
次に風土です。組織風土は見えないです。環境ですから目に見えません。しかし、この目に見えないところに着目する。人間はいい環境に放り込まれると元気が出る。やる気になる。あるいは能力が発揮されやすくなるということです。
次に信用です。信用というのは長い歳月をかけて培ってきたものです。目に見えないものです。信用を一旦壊すとその回復には膨大な時間とお金がかかります。ですから、この見えないものを大事にしていくということです。

 組織としての3つの仕事
組織の仕事について申し上げます。ここもマネジメントの基本として申し上げておきます。皆さん重々ご承知かと思いますが、もう一度整理し、頭に入れ直して、日常の仕事の参考にしてほしいと思います。
一つ目は日常業務です。鉄道で言えば、私はJR東日本とJR西日本と両方の仕事をしたのです。会社の体質はJR西日本に較べるとJR東日本のほうがずっといいのです。鉄道会社に入り込んでいろいろ調べてみたのですが、鉄道で一番大事な日常業務というのは定時運行です。つまり時間どおりに走らせる。そして、安全に走らせるということです。ところが西日本は、お客さんのサービスという名目でダイヤを過密にして、30秒でドアを開けて、閉めてというような過密ダイヤにしたのです。モノを生産するときにきちんとモノができてくる。そして品質はしっかりしている。そして無駄がない。そういう日々のこと、毎日のことをきちんとやることです。これができていなければ組織はうまくいかないのです。これは全部マニュアルです。作業標準といったものがきちんとあり、そのとおりやるということが大事です。基本がしっかりしているということです。
二つ目は改善です。先ほど言いましたトヨタは仕事の半分は改善ですから、一人一人の社員、みんなが改善をやる。その改善の種を皆で出し合っています。一人では何もできない。皆で知恵を出し合って、こうしようではないか、と改善の種を見つけてくるわけです。それは小集団、5人か6人の小集団です。そういうのが組織内のあっちこっちにあるわけです。
日常業務がベースにあり、そして改善があります。さらにその次は何でしょうか。その次、三つ目は改革です。イノベーション、改革というのは小集団ではできないのです。なぜなら、改善というのは過去を肯定して、過去の延長線上で直していくのが改善です。改革というのは過去を捨てる。オールクリアする。ご破算にする。改革というのは新しいことをやるから、必ず組織の抵抗があります。相当強力なリーダーシップがないと改革は進まないのです。改革を行おうとするとものすごい風が来ます。しかし、今の時代は大変革期ですから、改革がなければ会社は生き延びることができないのです。従来の延長線のままでは生き延びることができないのです。
皆様のお仕事でも日常業務、改善、改革の3つがいろいろに変化していくと思いますが、これが組織の仕事というものです。

 人と仕事のマネジメント
次にマネージャーの仕事について申し上げます。これからは恐らく行政でもマネジメントができる人は必ず重用されるようになります。
4つのボックスで示していますが、これもなかなかきちんと答えられる人は少ないです。企業でもよほど勉強している人でなければわかりません。この4つをぜひ皆様、頭に入れておいてください。
仕事のマネジメントと人間のマネジメントがありますが、仕事のマネジメントというのは「仕事の達成」です。いろんな目標があり、課題があり、そして標準作業があります。やるのが当たり前の仕事がありますが、その仕事をきちんと処理し、達成していくこと。次に「仕事の改善と問題の解決」です。仕事をやっていると必ず問題が出てきます。平々凡々と仕事は順調にいくとは限らないのです。必ず問題が発生します。問題から逃げない。問題があるのが当たり前なのです。仕事を改善し、問題の解決を図る。これがマネージャーの仕事です。
人間のマネジメントは「部下の育成」です。部下の育成というのは仕事を通じて部下を育てるということです。それと「職場風土の改善」です。人間は環境の動物ですから、マネジメントとして、いろいろな目配せをして、職場の中の雰囲気、やる気などの状態を観察していく。集団、チーム全体を見ていくということです。以上の4つがマネージャーの仕事として大事なのです。
もちろんこれは25%ずつの比率ではなくて、仕事が重点の部署もあるでしょう。あるいは改善が重要な部署もあるでしょう。それはその部署、部署によって違ってきますが、絶えず意識するのはこの4つです。
社員が定年になってから非常に感謝するのは、自分を育ててくれた職場であり、マネージャーです。自分をただ道具のように、部品のように使ってきた職場、マネージャーではありません。とても大事なことだと思います。

