研究所からの情報提供(平成16年4月15日発行分)1 普段着の生活に触れる
3月31日から4月3日まで大分県の臼杵市と久住町を訪れました。訪問の目的は「スローライフ」を体感するためです。ご一緒したのは新妻健治さん(イオン労組中央執行委員長)と根本孝さん(明治大学教授)です。現地では臼杵市役所の山田朝夫さんにお世話をいただきました。山田さんは自治省(現総務省)のキャリア官僚だったのですが、志願して町役場(久住町)に出向しました。山田さんがなぜ、そのような道を選んだのかは「東大卒、官僚、市役所勤め、“流しの公務員”が行き着く先は」を読むとよくわかります。久住町で6年間にわたって新風を呼び込んだあと、昨年4月、臼杵市から要請されて市民生活部理事として着任し、今年の4月1日、「地域再生プロデューサー」という役職が発令されました。お役人で「プロデューサー」という役職は全国で初めてではないでしょうか。
4月1日、臼杵市内の見星寺(臨済宗)で毎月1回、定例で開催されている「早朝座禅会」に参加してみました。そこには市民の有志たちに混じって後藤市長も参加していました。後藤市長は長らく林業のお仕事をされていたそうで、「樹木を育てるのには長期的な視点が必要。スローライフというのは将来に向けた現在の生活のあり方だと思う。今の生活の仕方が年齢を重ねてからの人生、また子供など次世代の人たちの生活にも影響を与える。毎月1回、座禅しているのはスローライフの一つの実践」と語っていただきました。後藤市長は着任してから七年間で臼杵市を大きく変革させた方です。後藤市長がどのような方法で改革を行ったかを知るには、「フロム市長トゥ市民」のご一読をお勧めします。
4月2日、久住町に移動しました。カーナビに頼っても目的地に辿りつけないのではないかと思うような広大な地域でした。山田さんの案内で酪農家の志賀善弘さん、フラワーセンターの野上善孝さん、湧水茶屋の河野公令さんを訪問し、「スローライフ」の一端に触れさせていただきました。志賀善弘さんは牛の糞尿のリサイクルによって環境を保全しようとしています。野上義孝さんはトキワデパートの園芸部に勤めていましたが、8年前に自分のフラワーガーデンを持ちたいという夢を叶えるために久住町に移ってきました。河野公令さんは久住町の地方公務員として勤めていましたが、定年前に久住町の山奥の涌き水の源流の地で豆腐料理のお店を始めました。旅をしていちばん印象に残るのは、その地域に生活している人たちの普段着の生活に触れることです。
公民館「ふれあいの湯」で私たち4人が地元の人たちと一緒に入浴できたこと、嬉しい計らいでした。私の少年時代、仲間たちは皆、裸のつき合いでした。
朝、昼、晩の食事のたびに、労組委員長、キャリア官僚、大学教授、企業戦士の生き残り、という変わった組み合わせで「寄り合いミーティング」を開くことができました。お互いに思いは同じなのですが、ものの見方、意見がちょっぴり違うのが楽しかったです。
近い将来、再び仲間を誘って臼杵市と久住町を訪れてみたいと思っています。
山田さんのプロデュースのお陰で学びの詰まった楽しい体験ができました。地域再生プロデューサーとして臼杵市で一仕事を成し遂げたあと、“流しの公務員”の山田さんは、どこを流すのでしょうか。今後、どのような作品をプロデュースしていくのか、楽しみに見守りながら応援していきたいと思います。
(写真は左から山田、北村、後藤、新妻、根本「敬称略」)
2 バランスを大切にする経営
最近、企業が社会(世の中)に悪さをする事件が相次ぎました。メーカーの場合、品質不良が発生するとサービス部門が個別に対応しながら、その間に設計変更をして品質を改良する、という対応が行われます。どのようなケースでも「小火(ぼや)が大火事になるか、小火(ぼや)のうちに消し止められるか」というトップ(責任者)の判断が問われます。トップ(責任者)が判断するのに必要な正確な情報が伝わるかどうか、という企業の体質(風土)もあります。
行き過ぎた利益優先の判断が行われると取り返しのつかない問題に発展していきます。
企業と社会(世の中)とがよい関係にあることは継続して企業が発展していく絶対条件です。優れた会社は社会に貢献する(社会貢献)、並の会社は社会に迷惑をかけない(企業倫理)、ダメ会社は社会に害毒を流す、ということでしょうか。
以前、「風土改革プロデュース研究会」が「豊かな根、豊かな実」という冊子を出したことがあります。「豊かな実」というのは企業の継続的な発展、「豊かな根」というのは、株主の利益、従業員の働き甲斐、お客様の満足、社会(世の中)への貢献など、地面の下に根がバランスよく張っていることを意図したものでした。
「もっといい会社、もっといい人生」(河出書房新社)で著者のチャールス、ハンディー氏はこれからの企業は社会(共同体)、顧客、取引先、社員、株主の全方向をみてバランスよく根を張ることの大切さを説いています。チャールス、ハンディー氏は英国人で欧州を代表する経営思想家であり未来学者です。オックスフォード大学を卒業したあと、シェル石油に入社し幹部候補生としての道を歩み、その後、経営学者に転身しました。今ではロンドン郊外でスローライフを楽しみながら、執筆活動を続けています。
私はハンディー氏の次のような見解に賛同し、共感しています。
日本にも英国にも米国にも、良い会社と良くない会社、強い会社と強くない会社がある。経済風土が違っても、強い会社は似ているし、だめな会社にも共通点がある。強い会社は、株主も社員も顧客も地域社会もすべてをバランスよく満足させている、そんな会社になるには、理想を高く掲げて前進し続けるしかない。
この本は初めから終わりまで通読するのは大変かもしれません。(もちろん人によって違うのですが。)
私が勧めるこの本の読み解き方は次のようなものです。まず著者の序文を読み、ついで翻訳者(埴岡健一氏、日経ビジネス副編集長)のあとがきを読むと、ハンディー氏が唱える考え方の概要が掴めます。もし現在の企業のあり方に問題意識を持っているならば、その部分を読むだけで、企業経営に関する意識に変化をもたらし、長期的にはビジネス行動に影響が出てくる可能性があります。座右の書という言葉がありますが、時間のあるときに、本の中身の「効率追求の落とし穴」「自分の夢と社会の夢の両立」「ほかの人なしに自分もない」「社会にとっての良き市民としての会社」「企業と社会と個人の理想的関係を目指して」など興味のあるところを拾い読みするといいと思います。■トップページに戻る■