職場が元気になるために

☆明るく元気なウインドウシッター

 皆さん、こんにちは。いすゞ自動車の北村三郎です。私は昭和36年にいすゞ自動車に入社し、以来35年間勤務しています。以前は、部長や子会社の社長もしていましたが、今はとうとう追いやられて、窓際族になってしまいました。その窓際族の私が、なんとアメリカの「ウオールストリート・ジャーナル・(経済専門紙)の一面に、「ウインドウシッター」(窓際族の直訳の和製英語)として、紹介されたのです。それも日本のいろいろな業界の窓際族代表の並ぶ中での自動車業界の代表としてです。いざ窓際族になってみると、以前人事部にいた時と違って、いろいろと人が寄ってきて、情報も集まるようになりました。窓際族もけっこう良いものですよ。ここでの参加者には若い方も多いようですので、窓際族になる選択肢はあくまで将来のこととして考えておいて下さい。

☆いかにして大企業病を治したか

 ところで、いすゞ自動車は、5〜6年前から、ガンの末期症状ともいうべき“大企業病”になり、473億円の大赤字を出しましたが、今年の3月には、388億円の黒字になりました。赤字から黒字ませの差引が850億あることになります。
概してモノが売れない時期に、どのようにして、これだけの利益が出たのかという話になりますが、会社がよくなるかどうかは、すべて経営者、特に社長次第です。会社のトップの社長のリーダーシップが一番の基本です。
その中で、窓際族の私が担当した、企業の風土改革の内容についてお話しします。

☆改革と改善

 まず、企業改革の構想の話ですが、よくいわれる“改善”と“改革”とは違います。
“改善”は今まで諸先輩たちが作ってきた仕事の仕組やシステムの延長線の上でさらに良くしていくことであり、“改革”(イノベーション)は、先輩たちが努力して築いてきたシステムや考え方を時にはオールクリア、つまり破壊して、新しいものを構築することです。
企業にとっては、絶え間なき改善だけではなく、改革も必要とされています。その改革の例として、リストラ(リストラクチャリング)やリエンジニアリングが挙げられます。
改革というと難しくきこえますが、要するに企業にある経営資源(ヒト、モノ、カネ)が今までの配分で事業がうまくいっていた状態でダメになった場合には、その限られた資源の配分を新しく組み換えてみることです。この考え方が“戦略の改革”になるわけです。

☆撤退する勇気

 いすゞ自動車は、国内シェア1.8%の位置づけで、GM社との提携によりシボレーブランドを国内生産し、アメリカに輸出していましたが、円高のため採算がとれませんでした。
そこで日本の自動車会社で初めて乗用車の開発・生産から撤退しました。
当社の場合は、既に85%、次の新車の開発が進行し、投資も終わり、まもなく発売されるという段階で、撤退の意思決定をしたわけです。
登山にたとえれば、山頂に近づいた時に天候が悪くなり、皆登りたい意思があるのにリーダーが危険と判断し、下山するようなものです。このように、撤退を決断するには、大変な勇気が必要とされるわけです。

☆リマインディング(意識改革)

 いすゞ自動車の場合は、乗用車から撤退したからといって、従業員を一人も辞めさせずに他の分野で有効に活用し、再建しました。
世間でいう“リエンジニアリング”ならぬ“リマインディング”を行ないました。
昭和20年代からバブル崩壊の1990年代までの日本の産業は、一斉に“右肩上がり”の時代であり、人材教育面でも、思考パターンの標準化を図ることにより、作業効率を高める仕組に適した人材を育ててきました。
ところが、バブル崩壊に伴い、経済情勢が一変し、世界各国から安くよい品物が入ってくるようになりました。(競争原理からいっても)これからの日本の企業は創造的でないと生き残れません。そのためには、創造性の高い社員を育てることが急務なのです。
戦後50年間に我々が営々と築いてきた“日本株式会社”の意識を変えなければならないのです。しかし、会社の職制を通じて“トップダウン”でできる“戦略”や“しくみ”の改革と比べて、“意識”の改革ほど難しいものはありません。なぜなら、意識改革とは、一人ひとりの社員自らが行なわなければならないからです。ビジネスマンたるもの、いろいろなことを知っていて意識を変えても、行動に現れないと価値がありません。