 チームマネジメント
次にチームマネジメントという言葉があります。この言葉は私のホームページでもその他でも出てきますが、これはソニーに端を発しています。ソニーは近年、アメリカ的経営をどんどん導入して、成果主義を入れて、最近ではいろいろと問題が出てきていますが、昔のソニーというのはすごくいい会社でした。井深太さんという人が社長におり、その人のもとに小林茂さんという、三省堂にいた常務がスカウトされて、厚木工場の工場長になりましたが、私はこの小林茂さんの弟子としてしばらくチームマネジメントを教わりました。その当時のソニーに経営の原点があると見ています。
天外伺朗さんという方をご存じでしょうか。現在、私はこの人の経営塾、天外塾の塾生です。この天外伺朗さんという人は、本名は土井利忠さんといいますが、CDやAIBOを開発した人です。この人に今いろいろ教わっています。ソニーの経営の原点を教わっているということです。
アメリカ的経営というのはエリート経営です。一部のスタッフや優秀な人がPlanをして、部下にDoさせる。そしてそれを途中でCheckして、修正Actionをさせるという、これがアメリカマネジメントの基本です。これをマネジメントサイクルと言います。日本の企業経営はアメリカのまねが多く、エリートはどんどんアメリカへ留学し、帰ってきて、アメリカ的経営を導入しました。日本的な経営というのが破壊されてきているのです。今、日本的な経営の良さというのをもう一度復帰させようという動きがあります。それがSee−Think−Plan−Doという考え方です。Seeというのは、現場を見ようということです。だれか頭の中にあるものを優先させるのではなくて、まず現場を見る。トヨタの三現主義の1つでもある、現場を見ようということなのです。現場にはいろいろなことが起きていますから、それをSeeする、しっかり見る。そしてチームみんなで考える。それをPlan化するというわけです。そうするとDoがしっくりといくわけです。前処理工程であるSee−Think−Planに至るまで皆で考える。衆知を集める。そして、皆で決めたことは必ずDoする。一部の人が考えたものではない、やる人とやらせる人が違うというのではない。そういう考え方です。
こういう経営をやっている会社というのは現場が強いです。ですから、そういう会社は非常に業績がよくて長続きします。これもぜひ皆様、一部の人が考えてやらせるのではなくて、みんなで考える、そういうチームマネジメントを実践していただく、これは非常に重要なやり方だと思います。

 問題発見と問題解決
次に問題発見と問題解決について申し上げます。これもマネジメントの基本として皆様にお伝えします。会社には経営者、部局長、あるいは課長クラス、現場、第一線というふうに様々な役職、立場があります。
 私たちは学生時代、あらかじめ正解のある問題をどれだけ早く解けるかという能力を鍛えたのです。私も予備校に行きました。全部正解があります。正解を早く見つける能力です。そういうものに鍛えられて、企業はそういう優秀な成績の人を集めていますから問題解決はとても得意なのです。つまり問題を提示すれば一生懸命解くのです。ところが問題をつくる、問題を見つけるというのは難しいのです。最近は大学でも予備校に問題作成をお願いしているということがあるらしいですね。しかし、世の中というのは問題の固まりで、問題がたくさんある。それも見える問題と見えない問題がある。
 いい会社というのは見えない問題を氷山の上に浮上させて、問題をみんなで共有化するのです。見えない問題を見えるようにすることが大事なのです。見える問題というのは実際の現象として、事件が起きたり、問題が発生してしまっているのです。ですから潜在的な段階、問題が表面化しない段階で、これを氷山の上に浮上させるために、直感や感性を持ちつつ現場から問題を見つけてくるわけです。
問題を見つけること、しかも問題を一人だけの問題でなくて、みんなが問題だと共有化する、問題の共有化、これが大事なのです。そういう会社というのはいろいろなことを事前に発見しています。問題には発生型の問題と設定型の問題があります。発生型というのは、過去にこういう問題があって、現在に影響を及ぼす恐れがあるもの、それを見つけます。設定型というのは、未来に向けて、世の中はこう変わるから、こういうふうなことをやっていくことが大事ではないか、こうしないと立ち遅れるのではないかというような考え方です。問題を設定できる会社、これは強いです。

 リーダーの3つの能力
次にリーダーの能力について申し上げます。リーダーの能力はコンセプチュアルスキルとヒューマンスキルとテクニカルスキルがあります。これも経営の基本として、企業の多くの人は知っていることです。上に立つ人はコンセプチュアルスキル、コンセプトというのは概念、コンセプチュアルスキルは概念化する能力のことです。例えばリーダーの能力として判断力や決断力も非常に重要ですが、この二つは違う能力です。判断力というのは、山登りをしているとすれば、道に迷ったときにこっちへ行ったほうがいいのか、そっちへ行ったほうがいいのか、正しく判断できるということです。こっちへ行ったほうがいいのではないかと見極める、それが判断力です。判断力があっても決断力がない人もいます。決断というのは右か左かどちらに行くか判断しているのだったら、こっちへ行こう、後はおれが責任持つからこっちへ行こう、それが決断力です。上に立つ人は判断力があっても、決断力がないと上に立てないのです。
ヒューマンスキルは対人間能力です。自己開示の能力です。人間は格好よく見せたいという本能があります。人から後ろ指を指されたくない。格好よくしたい。心理学でいうペルソナ、仮面をかぶって生きているところがあります。防衛本能です。リーダーシップのある人、魅力のある人間というのは自己開示力があって、自分の弱みをさっとさらけ出せる。自分に自信がないと弱みは出せません。自分に自信のない人は絶えず自分を防衛します。人間というのはみんな問題を抱えていて、悩みがあります。その自分をどれだけ出せるか、セルフディスクロージャー、自己開示できる人間がリーダーの能力要件です。それから傾聴力です。話し方教室というのがありますが、お金を払うと話し方を教えてくれる、上手なスピーチの仕方を教えてくれるわけです。ところが聞き方教室というのはないのです。しかし、真のリーダー、部下が絶対的に信頼を置くリーダーは傾聴力が優れています。アクティブリスニングです。上の人に相談に行く。そうすると上の人が8割語る。こちらの言うことは2割ぐらいしか聞いてくれない。だから言いたいことも言わないで帰ってきてしまう。そういう人間の本質を分かっている人は、数値で言うと7割聞きます。7割聞いて自分のアウトプットは3割です。本当のすぐれたリーダーはそういう姿勢をとります。傾聴力というのはとても大事です。私も今までいろんな人に出会っています、もう長い人生だから。その中で本当に尊敬できる人というのは傾聴力が高いです。じっくり話を聞きます。それも上っ面で聞いていません。しっかり聞きます。これはその人の人間力です。
リーダーの能力の三点目はテクニカルスキルです。それぞれの分野、仕事の様々な分野における専門性です。専門的知識、あるいは技術、技能、テクニカルスキルは絶対条件です。それがなければ職業人としてやっていけない。その専門性を高める。しかし、専門性をひたすら高めていくだけではなく、その上にヒューマンスキル、コンセプチュアルスキルを積み上げていく。それが人間の成長のステップなのです。
次にそれぞれの役割ですがトップダウン、あるいはボトムアップという言葉を聞いたことがあると思います。日本の会社の強さというのは、トップダウンとボトムアップの双方がうまく動いているからなのです。アメリカはそのことに気付き始めています。アメリカの経営手法は、昔はトップダウンだけで日本もその経営手法を輸入していました。しかし、日本の強さはボトムアップが強いところにあります。また、どんなに組織がシンプル化しても必ずミドルはいます。必ず課長や係長がいます。その人たちの役割は上と下をつなぐ。ミドルアップアンドダウン。これが大事な考え方です。