☆企業の風土改革

 “風土”とは「役員・社員の一人ひとりの意識・行動の集積」と定義できます。(よくいわれる、“社風”“体質”“企業文化”という語句も、ここでは“風土”と同意とみなします)企業風土が、世の中の状況に合っていればよいのですが、対応しきれなくなった時こそ“意識改革”が必要なのです。
いすゞ自動車では、正直いって5〜6年前は社員は経営者を信用していなかったと思います。
大企業病が末期ガン状態になり、社長が変わり、もう後がないので思いきってやってみた結果、しだいに治ってきました。死の淵から生還し、ひとまず退院し、ようやく人並みの状態になれた段階といえます。
何をするにも、まず目的をはっきりさせることが肝要ですが、当社で風土改革をする際には、“社員の幸せ”のためにやるんだと訴えました。すなわち、個性、発想、関心が社員一人ひとり違っていることをまず認めた上で、それぞれのアイデアを自由に出し合い、お互いに吸収していける、そんな活性化した職場にしようと呼びかけました。
そして、各職場の活性化が、ミクロの改革になり、マクロの改革につながっていきます。まず自分の足元から始めましょう。いろいろと意見を出し合い、大いに楽しく仕事ができれば、それが社員の“幸せ”になります。また、そういう会社は、血のめぐりのよい、市場環境の変化にどんどん対応できる体質になります。(その際にも“会社のために”などというとシラけるので、“自分のために”やるべきです)

☆大企業病の治療法

 ここでは大企業病の診断の仕方はカットして、大企業病の治療法について説明します。
今までにあらゆる方法で手を尽くしてきましたが、効果がありませんでした。薬にたとえれば、いすゞ自動車は市販の新薬をすべて投薬したものの、体質に合わずアレルギー症状を起こしたため、今度は自分たちで漢方薬を処方し服用することにしたわけです。
ここで一つの漢方薬を紹介します。
これは私が会社の制度を利用して、4週間のリフレッシュ休暇をとった時のことです。
日本全国にいる学生時代からの友人66人を訪ね歩いて感じたのは、人間には運の良い人、運の悪い人がいるということでした。人にはそれぞれ“運命”や“天命”という、どうにもならない部分はありますが、ある程度努力して「運を呼び込むための原理原則」のようなものがあるのではないかということに興味を持ちました。

☆ツキをよびこむための研究

 いろいろと調べていくと、将棋の米長邦雄氏の著書「人間における運の研究」(渡部昇一氏との対談)に、ツキをよびこむための方法が、次のように書いてありました。
運の神様は女神である。運命の女神に微笑んでもらうためには、まず笑顔、ついで謙虚であることと書いてありました。そしてプラス発想の心の状態を維持できれば良い笑顔になるというのです。
本居宣長の“言霊(ことだま)信仰”にもあるように、言葉が人に影響を与える力があるとすれば、ブラス発想的な言葉を口にするようにすることです。プラス発想的な言葉が癖になって出てくるようになれば、発想も自然とプラス思考になり、人も集まり、運がついてくるのではないかということのようです。

☆プラス発想の社員をふやせ

 そこで、いすゞ自動車の風土改革では、とにかく、社員にプラス発想をする癖をつけてもらうことを心がけました。ミニコミ紙や職場集会での対話など、プラス発想の大切さを社内のあらゆる場で力説しました。
プラス発想をする社員が多くなればなると、多くの社員に良い運がつき、会社全体に運がついてくると信じたからです。
プラス発想で皆が協力しあい、職場が活性化していく中で、組織の型も、ピラミッド型から文鎮型へと変わってきており、さらにはアメーバ一型になってくるでしょう。
この型は、“ハイパーエンパワード”ともいい、リーダーの下で個々の社員が自立したものになっており、日本でもあと10年くらいで、この形態に移行していくでしょう。
これからの時代の組織のリーグ一に求められる本質とは、他者を助けることです。(この場合の他者とは、部下、同僚、上司、顧客、関連部署などが該当します)また、“助ける”といっても、いろいろな行為があります。主なものは次の3つです
@ガイディング(方向を示す)Aコーチング(できるように指導する)Bエンカレッジング(励ます)特にBは、パーソナル、つまり一人ひとりに対する態度や言葉が必要です。これからのりーダーは人間通でなければだめです。

☆右手の法則・左手の法則

 今までは、利き腕(右手)だけで企業を経営してきた時代といえるでしょう。
つまり、徹底的に効率を追求し、秩序や統制を重んじ、本社主導型で(中央集権的に)公式(フォーマル)に意思決定を下してきたわけです
しかし、これからは、左手が必要になってきました。左手とはすなわち創造性のことです。従来の効率・統制の延長線上からは創造性は生まれません。皆の違う個性を尊重し、いろいろな物の見方を組み合わせることで、創造性は生まれるのです
これからは、右利きの人の左脳(データ、論理)だけでなく、左利きの人の右脳(無意識、ひらめきなどの潜在脳)の世界の考え方もバランスよく必要とされてきます。

☆未曾有の変革期の中で

 1975年から2025年の50年間は、人類史上で稀な変革期になると思います。
そういう時代の中で、真の改革者になれる人は、自分自身が絶えず変わり続けられる人です。価値観を固定化させずに、絶えず情報を集め、どんどん人とつきあうことが大切です。自分が変わることで、相手も変わってきます。
ですから、まず自分自身を変えることに努力をしてください。一人ひとりの方にそれぞれ変革者として頑張っていただきたいと思います。
ご静聴ありがとうございました。

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