 意識が変わる⇒人生が変わる
次に意識が変われば人生が変わるということについて申し上げます。いよいよ意識改革の方法についてこれから考えていきたいと思います。
私は人間というのは死ぬまで成長が続くと思います。そして、恐らく自分の持っている才能の20%か30%ぐらいの開花。発芽して、開花して、結実するというようにそれぐらいしか開花できないのかなと思います。いろんな能力があると思います。しかし多くの人が35歳ぐらいになると水平飛行に入ってしまう。あるところまで伸びて、それ以降は水平飛行に入ってしまう。惰性の軌道に入ってしまう。そうでなく35歳過ぎてもずっと、少しずつでもいいから伸びていく、死ぬまで伸びていくということが必要ですが、その場合に意識改革というのは非常に重要になってきます。
意識が変われば行動が変わる。結局人間は行動が変わるという目に見える事実によって、その人の成長を判断している。動きや言動が変わるということが大事ですが、その言動が変わる元は意識です。意識改革とよく言われますが、この意識改革の本質、方法論、なかなか分からないのです。意識改革という言葉は、非常に概念的、抽象的なのです。行動が変われば習慣が変わります。意識が変わって行動が変わる。行動を1回だけやってもだめです。それを継続していくこと、続けていくこと、それが習慣化するのです。「7つの習慣」という本がありますが7つも言われるとなかなかできないです。一番有効なのは自分で見つけた習慣です。意識を変えて、行動を変えて、いい習慣を身につけることです。いい習慣をたくさん身につけていくことが意識改革ということですが、いい習慣をずっと身につけていくとその人の人間性、人柄が変わってきます。周囲の人たち、地域の人たち、同級生でも、「おい、最近、随分変わったではないか」ということになります。人間性が変わってくるからです。人間性のいい人の周りに人が集まります。人間というのは非常に本能的です。人間性の悪い人の周りからは人は離れていきます。人間性のいい人はいっぱい人が集まってくる。人生が楽しくなるわけです。
そして、人間性が変われば人生が変わるということで、したがって意識が変われば人生が変わる。これが長いこと研究してきた成果です。これは私が発見したことではありません。昔から言われていることです。言われてきたことを検証してきたわけです。いろいろな実験をして、事例を見て検証してきました。そして、私ぐらいの年になって、同級生を見ればいろんな人がいます。会社の同僚でも、お友達でもいろんな人がいます。家族も含めて、とても幸せそうに、そして地域の中でも尊敬されて、幸せそうな人もいます。人生がとても豊かだなという人がいます。そういう人はこの意識改革のプロセスを踏んでいます。

 意識改革の方法
次に意識改革の方法です。意識改革の重要性はよく言われます。ここまではみんな分かります。ところが方法論をなかなか教える人がいない。私は、今日は皆様に方法論を3つ教えます。それでぜひそれをやってみてほしいのです。
まず「異体験」です。私たちはほとんど猫道というか、猫化すると言うのですけれども、決まった道を歩いているから、見る風景がいつも同じなのです。同じような人とつき合っている。ときには猫道を外して、別なところに行って、いろいろな風景を見て、いろいろな人に出会う、新しい人に出会う、いろいろな現場を見る。それが異体験なのです。私は異体験を習慣化するということを奨励しています。海外旅行も時々行かれる人もいるでしょう。海外旅行というのは重要な異体験です。それは時々しかやらないからです。これは非日常のものです。私たちは日常と非日常の中に生きています。今日のこの講演は非日常です。講演や研修は毎日やっていません。一番大事なのは非日常ではなく日常なのです。平凡な日々毎日の中で異体験ができる。そういう心がけをするわけです。いろんな人に出会う。億劫がらずにやる。人間が年をとったかどうかというのは億劫になったかどうかでわかるのです。いろいろなことをやってみる。そうすると価値観、新しい価値観が入ってくるわけです。この価値観というのは非常に重要な概念です。
次に「自己開示」です。自己開示というのは、仮面をかぶっている自分というものを開示して、自分の弱みを人に見せる。そうすると人が寄ってきます。自分が心を開くから相手も心を開きます。そういう人との関係をつくっていく。これは非常に重要なことです。
三つ目が「内観」です。内観法などというのもあるのですが、人間は過去、現在、未来に生きていきます。今の自分があるのは過去があったからです。過去いろんな人にお世話になって生きてきたわけです。生かされてきていると言ってもいいです。そして、時には歴史を振り返る。自分の歴史を振り返る。そうしますと、自分がこうやって現在生きているのは、あの人にお世話になっているからだ、ああいう出来事があって、あのときが人生の分かれ目だったというようなことが分かってくるわけです。そうした時にそのことを未来に向けて、自分も何かお役立ちをしていこうという意識に変わってきます。過去から逃げず自分を見つめていく。この内観はやや難しいかもしれません。しかし、異体験は誰でもできる。今日からでもできる。これを是非やってみてください。異体験を一年間ほど続けてみるとご自分が変わったことを実感できると思います。

 行動変化のプロセス
次に行動変化のプロセスについて申し上げます。先ほど少し触れましたが、人間は頭の中で変わったと思っているだけではだめです。行動や言動が変わることによって初めて変わったということになるのです。そのために、行動変化にもいろいろメカニズムがありますが、まず大事なことは「気付く」ことです。私に言わせると、気付かないことにはどうしようもないです。気付くというのは、子供のときは親から言われ、友達から言われて気付くことがありますが、年をとってくると周りが言わなくなってしまう。誰も言わない。女房も言ってくれるかどうか。そういう感じで誰も言ってくれなくなる。そのとき、自分に気付く能力がないと成長力が鈍化するのです。まず気付く能力を身につけたいのです。
次に変えようと意識して行動することです。これは意識化と言います。次にその行動を繰り返す。継続する。そうしますとその行動が習慣化する。そして無意識化していきます。習慣というのは無意識の行動です。異体験をするとこのプロセスに気付きます。自分が気付いてどんどん成長していけるということです。
次に性格、価値観、行動についてです。性格の大本に気質があります。私は長年、この分野の研究をしてきましたが、性格は変わらないのではないかと思っています。性格には先天的性格と後天的性格があります。三つ子の魂百と言われています。先天的性格は遺伝子レベルが多いですから、性格はなかなか変わらないです。先天的な性格はそのまま認めて、後天的なもの、つまり学習して得たものを変えていきたいのです。これは価値観という観点から考えるとわかりやすいと思います。学校、友達、家族、社会生活、地域、そういったものの中にはいろいろな価値観が存在します。その価値観でもって人間は行動します。人間は自分が大事だと思うことに向けて行動するのです。自分が大事だと思っていないことは行動しない。つまり価値観の優先順位があるわけです。意識改革というのは、価値観の優先順位を変えることなのです。
つまり古い価値観を捨てるということもありますが、新しい価値観が入れば、古い価値観が自然に捨てられる。それを私は価値観の新陳代謝と言っています。人間の身体も新陳代謝しているでしょう。死滅細胞をどんどん出していきます。それと同じことです。異体験をすると新しい価値観が入ってきて、古い価値観が捨てられます。そこで行動が変わる。性格を変えようとしているのではありません。性格を変えようということは非常に危険だと思います。その人の特性、持ち味を生かしていくことが大事です。

 価値観
価値観というのはいろんなものがあります。人間観、組織観、あるいは仕事観、人生観、いろんな価値観があります。ただこういうことは日頃言わないだけで、必ず学習して人それぞれの価値観を持っています。組織って一体どういうものか、人間ってどういうものか、人生ってこういうものかとかみんな思っています。死生観、宗教観についても同様に思っているものがあります。
死生観というのは非常に重要です。生老病死という言葉があります。どう生きて、どう年をとって、どう病気と付き合うか、どう死んでいくか。それなのです。4つの言葉です。多くの人は生から死を見ています。私はずっと価値観を研究してきていますので、死から生へ逆方向からみる、死から生を見てみる。そういうことをやっていくうちに、「納棺夫日記」という本に出会いました。これは文春文庫で六百何十円の本です。死んだ人を納棺するということです。その本を読んで、原作者の青木新門さんという人と今から数年前に出会って、一緒になっていろいろなことをやってきました。「納棺夫日記」を基にしてつくられたのが「おくりびと」という映画です。主演のもっくん(本木雅弘)は28歳のときに青木新門さんと接触して44歳で映画ができた。死生観というのは非常に重要な考え方で、是非、「納棺夫日記」を読んでみるといいですね。私も研究所の5周年記念では青木新門さんをお招きして講演会をやりました。

 組織をどう捉えるか
次に組織をどのように捉えるかということです。私は次のような組織観で仕事をしています。それは、組織の実態は20人ほどの対面小集団の連鎖ということです。例えばトヨタは7万人の組織です。7万人の組織で働いている1人の作業者がいるとすると、7万分の1になってしまう。ところがそうではない。トヨタという会社であっても20人ほどの職場集団の連結体です。連合体だと考えているから、自分で組織を動かせるということなのです。組織の歯車にならないわけです。
それからこれはとても大事なことですが、組織というのは自己実現を社会実現に転換する変速機であるということです。私が今たった一人でやっているようなことでも仲間がいる。グループがないと仕事はできないです。結局、こうしたいという夢は組織があるから社会実現に転換できるのです。組織をそういうふうにとらえていくと組織とのつき合い方が上手になります。組織を動かす原動力になります。

 私たちが目指すこと
最後に3点お話させていただきます。まず、志を持つということ。野心と志は違います。野心というのは、自分が何か一旗揚げたいというようなものがありますが、志というのは、周りをよくしたいという考え方です。あるいは世の中、社会をよくしたいという考えです。幸せというのはみんな求めています。私も長年、人を見てきましたが、周りを幸せにする人は、自分自身も幸せになるということです。ですから、自分だけが幸せになろうと思っていてもなかなか幸せになれません。周りをよくしたい、それで自分がよくなる。志というのは周りをよくしたいということです。そういう考え方ができている集団が強いと思います。
次に足元から変えることです。私も改革をやっていますから、天下国家を変えたいと思うのです。もちろん日本の国を変えたいと思います。しかし私たち一人一人がやる改革というのは足元からの改革なのです。伝教大師最澄という人がいました。その人は一隅を照らすという言葉を残しています。自分の周りを照らす。あっちこっちで照らす人が増えれば、日本全体が明るくなるという考え方です。「一燈照隅、萬燈照国」と言います。私は日本の国をよくするためには一人一人が自分の足元を変える。組織で言えば、20人の対面小集団から変えていくことから始めていくことで、誰でも改革に参加できると思います。今は改革の時代なのです。だから誰でも、一人一人が、みんながそういう気持ちになって日本をよくしよう、いい国にしよう、そして次の世代の人たちにこの国をバトンタッチしていこう、そういう考え方を持ったとき、この国はすばらしい国になると思います。

最後の三点目、自分が変わるということです。過去と他人は変えられない。未来と自分は変えられるはずです。一番難しいのは女房を変えることです。他人、部下を変えようとか、上司を変える、本当に難しいと思います。だから自分が変わる。これはできることです。一番怖いのは自分が固定化してしまうこと、惰性の軌道に入ってしまうことだと思うのです。ですから自分が変わっていく。これは必ずできることです。私たちはこういったことを目指しながら世の中を変えていきたいと思います。

 おわりに
四街道市の皆様とこうしてご縁ができました。私は今までこういった講演をビジネスとしてやってきましたが、来年以降は私が進めている五感塾などを一般公開していきます。ですから皆様、よろしかったらどうぞ参加してください。参加者は割り勘です。沖縄、佐渡、あるいは岡崎、米沢、伊東などいろんなところでやります。ホームページで紹介していきます。自己負担分、自費分のみでの参加です。
またどこかでお会いできることがありますようにと願っています。
それではご質問を承って、お答えして終わりにしたいと思います。何でもいいです。
どうぞ。

質疑応答
Q 
大変貴重なお話ありがとうございました。非常に時間が短い中に非常に中身の濃いお話で、私、全部わからなかったのですが、中でも1つアメリカ的経営、プランドウチェックアクション、先生は、これはやや日本的な風土には合わないのではないかというようなことをおっしゃっておりまして、See−Think−Plan−Do、これをお話いただいたのですが、非常に目からうろこといいますか、新鮮な思いで聴いておりました。というのも、私どもいろんなところで受けている研修がPDCAの考え方で、これが私も個人的にはどうも体質に合わないなと思っておりまして、例えば日本の歴史的ないろんな武将ですとか、さまざまな人物がおります。そういった人の経営の手腕等を見ていきますと、必ずしもPlan−Do−Check−Actionではないし、日本の風土に合わないものも公務員改革ですとかいろんなところで、いわゆるトップダウンできています。この日本的経営のSee、Think、Plan、Doというのは今どのくらいの会社で、どういうふうな形で見直されて、どういうふうに実現されているのか、その辺を少しご説明していただけますでしょうか。

 企業の改革だからどっと一遍にやることはできません。したがって、ある部署からやっているというところが多いですね。例えばイオン、オリエンタルランド、帝人グループ、あるいはソニーでもそういうものにもう一回戻そうという動きがあります。大組織の変革というのは、全社的に一つの色に染めて変えるということはなかなか難しいです。気付いて、志した部門長、部長といった人たちが動いてきています。特にこの前、非常におもしろい話がありました。トヨタ自動車のおよそ100人の人が伊那食品について調べたのです。「いい会社をつくりましょう」という本を大量に買い込んで、勉強しているわけです。このことは新聞に出ました。伊那食品は350人の会社です。今までのやってきたやり方が、どこか壁にぶつかり、このままではよくないのではないかと、つまり自覚症状を持っている部局長がいるのです。このことは社長がこうだからというのではなく、部局長が気付く。課長が気付く。そういう人たちが自分の部門ならそれができるだろうということで変えていくのです。そういった動きです。
 先ほど天外伺朗さんの話をしました。天外伺朗さんの本のタイトルを言います。「非常識経営の夜明け」、そういう本があります。インターネットで調べるとすぐわかります。先ほど言いましたSee−Think−Plan−Doというのは、今までのアメリカ経営学の主流から見れば非常識経営なのです。そういったものがこれからもう一回呼び起こされていくということです。ですから、今までの合理的経営から人間性経営といったものがその本に書いてあります。そして、天外さんの考え方ですと、チャップリンのモダンタイムスという映画がありますが、アメリカの経営学をどんどん進化させて、モデルは全部アメリカからやって来ます。アメリカからいろんなものを勉強してきて、それを輸入して、翻訳して日本に入れました。昔はヨーロッパが多かったのですが、戦後はアメリカです。日本はアメリカの1つの州と言われているのです。アメリカ的経営手法でこれまで進んできましたが、ここに来てさすがに、だめになっている会社が多くなってきている。おかしいなと自覚症状を感じる企業が多くなっています。しかも、上に立つ人ではなくて中間の人がそう思う。そういった人が研究して、今新しい動きをしてきているわけです。天外さんによると、それがずっと広がっていくには、あと何十年もかかると言うのです。マネジメント変革というのは、そのほど至難の業なのです。
私は、とても今いい質問だと言いますのは、先ほど言いました20人単位の小集団で、気付いた人が自分の部署だけでもそういうことでやろう、ということにつながっていくということなのです。私が後で小林茂さんの文献、See−Think−Plan−Doというのはなぜ大事なのかという文献を多田さんに送っておきますので、ぜひ皆さんで共有していただきたいと思います。

 先ほどちょっと五感塾の話がありましたので、どういった活動をしているのかという具体的なご紹介をいただければと思います。

 五感塾というのは社会人教育です。教育というのは学校教育と家庭教育と社会教育とありますが、企業人の教育というのは社会教育の分野なのです。ずっといろいろやってきて、もう四十何年やってきて、行き着いたところが五感塾なのです。結局、人間の脳というのは新しい脳、新皮質の新しい脳とそれから大脳辺緑系という古い脳があります。ところが戦後教育というのは大脳新皮質で知識を増やすことに特化してきました。左脳と右脳という分け方をすれば、「左脳肥大、右脳縮小」のような状況なのです。ですから感じる力、直感力とか、いわゆる勘といった能力はどんどん下がってしまっている。予感、予知をする能力が低下してきている。私はこれまでビジネスの世界で強くそう感じてきました。結局、古い脳、五感をもう一回取り戻す必要があるのではないかという結論に至ったわけです。とにかく教室でいくら勉強しても人間の意識は変わらない。したがって、現場へ行こうというのです。現場へ行って、私は2つのことを感じています。1つは、日本は本当に捨てたものではない。その地域には必ず志のある人がいて、その地域をよくしようと、一燈照隅で努力している人がいるわけです。どんな地域にも。まずそういう人を見つける。その人の日常活動を見る。そうすることによって我々ビジネスマンが、ああ、こういう人がいるのだ。こういう志を持って地域のために働いているのだということで影響を受ける。それからもう一つは、その地域独自の文化がある。四街道市にだって他に誇れる、うちにしかないのだという文化があるでしょう。それを体験して感じるのです。現場で。対峙するわけです。そうすることによって日本のよさ、日本はアメリカ化しているところがありますが、日本だってまだまだ美しいものが残っている。日本人が自信を取り戻すということです。
その地域のプロデューサーを見つける。私たちがやりましょうという人を見つける。私たちは地域のことはわからない。地域の人が2泊3日、あるいは1泊2日のプログラムを作る。その人は五感を活性化する場所を見つけようとするわけです。自分の地域をもう一回深く見るわけです。そして、どういうプログラムにするか考える。四街道であれば、もっとみんなに知らせる方法があるのではないか、こういう文化を見せたらもっと広がりを見せるのではないかとか。そして私たちと連携するのです。40人も50人も連れていかない。最大で25人。25人連れて行きます。そして、その地域の人と交流して、そこのうまいものを食べて、懇親会をしています。それが五感塾です。
今、沖縄の普天間の問題が起きているでしょう。私たちもよく行くのです。普天間へ。普天間に沖縄国際大学というのがあります。そこの教授と提携しています。ヘリコプターが落っこちたところとかに行って、屋上から見たりします。それからチビチリガマというガマがある。ガマというのは洞窟、集団自決をした場所です。そういう現場を見ないで、何か沖縄問題を情報だけで議論する。本当に私はつらいことだと思う。やはり沖縄を知る。現場を見て、自分で見て、そして沖縄のことを考え、アメリカとの関係などを考える。そういうことで私たちの意識のレベルを上げていこうという活動です。
いろいろな地域があります。それぞれの地域の特徴がある。伊東で五感塾をやると必ずトイレ掃除をやります。学校でトイレ掃除をやる。指導者がいるわけです。佐渡というと山の奥のところにいろいろな文化がある。それを見たり。奄美大島というところはすばらしいところ、自然が残っているところ。そういうところへ行ったり。とてもおもしろいですよ。人間は出会いが大事なのです、出会い。いい人との出会い。出会いが人生を変えていくわけです。人生は出会いです。だから、そういうチャンスを、私のホームページなどを調べていただきたいと思います。私もこの場に来たというのはものすごいご縁なのです。不思議なご縁なのですね。それで私の考えをだれかが聞いて、何かを感じ、何かを得られたら必ず社会が変わる。そういう気持ちでやっています。

 佐倉市で研修を担当している者なのですが、やはり今日先生のお話を伺いまして、チームマネジメントの部分なのですけれども、佐倉市でもPDCAサイクルというものを大切にしていまして、階層別の研修でも繰り返しその重要性について研修しているものですから、今日ははっとした部分だったのですけれども、これはSee−Think−Plan−Doが日本経営に合っているのではないかということなのですけれども、もちろんチェックとアクションは大事にしつつ、そのプランに至るまでが、日本経営的な部分では、衆知を集めてみんなで計画するということが大事だということなのでしょうか。

 そうです。結局日本的な文化というのは衆知を集めるということなのです。衆知。みんながみんなで、日本人というのはみんな一人一人が何か考えている。よくしたいと思うわけです。アイデアを持っている。それがばらばらになっているわけです。だからある目標でみんなが考えを出し合って、それをお互いに話し合うのではなく、聞き合う。衆知を集めるというプロセスが大事です。みんなで決めたことはやるんです。一部の人が決めて、だれかスタッフが、当局が決めて、やれとトップダウンで下ろしてもなかなかやらないのです。要するに前工程で、シー、シンクの段階で時間をかけても、ドウの段階はすっと早い。ドウをすれば必ずそこに修正が起きる。プランと現実の乖離が起きる。それは自己修正できるわけです。チェックは大事です。ですから、See−Think−Plan−Do−Checkが基礎でもいいです。See−Thinkを導入しているのは、アイシンやデンソー、大体トヨタ系です。トヨタ系はすごく勉強しますから。もうなくなりましたが、小林茂さんの組織革新研究会、そこにもトヨタの人が勉強に来ました。会社で行けと言っているわけではない。そういう会社というのは非常に自主性が高いから、自分で感じた人は来る。そして、自分のマネジメントで自分の職場を変えています。そういう風土がある、トヨタには。


(この講演は平成21年11月19日、千葉県四街道市の職員を対象に行ったものです。尚、この講演録は四街道市人事課が作成いたしました。)
               

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